2016.08.18 | ニュース

プリン体は無罪かも!米政府機関が調べた痛風治療の研究結果まとめ

文献の調査から

from AHRQ Comparative Effectiveness Reviews

プリン体は無罪かも!米政府機関が調べた痛風治療の研究結果まとめの写真

尿酸値が高いと言われて、食事が心配になっていませんか?アメリカの政府機関が過去の6,000件以上の研究結果を調査し、生活習慣や薬が痛風に及ぼす効果をまとめました。

◆6,269件の文献を調査

ここで紹介する研究は、アメリカの政府機関である医療品質研究調査機構(AHRQ)が、痛風の急性発作時および慢性期の治療について、これまでに行われた研究報告を集めて比較したものです。

研究班は、検索で見つかった6,269件の研究論文とその他のデータをもとに調査を進め、治療によって実際に効果が出た証拠となるデータを集めました。

 

◆食事で尿酸値は下がらず、プリン体制限で症状改善はないかもしれない

集まったデータを証拠として次の結果が得られました。

  • コルヒチン、NSAIDs、ステロイド薬で痛風発作時の痛みを抑えることができる。
  • コルヒチンの副作用による胃腸症状は23%から77%の人に現れる。
  • NSAIDsの副作用による胃腸症状は10%以上の人に現れ、穿孔(穴が開く)などの深刻な事態の例もある。
  • ステロイド薬によって高血糖免疫抑制などの副作用がある。
  • 痛風と診断された人が食事のプリン体、タンパク質、アルコールを減らしたり、体重を減らしたりすることで症状が改善すると言える十分な証拠はない
  • 痛風と診断された人が食事内容、節酒、減量の指導を受けることで尿酸値が下がると言える十分な証拠はない
  • 漢方薬、針治療で痛風が改善するとも、悪化するとも言える十分な証拠はない。
  • 痛風と診断された人が尿酸値を下げる薬を使っても、6か月以内の痛風発作は予防できない
  • 尿酸値を下げる薬の開始から1年後以降に、痛風発作の再発が減少する。
  • 尿酸値を下げる薬とともに低用量コルヒチンまたは低用量NSAIDsを使うことで、痛風発作の再発が減少する。
  • アロプリノール(尿酸値を下げる薬、商品名ザイロリックなど)の副作用により、中毒性表皮壊死症、スティーブンス・ジョンソン症候群などの深刻な皮膚症状が出た例がある。
  • 尿酸値を定期的に測定することが良い結果につながると言えるだけの十分な証拠はない。

 

この結果によれば、尿酸値が心配な人が食事や飲酒を厳しく制限しても痛風予防になるかどうかは確かでないことになります。

ただし、飲酒や肥満は痛風だけでなく多くの生活習慣病に関わっていることもあわせて考えるべきでしょう。

一方、薬による治療が何に効いているのかについても証拠が見つかりました。

痛風が心配でいろいろな対策をしている人は、それぞれの対策が何を目的にしているのか整理してみてはいかがでしょう。

 

◆ヨーロッパ学術団体も【8/22追記】

2016年7月25日に、ヨーロッパリウマチ連盟(EULAR)から痛風治療の新しいガイドラインが出されました。上で紹介した調査とは独立に調査を行った結果に基づいています。

EULARの新しいガイドラインでは、薬を使うべきタイミングなどについて11か条の推奨事項が提示されています。

推奨事項の全体よりも上位の原則(overarching principles)として、体重を減らすなど生活習慣の改善が勧められています。しかし、その中に次の記述があります。

しかし、生活習慣と食事の改善による変化は、尿酸値にはほとんど影響がない。さらに、生活習慣改善が血清尿酸値に与える影響を支持する証拠のレベルは低いことを作業部会は認識している。したがって、この上位原則は主に専門家の主観による。しかし、痛風のある患者において心血管系の併存症の有病率が高いことを考えれば、生活習慣の改善は心血管疾患の予防として実行されるべきでもある。

アメリカの政府機関だけでなく、ヨーロッパの学術団体も生活習慣で尿酸値が改善すると言える証拠は弱いことを認めています。

また、引用箇所の中で「痛風」という言葉が出てきていないことにも注意するべきです。尿酸値が上がっても必ず痛風になるとは限らないので、生活習慣が痛風に結びつくかどうかはいっそう根拠が弱い議論と言うべきでしょう。

生活習慣は心筋梗塞や脳卒中と深く関わっています。節酒・減量などは健康のために大切ですが、痛風のためと言えるかどうかは議論の余地があります。

 

◆ビールにはほとんどプリン体が含まれていない【8/22追記】

プリン体といえばビールが心配になる人は多いでしょう。しかし、ビールにはほとんどプリン体が含まれていません

厚生労働省の資料によると、肉類・魚介類の50gと、アルコール飲料50mlに含まれるプリン体の量は表のとおりです。

  • ちりめんじゃこ 373mg
  • 鶏レバー 160mg
  • いわし干物 153mg
  • 大正エビ 137mg
  • サラミ 60mg
  • 牛もも 55mg
  • ビール(A社)3mg
  • 日本酒 1mg

参照:保健指導における学習教材集(確定版)

※参照した資料では「アルコール100mlあたり」で記載されていますが、50gに近い50mlに換算し、小数点以下四捨五入しています。

ビールに含まれる重量あたりのプリン体の量は、ちりめんじゃこの100分の1以下、ほかの肉や魚と比べても数十分の1程度です。

仮にビールを1リットル飲んだとしても、肉や魚を100g食べるよりプリン体は少ないです。

プリン体とは無関係にアルコールが痛風の危険性を増すという観点から、飲酒は控えることが勧められています。しかし上で紹介したとおり、節酒・禁酒で痛風を予防できるかどうかは、強い証拠がありません。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

2016 updated EULAR evidence-based recommendations for the management of gout.

Ann Rheum Dis. 2016 Jul 25. [Epub ahead of print]

[PMID 27457514]

 

Management of Gout.

AHRQ Comparative Effectiveness Reviews. 2016 Mar.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK356141/

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る