2017.05.24 | ニュース

糖尿病で少しお酒を飲んでも血糖値は上がらない?

文献の調査から
from Diabetic medicine : a journal of the British Diabetic Association
糖尿病で少しお酒を飲んでも血糖値は上がらない?の写真
(C) Zsolt Biczó - Fotolia.com

糖尿病の診断だけを理由に禁酒する必要はないと考えられています。飲酒の影響を改めて確認するため、これまでの研究から出ているデータの調査が行われました。

アメリカ糖尿病学会による糖尿病治療の推奨では、飲酒について2か条が示されています。

参照:http://care.diabetesjournals.org/content/suppl/2015/12/21/39.Supplement_1.DC2/2016-Standards-of-Care.pdf

  • 糖尿病があり飲酒習慣のある成人は、ほどほどの飲酒にとどめるべきである(成人女性では1日あたり1ドリンク、成人男性では1日あたり2ドリンクを超えるべきではない)。
  • 糖尿病患者はアルコールを消費することで、遅れて出る低血糖のリスクが増加するかもしれない。特にインスリンまたはインスリン分泌促進薬で治療中ならば。遅れて出る低血糖の認識と管理に関する教育と意識には正当性がある。

1ドリンクとは飲酒量の単位で、およそ14gのアルコールに相当します。ビールならおよそ350mlで1ドリンクです。

飲酒は血糖値を上げる影響よりもむしろ、一次的に血糖値が下がりすぎる低血糖の危険性について注意が促されています。

糖尿病治療中の人の低血糖は、重症ならば命に関わる、注意するべき状態です。薬の作用などにより一次的に血糖値が下がりすぎてしまうことで、冷や汗・震えなどの症状が現れ、特に重症の場合は意識がぼんやりするなどの危険な状態に至ります。

 

イギリスのオックスフォード大学の研究班が、文献からデータを集める方法により糖尿病患者で飲酒が血糖値のコントロールに与える影響を調べ、糖尿病専門誌『Diabetic Medicine』に報告しました。

 

調査により次の結果が得られました。

9件の短期間の研究からプールしたデータにより、アルコールを飲まない人に比べて16-80gのアルコールを飲んだ人で(中央値20g、2.5ユニット)、飲酒後0.5時間、2時間、4時間、24時間時点の血糖値には差がないことが示された。5件の中期間の研究からプールしたデータにより、飲酒しない人に比べて、1日あたり11-18gのアルコールを4-104週間飲んだ人で、研究終了時点で血糖値またはHbA1cに差がないことが示された。ランダム化された群間で、低血糖エピソードの数またはアルコール離脱症状の率の差を示す証拠はなかった。

見つかった研究の中で、飲酒と血糖値に次の関係を示すデータが得られました。

  • 糖尿病患者が20g前後のアルコールを飲むことで、飲酒後0.5時間、2時間、4時間、24時間時点の血糖値は、飲まなかった人と統計的に差がない
  • 糖尿病患者が1日あたり11-18gのアルコールを4-104週間飲み続けることで、血糖値とHbA1cには飲まなかった人との差がない
  • 少量の飲酒によって低血糖が増えることは統計的に確かめられない

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は糖尿病の検査値です。検査の直前数か月程度の血糖値を反映します。血糖値は食前・食後などでかなり変動するので、治療継続中の状態の変化を計るにはHbA1cもよく使われます。

研究班は「この結果から、糖尿病のある人は少量のアルコールを飲むことを避ける必要がないという現在のアドバイスは変える必要がないことが示唆される。ただし1型糖尿病患者にとってのリスクは不明のままである」と結論しています。

 

糖尿病のある人は少しの飲酒をしても血糖値などに影響がないという報告を紹介しました。

肥満などと関係が深い2型糖尿病の治療では、食事制限などが重要になります。食習慣を変えるのはなかなか大変なことですが、1日にビール350ml程度の飲酒を楽しむことができると思えば、少しは楽しむ余地もあるかもしれません。

もちろん「少しだけ」と思って飲み始めたのが大酒になったり、お酒を飲むことで食べるものも増えてしまったりすれば悪影響が出る可能性もあります。また、低血糖は深刻な危険の可能性があるため、統計的に確かめられないほどまれだとしても、十分に注意する必要があります。

さらに飲酒は脂質異常症アルコール性肝障害などにも影響があるため、血糖値以外の異常を指摘されている人などではそれぞれの状態に応じた注意が必要です。

とはいえ、どの程度なら生活を制限しなくてもいいのかを考えることも、研究の大切な役割です。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Short- and medium-term effects of light to moderate alcohol intake on glycaemic control in diabetes mellitus: a systematic review and meta-analysis of randomized trials.

Diabet Med. 2017 May.

[PMID: 27588354]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。