2016.10.29 | ニュース

肌がガサガサ、指も曲がる乾癬性関節炎に「幻の薬」トルツの効果は?

417人の効果を比較

from Annals of the rheumatic diseases

肌がガサガサ、指も曲がる乾癬性関節炎に「幻の薬」トルツの効果は?の写真

手の指などの関節に痛みや腫れを起こす病気に、乾癬性関節炎があります。進行すると骨が変形してしまいます。治療には最近新しい種類の薬が出てきています。ある薬で実際に治療し、効果を見る研究が行われました。

乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)は、皮膚と関節の症状が特徴です。

皮膚の一部に、銀色でガサガサし、表面がフケのように剥がれやすくなる症状が現れます(乾癬)。関節には痛みや腫れ、骨の変形などの症状が現れます。

多くの場合、皮膚の症状が現れて何年も経ってから関節に変化が現れます。関節の症状が出やすい場所は手の指などです。

原因は免疫の異常とされます。うつる病気ではありません。

治療薬として、「生物学的製剤」と呼ばれる種類の薬があります。ここでは生物学的製剤の一種で、最近開発されたイキセキズマブ(商品名トルツ®)の効果を調べた研究を紹介します。

 

日本・アメリカなどから集まった研究班が、乾癬性関節炎に対するイキセキズマブの効果を調べ、専門誌『Annals of Rheumatic Diseases』に報告しました。

この研究では、乾癬性関節炎の患者で、以前に生物学的製剤を使ったことのない人が対象とされました。

417人の対象者が治療法をランダムに割り当てられることによって、薬による効果の違いが検証されました。

対象者は次の4グループに分けられました。

  • イキセキズマブを2週ごとに注射するグループ
  • イキセキズマブを4週ごとに注射するグループ
  • アダリムマブ(従来使われている生物学的製剤)を2週ごとに注射するグループ
  • 有効成分を含まない偽薬を注射するグループ

治療の効果は、ACR20という基準で判定しました。ACR20は、痛みや腫れのある関節の数、患者が自己申告する痛みの強さなどを総合的に評価して、状態が改善したとする基準です。より大きな改善の基準としてACR50、ACR70というものもあります。

 

治療から次の結果が得られました。

イキセキズマブで治療された患者のほうが有意に多くACR20応答を達成し、偽薬群(30.2%)に対して2週ごとの群(62.1%)でも4週ごとの群(57.9%)でも多かった(P≦0.001、 non-responder imputation法)。

治療開始から24週で、基準を満たす改善が得られた人の割合は次のとおりでした。

  • 偽薬のグループ 30.2%
  • イキセキズマブ2週ごとのグループ 62.1%
  • イキセキズマブ4週ごとのグループ 57.9%
  • アダリムマブ2週ごとのグループ 57.4%

偽薬のグループよりも、イキセキズマブを使うグループのほうが高い割合で改善が得られました。

副作用については次の結果でした。

治療由来有害事象はイキセキズマブ群(65.7-66.4%)およびアダリムマブ群(64.4%)で偽薬群(47.2%)より多かった(P<0.05)。

イキセキズマブのグループでも、アダリムマブのグループでも、副作用の可能性がある症状などが見られました。注射した場所の赤みなどの反応が多く起こっていました。

 

この報告で効果が見られたことから、イキセキズマブは近い将来、乾癬性関節炎の治療法として選択肢に加わるかもしれません。

イキセキズマブは日本でも「既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症」を適応としてすでに承認されていますが、実際にはまだ保険診療として使われていません(2016年10月時点)。イキセキズマブの製剤であるトルツ®が8月31日に薬価収載・発売となる予定でしたが、予定された薬価が高い点などが問題視され、異例の発売見送りとなりました。使えるはずだったのに使えない「幻の薬」になっている状態です。

乾癬性関節炎は治療が難しい病気で、さまざまな薬がありますが、大多数の人に有効と言える薬はまだありません。人によっては特定の薬が劇的に効果を現すこともあります。しかし、どの薬が効くかを確実に予想する方法は知られていません。使える薬の種類が増えれば、ほかの薬で効果が十分でない人にとって救いになる可能性があります。

一方、乾癬性関節炎の症状は皮膚の症状が出始めたあと何年も経ってから現れることが多く、乾癬が原因と気付きにくい場合があります。皮膚と関節に症状を現す乾癬性関節炎のことを患者自身も知っておくことが、正しく診断し、早く適切な治療を始める助けになります。

 

トルツ®️は2016年11月に薬価収載および販売開始されました。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Ixekizumab, an interleukin-17A specific monoclonal antibody, for the treatment of biologic-naive patients with active psoriatic arthritis: results from the 24-week randomised, double-blind, placebo-controlled and active (adalimumab)-controlled period of the phase III trial SPIRIT-P1.

Ann Rheum Dis. 2016 Aug 23. [Epub ahead of print]

[PMID: 27553214]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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