2017.03.03 | ニュース

乳がん手術は縮小できる?センチネルリンパ節生検、放射線療法の効果

文献の調査結果

from The Cochrane database of systematic reviews

乳がん手術は縮小できる?センチネルリンパ節生検、放射線療法の効果の写真

乳がんは脇のリンパ節に転移しやすいため、リンパ節をまとめて取り除く手術方法が使われています。この方法は再発予防が目的ですが、腕の腫れを引き起こす場合があります。リンパ節を取る範囲を減らすことはできるのでしょうか。

乳がんの手術では、乳房を切り取ることでがん無制限に増殖して周囲へ広がる、異常な細胞(がん細胞)による病気。塊となって腫瘍を作る固形がんと、白血病のように血液中にがん細胞が存在する血液がんがあるを体から除きますが、がんの転移がん細胞がリンパ液や血流にのって、リンパ節や他の臓器にまで広がること。転移がある場合は進行がんに分類されることが多い・再発についても考える必要があります。

リンパ節体全体にある、免疫を担当する器官の1つ。感染や免疫異常、血液のがん、がんの転移などで腫れるは全身にたくさんある器官です。乳がん周りのリンパ節に転移しやすい性質があります。特に、腋窩(えきか;脇の下)のリンパ節が転移しやすい場所です。手術のときにリンパ節転移がんが周りのリンパ節に転移している状態。通常、がんは周りのリンパ節に転移した後、さらに遠くの臓器に転移する(遠隔転移)を取り残してしまうと再発の原因になります。

正常に見えるリンパ節の中にも少数のがん細胞が入り込んでいる場合があります。このため、がんの手術にあわせて、一定範囲のリンパ節をすべてまとめて取り除く方法があります。これをリンパ節郭清(かくせい)と言います。

 

腋窩リンパ節郭清は体に負担があります。リンパ節がなくなることにより、腕から胴体に流れてくるリンパ液の流れが悪くなり、腕が腫れてむくんだり痛んだりする「リンパ浮腫体の部位がむくんだ状態のこと。血液から水分が周囲に漏れ出ることで、全体が腫れてむくみが生じる(ふしゅ)」が引き起こされることがあります。

 

リンパ浮腫などの負担を減らす目的で、切り取る範囲を減らしつつ、腋窩リンパ節郭清と同等の再発予防効果を目指す治療法が模索されています。

最初に少数のリンパ節を取り出してがん細胞が入っているかを調べ(サンプリング)、結果によっては腋窩リンパ節郭清を行わない方法があります。また、検査でがん細胞が最初にたどり着くリンパ節(センチネルリンパ節)を特定して取り出し、実際にがん細胞があるかを調べる方法もあります(センチネルリンパ節生検病気(病変)の一部を採取すること。また、それを顕微鏡で詳しく調べる検査のこと。病気の悪性度の確認や、他の検査では診断が難しい病気の診断のために行われる)。

 

イギリスの研究班が、腋窩リンパ節郭清とほかの治療法に対して、これまでに報告されている研究結果をまとめました。

研究班は、文献データベースを検索し、過去の関係する研究報告を集めました。手術可能な乳がんのある女性に対して、治療法をくじ引きで割り当てる方法により、腋窩リンパ節郭清とリンパ節サンプリングまたはセンチネルリンパ節生検を比較した研究を調査対象としました。

 

採用基準を満たす26件の研究が見つかりました。

集まった研究データから次の結果が得られました。

  • 腋窩の手術を行わない場合と比べると、腋窩リンパ節郭清を行ったほうが局所・領域再発が少ないが、生存率は統計的に違いがない。
  • 腋窩リンパ節サンプリングでは腋窩リンパ節郭清と生存率に統計的な違いがない。サンプリングのほうが局所再発が多いかどうかは確かでない。リンパ浮腫はサンプリングのほうが少ない。
  • センチネルリンパ節生検では腋窩リンパ節郭清と生存率に統計的な違いがない。局所再発、局所・領域再発の違いは確かでない。リンパ浮腫はセンチネルリンパ節生検のほうが少ない。
  • 腋窩の手術をせず放射線治療主にがんに対して用いられる、放射線を用いた治療法を行った場合、腋窩リンパ節郭清よりも生存率が低い。

これらの結果から、研究班は「乳がん患者において、臨床的に・かつ放射線医学的に腫瘍細胞が増殖してできるこぶのようなもの。あまり悪さをしない良性腫瘍と、体に強い害を与えることの多い悪性腫瘍に分類される進展のない腋窩に対して腋窩リンパ節郭清を行うことはもはや許容されない」と結論しています。

 

乳がんの手術でサンプリングやセンチネルリンパ節生検を行うことにより、生存率に差がない範囲で腋窩リンパ節郭清を減らすことができたという調査結果を紹介しました。対して放射線治療では腋窩リンパ節郭清の代わりにならないという数値も示されました。

実際にはひとりひとりの患者で全身の状態などが違うため、一律に「腋窩リンパ節郭清は不要」とまでは言えませんが、この結果に当てはまるような状況であれば参考とすることができます。

日本乳癌学会の『乳癌診療ガイドライン治療や検査の場面において、医療従事者や患者が、適切な判断や決断を下せるように支援する目的で体系的に作られた文章のこと』2015年版でも、「臨床的腋窩リンパ節転移陰性乳癌において、センチネルリンパ節生検で転移陰性と診断された場合には、腋窩リンパ節郭清の省略は強く勧められる。」と記載されています。今回の調査結果はこれと整合するものになりました。

乳がんは手術で取り切れればほかのがんに比べて長期の生存も期待しやすいがんです。最近は乳がんの手術後の症状などに対するケアも重視されています。リンパ浮腫が出てしまうと、特に重症の場合は生活の妨げになります。手術方法の中でも、このように検証を積み重ね、より負担の小さい方向を目指して進歩が続いています。

執筆者

大脇 幸志郎


参考文献

Axillary treatment for operable primary breast cancer.

Cochrane Database Syst Rev. 2017 Jan 4.

[PMID: 28052186]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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