乳がん手術は縮小できる?センチネルリンパ節生検、放射線療法の効果
乳がんは脇のリンパ節に転移しやすいため、リンパ節をまとめて取り除く手術方法が使われています。この方法は再発予防が目的ですが、腕の腫れを引き起こす場合があります。リンパ節を取る範囲を減らすことはできるのでしょうか。
乳がんのリンパ節郭清とは?
乳がんの手術では、乳房を切り取ることで
正常に見えるリンパ節の中にも少数のがん細胞が入り込んでいる場合があります。このため、がんの手術にあわせて、一定範囲のリンパ節をすべてまとめて取り除く方法があります。これをリンパ節郭清(かくせい)と言います。
リンパ節郭清の問題点は?
腋窩リンパ節郭清は体に負担があります。リンパ節がなくなることにより、腕から胴体に流れてくるリンパ液の流れが悪くなり、腕が腫れてむくんだり痛んだりする「リンパ
リンパ節郭清以外の治療法はあるのか?
リンパ浮腫などの負担を減らす目的で、切り取る範囲を減らしつつ、腋窩リンパ節郭清と同等の再発予防効果を目指す治療法が模索されています。
最初に少数のリンパ節を取り出してがん細胞が入っているかを調べ(サンプリング)、結果によっては腋窩リンパ節郭清を行わない方法があります。また、検査でがん細胞が最初にたどり着くリンパ節(センチネルリンパ節)を特定して取り出し、実際にがん細胞があるかを調べる方法もあります(センチネルリンパ節
乳がんに対する腋窩リンパ節郭清とほかの方法の比較
イギリスの研究班が、腋窩リンパ節郭清とほかの治療法に対して、これまでに報告されている研究結果をまとめました。
研究班は、文献データベースを検索し、過去の関係する研究報告を集めました。手術可能な乳がんのある女性に対して、治療法をくじ引きで割り当てる方法により、腋窩リンパ節郭清とリンパ節サンプリングまたはセンチネルリンパ節生検を比較した研究を調査対象としました。
サンプリング・センチネルリンパ節生検で生存率は下がらない
採用基準を満たす26件の研究が見つかりました。
集まった研究データから次の結果が得られました。
- 腋窩の手術を行わない場合と比べると、腋窩リンパ節郭清を行ったほうが局所・領域再発が少ないが、生存率は統計的に違いがない。
- 腋窩リンパ節サンプリングでは腋窩リンパ節郭清と生存率に統計的な違いがない。サンプリングのほうが局所再発が多いかどうかは確かでない。リンパ浮腫はサンプリングのほうが少ない。
- センチネルリンパ節生検では腋窩リンパ節郭清と生存率に統計的な違いがない。局所再発、局所・領域再発の違いは確かでない。リンパ浮腫はセンチネルリンパ節生検のほうが少ない。
- 腋窩の手術をせず
放射線治療 を行った場合、腋窩リンパ節郭清よりも生存率が低い。
これらの結果から、研究班は「乳がん患者において、臨床的に・かつ放射線医学的に
乳がんの手術の負担が軽くなる?
乳がんの手術でサンプリングやセンチネルリンパ節生検を行うことにより、生存率に差がない範囲で腋窩リンパ節郭清を減らすことができたという調査結果を紹介しました。対して放射線治療では腋窩リンパ節郭清の代わりにならないという数値も示されました。
実際にはひとりひとりの患者で全身の状態などが違うため、一律に「腋窩リンパ節郭清は不要」とまでは言えませんが、この結果に当てはまるような状況であれば参考とすることができます。
日本乳癌学会の『乳癌
乳がんは手術で取り切れればほかのがんに比べて長期の生存も期待しやすいがんです。最近は乳がんの手術後の
執筆者
Axillary treatment for operable primary breast cancer.
Cochrane Database Syst Rev. 2017 Jan 4.
[PMID: 28052186]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。