せきぜんそく
咳喘息
長引く咳を唯一の症状とする喘息の一種。それまで喘息と診断されていなくても、咳喘息を発症することがある
4人の医師がチェック 32回の改訂 最終更新: 2024.05.22

咳喘息の治療について

咳喘息(せきぜんそく)とは、アレルギーなどによる炎症で口から肺へと通じる空気の通り道(気道)が炎症を起こして、しつこい咳の出る病気です。以下では咳喘息の治療における注意点や治療薬に関して詳しく解説していきます。

1. 咳喘息治療薬の種類

咳喘息の治療薬には非常に多くの種類があります。まずは日頃の咳症状をコントロールし、咳発作を起こさないようにするための薬剤の種類のうち、しばしば使われるものを列挙します。

  • 吸入ステロイド薬ICS: inhaled corticosteroid)
    • フルタイド®
    • パルミコート®
    • オルベスコ®
    • アニュイティ®
    • キュバール®
    • アズマネックス®
  • 長時間作用型β2刺激薬(LABA: long-acting beta2 agonist)
    • セレベント®
  • ステロイド/長時間作用型β2刺激薬配合剤
    • レルベア®
    • シムビコート®
    • アドエア®
    • フルティフォーム®
  • ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA: leukotriene receptor antagonist)
    • オノン®
    • キプレス®
    • シングレア®
  • テオフィリン徐放製剤(SRT: sustained released theophylline)
    • テオドール®
    • テオロング®
    • ユニフィル®

次に、発作の際に使用する治療薬の種類を列挙します。咳発作で病院を受診した際に使われるような薬剤も含まれます。

  • 短時間作用型β2刺激薬(SABA: short-acting beta2 agonist)(自宅で使用可)
    • ベネトリン®
    • サルタノール®
    • メプチン®
    • ベロテック®
  • ブデソニド/ホルモテロール吸入薬(シムビコート®)の追加吸入(自宅で使用可)
  • SABAネブライザー吸入の反復
  • テオフィリン製剤の点滴静注
  • ステロイド薬の点滴投与

咳喘息でも症状が強く、治療をしてもあまり改善しない場合には、本格的な気管支喘息に準じて、より多くの薬剤を使用していくこともあります。ただし、どんどんと治療を強化する前に、本当に診断が咳喘息で合っているのかどうかを改めてチェックするための検査が追加されることも多いでしょう。

本格的な気管支喘息の治療方針や治療薬に関しては別のページで詳しく解説しているので、上記に無いような治療を受けている方はそちらもご覧ください。

咳喘息の治療薬はどんな仕組みで効いているのか?

咳喘息は、空気の通り道である気管支がしつこい炎症を起こしている状態です。炎症が強いときには気管支が狭くなってしまうことにより咳が出てきます。したがって、気管支を広げる薬である気管支拡張薬、炎症を抑える薬である吸入ステロイド薬、気管支を広げる効果と炎症を抑える効果を併せもったロイコトリエン拮抗薬などが使用されます。咳喘息がどれくらい重症なのか、上記に挙げたような薬がどれくらい効いているか、などによって変わってきますが、治療は基本的には本格的な気管支喘息に準じて行われます。

患者さんの中には多少の咳があってもそれほど困っていない、病院に通う時間が無い、面倒だという理由で、本当にひどい発作を起こした時にしか病院にかからない方もいます。どのようなスタンスで咳喘息治療を考えて、病院に行けば良いのか、解説していきましょう。

咳喘息の治療を考えるうえで理解しておきたい考え方が、気管支の「リモデリング」です。咳喘息では主にアレルギーを原因として、空気の通り道である気管支が炎症を起こします。気管支が炎症を起こすと、気管支の壁は分厚くなり、空気の通り道は狭くなります。こうして咳が出てくるわけです。咳喘息の初期には、この炎症は自然に治まることも多いですが、炎症を繰り返した気管支は壁が分厚いままになり、元の厚さには戻らなくなっていきます。これを気管支の「リモデリング」といいます。リモデリングが進むと、咳喘息も自然には治まらなくなっていきます。つまり、咳喘息症状を放置すると、咳喘息は次第に治りにくくなってしまう、あるいは本格的な気管支喘息になりやすいと考えられます。

では気管支の炎症を抑えて、リモデリングを予防するためにはどうしたら良いのでしょうか?ここで中心的な役割を果たすのが吸入ステロイド薬です。

ステロイドと聞くと、副作用が多そうだとか、怖い薬だというイメージを持たれる方も多いかもしれません。実際に、飲み薬や点滴のステロイドは量にもよりますが、長期に使用する場合は様々な副作用に十分注意する必要がある薬です。

しかし吸入ステロイドは、薬剤を吸い込むことで直接肺にステロイドを届けるので、全身に与える影響は非常に少なく、効果の面で優れている安心な薬と言えるでしょう。吸入ステロイドの副作用を敢えて挙げると、声がれしやすいこと、口の中にカンジダというカビの一種が生えやすい(多くの場合、容易に治療できます)ことなどがあります。よほど多い用量で長い期間にわたって使用するなどでなければ、全身的な副作用はさほど気にしなくてよいでしょう。

ただし小児が使用する場合には、使用開始後1年間で1cmから2cmほど身長が伸びにくくなる可能性があるとされています。この身長が伸びにくくなるという現象はずっと続くわけではなく、大人になってからの最終身長を検討すると、さほど変わらないと報告されています。

このように咳喘息の治療においては、吸入ステロイドを軸にして、症状に応じて他の薬剤を追加したり、安定していれば吸入ステロイドを休薬したりというように治療していきます。

副作用が気になるのは正しいことです。しかし吸入ステロイドの副作用は限られています。吸入ステロイドには、気管支のリモデリングを食い止め、咳喘息が治りにくくなることを防ぐ役割があります。不安なことがあれば医師に質問して、納得できるまで相談してください。

2. 吸入薬:ステロイド(フルタイド、パルミコート、オルベスコなど)

吸入薬は薬剤を吸い込むことで肺に薬剤を直接届けるため、少ない薬剤量で有効な咳喘息治療が出来やすく、副作用との兼ね合いからも、咳喘息治療の中心となるタイプの薬剤と言えるでしょう。以下では種類別に吸入ステロイドについて解説していきます。

なお、吸入薬に関しては薬剤の名前とは別に、吸入器(デバイス)にも商品名がついています。1つの薬剤でも複数の種類から吸入器を選べるものもあり混乱してしまうかもしれませんが、まずは実際に使う薬剤と吸入器の特徴から把握することとしましょう。薬局で薬を受け取る際に初回は薬剤師からの説明があります。また、動画サイトで検索すればこれらの吸入器の使い方を示したビデオがあります。家に帰って吸い方が分からなくなったときには参考になるものがあるかもしれません。

フルチカゾン プロピオン酸エステル(FP: フルタイド®)

 吸入器としてディスカス®、エアゾール、ロタディスク®があります。毎日2回定期的に吸入を行います。吸入器の種類が多く、患者さんに合ったものを選びやすい特徴があります。また、ステロイドの粒子径が大きめなので、肺の中枢側(口に近い側)の炎症に効きやすいとされています。

フルチカゾン フランカルボン酸エステル(FF: アニュイティ®)

 吸入器としてエリプタ®があり、2017年から日本で使用できるようになった新しい薬です。微細な粉末を吸い込むタイプです。効果の持続時間が長いので毎日1回の吸入でよいことや、操作が比較的単純であることが特徴的です。

ブデソニド(BUD: パルミコート®)

 吸入器としてタービュヘイラー®や液体の製剤があります。多くのケースで毎日2回定期的に吸入を行います。吸入ステロイドは妊婦さんが使用しても、基本的にはいずれも安全性が高いと考えられていますが、ブデソニドは最も多く安全性を報告されている吸入ステロイドであることから、妊婦さんに優先的に処方されることがあります。

ベクロメタゾン(BDP: キュバール®)

 エアゾールを1日2回吸入するタイプの薬剤です。タイミングよく薬剤を噴霧して吸い込みます。ステロイドの平均粒子径が小さめなので、肺の隅々まで届きやすいと考えられています。

シクレソニド(CIC: オルベスコ®)

 吸入器としてインヘラーがあります。タイミングよく薬剤を噴霧して吸い込みます。1日1回の吸入でよい点で、2007年の発売以来重宝されてきました。ベクロメタゾンと同様にステロイドの平均粒子径が小さめなので、肺の隅々まで届きやすいと考えられています。

モメタゾン(MF: アズマネックス®)

吸入器としてツイストヘラー®があります。毎日2回定期的に吸入を行います。他の吸入薬ではもう中身の薬剤が残っていないのに間違って吸い続けてしまうトラブルが起こることもありますが、ツイストヘラー®は残薬が無くなるとロックがかかって吸入できなくなるという特徴があります。操作も比較的単純です。

参考文献:Chest 1991; 100: 1106-9.

吸入ステロイドの副作用は?

ステロイド、と効くと皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか?副作用が怖い、とか、ドーピングで使う、とかネガティブなイメージが強いのではないかと思います。実際に飲み薬や点滴で、多量のステロイドを何年間も使っていけば重大な副作用はしばしば起こります。しかし、マスメディアなどからの情報が独り歩きして、ステロイドの有用性より副作用ばかりが強調されすぎていると多くの医師が考えています。ステロイドは多くの病気において重要な治療薬であり、100年前には治療手段の無かった難病に対する治療薬として多くの分野で活躍しています。ステロイドのメリットとデメリットをしっかりと把握して、必要な時に必要なだけキッチリと使う、という姿勢が重要だと思います。

ここでは咳喘息で使用するステロイドのうち、吸入ステロイドについて解説します。

吸入ステロイド薬は咳喘息治療において中心的な役割を果たします。気管支の炎症を抑えて、治りにくい咳喘息、あるいは本格的な気管支喘息へと進むのを予防し、気管支が形を変えていってしまう「リモデリング」を防ぐ作用があります。

副作用について、吸入ステロイドは薬剤を吸い込むことで直接肺にステロイドを届けるので、全身に与える影響は非常に少なく、効果の面で優れている安心な薬と言えるでしょう。吸入ステロイドの副作用を敢えて挙げると、声がれしやすいこと、口の中にカンジダというカビの一種が生えやすい(多くの場合、容易に治療できます)ことなどがあります。よほど多い用量で長い期間にわたって使用するなどなければ、全身的な副作用はさほど気にしなくてよいでしょう。ここが内服・点滴ステロイドとの最も大きな違いです。

ただし小児での吸入ステロイドは、使用量が増えてくると、成人で起こる副作用に加えて、わずかに身長が伸びにくくなると言われています。対策のため、小児では吸入ステロイドの量が多くなるならば他の薬を組み合わせることで少なめのステロイド量で済むように特に工夫したり、軽い咳喘息であれば吸入ステロイドの使用を避けるのが一般的です。

注意点もあるとはいえ、吸入ステロイドは副作用の少ない薬です。副作用を恐れて使用をためらっているうちにも気管支のリモデリングは進みます。リモデリングが進んでからでは咳喘息が治りにくくなってしまいます。心配な点は医師とよく相談してください。

3. 吸入薬:長時間作用型β2刺激薬(セレベント)

長時間作用型β2刺激薬(LABA: long-acting beta2 agonist)は強力な気管支拡張薬であり、ある程度以上症状が出る咳喘息患者さんで用いられることがあります。ただし、咳喘息に対して長期間使用する場合は吸入ステロイド薬と併用することが原則です。LABA単独では気管支のリモデリングは防げませんし、吸入ステロイドとLABAを併用することで相互に作用を強め合うと考えられるからです。

LABAに分類される薬剤の例を挙げます。

  • サルメテロール(商品名セレベント®)
  • インダカテロール(商品名オンブレス®)
  • ホルモテロール(商品名オーキシス®)

ただしオンブレス®やオーキシス®は2017年10月現在はCOPDという病気の治療薬として承認されており、咳喘息には使用できません。咳喘息の吸入薬としてのLABAはセレベント®のみです。セレベント®の吸入器にはディスカス®、ロタディスク®があります。毎日2回定期的に吸入を行います。

副作用

LABAの副作用としては動悸や手の震えなどがありますが、基本的には安全性の高い薬と考えられています。ただし、虚血性心疾患甲状腺機能亢進症糖尿病などがある方は注意が必要です。

参考文献:Am J Respir Crit Care Med. 2005 ; 172 : 704-12. J Allergy Clin Immunol. 2003 ; 111 : 57-65.

4. 吸入薬:ステロイド/長時間作用型β2刺激薬配合剤(レルベア、シムビコート、アドエア、フルティフォーム)

吸入ステロイド(ICS)と長時間作用型β2刺激薬(LABA)の配合剤は、咳喘息治療のカギとなる吸入ステロイド薬に加えて、長時間作用型β2刺激薬を配合して一緒に吸えるようにしたものです。

ICSとLABAを併用することで高い治療効果があることが分かっており、ある程度以上症状が強い咳喘息の患者さんにはしばしば使用されます。それほど症状が強く無い患者さんにはICSのみから治療が開始されることも多いですが、ICS/LABA配合剤を最初から使う専門家もいます。どちらが良いかはまだ分かっていません。

2種類の吸入薬を別々に吸うのは大変ということで、配合剤はよく処方されます。ここではこの2剤の配合剤に関して説明していきます。

なお、吸入薬に関しては薬剤の名前とは別に、吸入器(デバイス)にも商品名がついています。1つの薬剤でも複数の種類から吸入器を選べるものもあり混乱してしまうかもしれませんが、まずは実際に使う薬剤と吸入器の特徴から把握することにしましょう。薬局で薬を受け取る際に初回は薬剤師からの説明があります。また、動画サイトで検索すればこれらの吸入器の使い方を示したビデオがあります。家に帰って吸い方が分からなくなったときには参考になるものがあるかもしれません。

フルチカゾン+ビランテロール(FF/VI: レルベア®)

吸入器としてエリプタ®があり、2013年から日本で使用できるようになった比較的新しい薬です。微細な粉末を吸い込むタイプです。効果の持続時間が長いので毎日1回の吸入でよいことや、操作が比較的単純であることが特徴的です。

ブデソニド+ホルモテロール(BUD/FM: シムビコート®)

吸入器としてタービュヘイラー®があります。通常は毎日2回定期的に吸入を行います。微細な粉末を吸い込むタイプです。吸入ステロイドは妊婦さんが使用しても、基本的にはいずれも安全性が高いと考えられていますが、ブデソニドは最も多く安全性を報告されている吸入ステロイドであることから、妊婦さんに優先的に処方されることがあります。また、シムビコート®は基本的には咳が出ないように普段から定期的に吸っておく薬なのですが、咳発作時には発作治療薬として追加で吸入することが出来ます。これをSMART(single inhaler maintenance and reliever therapy)といいます。スマート療法ともいいます。SMARTは他の吸入薬には無い特徴的な使用方法です。ホルモテロールはLABAでありながら即効性が高いのでSMARTが可能になっています。シムビコート®の1剤で日常の治療も咳発作治療も行えるので大変便利なのですが、患者さん自身での判断が必要になってくるので、薬の過剰使用や、受診のタイミングを逃してしまう可能性があることには要注意です。

フルチカゾン+サルメテロール(FP/SM: アドエア®)

 吸入器としてディスカス®、エアゾールがあります。毎日2回定期的に吸入を行います。ディスカス®は微細な粉末を吸い込むタイプ、エアゾールはタイミングよく薬剤を噴霧して吸い込むタイプとなっています。ICS/LABAとしては唯一小児にも使える承認が通っている薬剤です。他のエアゾール製剤にみられるアルコール臭が無いことなどもメリットかもしれません。

フルチカゾン+ホルモテロール(FP/FM: フルティフォーム®)

 吸入器としてエアゾールがあり、毎日2回定期的に吸入を行います。タイミングよく薬剤を噴霧して吸い込むタイプとなっています。比較的即効性があること、ゆっくり噴霧されるのでしっかり吸いやすいこと、肺の隅々まで届きやすい薬の粒子径であること、などがこの薬のメリットとして考えられています。

5. 吸入薬:短時間作用型β2刺激薬配合剤(ベネトリン、サルタノール、メプチン、ベロテックなど)

短時間作用型β2刺激薬(SABA: short-acting beta2 agonist)は主に咳発作時の治療薬として用いられ、気管支を広げて咳を治める作用があります。即効性があり、効いている感じが得られやすいのでついつい患者さんはSABAに頼りがちですが、頻繁にSABAを使用する必要があるような患者さんでは、気管支のリモデリング防止、咳喘息症状のコントロールのためにも吸入ステロイドを中心とした薬剤を普段から使用しておくのが無難でしょう。

なお、SABAは咳発作治療以外にも、運動前などに発作予防として用いることもあります。

SABAに分類される薬剤の例を挙げます。

  • サルブタモール(商品名ベネトリン®、アイロミール®、サルタノール®)
  • プロカテロール(商品名メプチン®)
  • フェノテロール(商品名ベロテック®)
  • イソプレナリン(商品名アスプール®)

副作用

SABAの副作用としては動悸や手の震えなどがありますが、基本的には安全性の高い薬と考えられています。ただし、虚血性心疾患甲状腺機能亢進症糖尿病などがある方は注意が必要です。

6. 内服薬(飲み薬):ロイコトリエン受容体拮抗薬(オノン、キプレス、シングレアなど)

ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA: leukotriene receptor antagonist)は気管支を広げる作用、気管支の炎症を抑えて気管支のリモデリングを予防する作用、痰の産生量を減らす作用など様々な効果を持つ内服薬です。

吸入ステロイドとの併用でも非常に有効であることが分かっていますが、一般的な錠剤に加えてシロップ製剤や水無しで飲める製剤もあるLTRAは、子供には単独でも非常に使いやすい薬ですし、何らかの理由で吸入薬を避ける場合には大人でも単独で使われることの多い薬剤です。ただし、すぐに効いてくる方もいますが一般的には効果がしっかり出てくるまでに2週間から4週間ほどかかるので、即効性はさほど期待できません。

LTRAに分類される薬剤の例を挙げます。

  • プランルカスト(商品名オノン®)
  • モンテルカスト(商品名キプレス®、シングレア®)
  • ザフィルルカスト(商品名アコレート®)

ただしアコレート®は2014年に日本では販売中止になりました。

参考文献:Chest. 2002 ; 121 : 732-8. N Engl J Med. 1999 ; 340 : 197-206. Cochrane Database Syst Rev. 5 : CD006100, 2012

副作用

LTRAにより皮疹が出たり、お腹の調子が悪くなったりする副作用は見られることがありますが、基本的にはあまり目立った副作用はなく安全に使用しやすい薬といえます。

7. 内服薬(飲み薬):テオフィリン徐放製剤(テオドール、テオロング、ユニフィルなど)

テオフィリン徐放製剤(SRT: sustained released theophylline)は気管支や肺の血管を拡張する作用、気管支の炎症を抑える作用などが知られており、キサンチン誘導体というカフェインに似た構造を持っている薬です。50年以上前から用いられており、喘息を診療する医師の多くが使い慣れている薬なのですが、安全に使うことができる用量の調整がやや難しく、他の薬との飲み合わせにも特に注意が必要で、体温などによっても効き具合が変わってくるという薬でもあります。

テオフィリン製剤の商品名の例を挙げます。

  • テオドール®
  • テオロング®
  • ユニフィル®

参考文献:Clin Exp Allergy. 1996 ; 26 : 10-5. 喘息予防・管理ガイドライン2015

副作用

副作用としては、吐き気やむかつきなどの胃腸症状が出ることがよくあります。また、血液中のテオフィリン濃度が上昇すると不整脈をきたし、痙攣(けいれん)や死亡に至るケースもごくまれにあります。そのため、採血で血液中の薬物濃度を測定しつつ用いることもあります。乳幼児ではこれらの副作用および、これらに伴う後遺症が特に懸念されるため、成人に使用するよりもテオフィリン製剤使用のハードルはかなり高いと言えます。成人では少ない用量で使用するぶんには、今まで多く使用されてきた経験もあり、副作用を心配して使用をためらうほどの必要は無いでしょう。

なおテオフィリン製剤の多くは、副作用を減らすために体内で少しずつ成分が放出される仕様となっており、噛み砕いたりすり潰して内服するのには適しないので注意してください。

8. 貼付薬(貼り薬):長時間作用型β2刺激薬(ホクナリン)

長時間作用型β2刺激薬(LABA: long-acting beta2 agonist)は強力な気管支拡張薬であり、ある程度以上症状が出る咳喘息患者さんで用いられることがあります。ただし、咳喘息に対して長期間使用する場合は吸入ステロイド薬と併用することが原則です。LABA単独では気管支のリモデリングは防げませんし、吸入ステロイドとLABAを併用することで相互に作用を強め合うと考えられるからです。

子供や高齢者の方で、LABAの吸入薬がうまく吸えない方などには貼り薬であるツロブテロールテープ(ホクナリン®テープ)が用いられることがあります。

副作用

LABAの副作用としては動悸や手の震えなどがありますが、基本的には安全性の高い薬と考えられています。ただし、虚血性心疾患甲状腺機能亢進症糖尿病などがある方は注意が必要です。また、副作用は内服薬>貼付薬>吸入薬の順に出現しやすいとされています。

参考文献:Am J Respir Crit Care Med. 2005 ; 172 : 704-12. J Allergy Clin Immunol. 2003 ; 111 : 57-65.

9. 治療薬はどうしたらやめられるのか?

どのくらい安定していたら咳喘息の治療薬を減らしたり止めたりしてもよいか、ということは実はよく分かっていません。本格的な気管支喘息の場合には3ヶ月以上安定していれば治療薬の減量や休薬を考慮できるとされていますが、咳喘息の場合にはもう少し早めに薬を減らしても大丈夫なケースも散見されます。

治療薬の減量や中止に関しては、症状の強さや、患者さんの様々な背景を考慮して、医師の経験的に、かつ慎重に決められるべきものです。自己判断により早すぎるタイミングで治療薬を中止すると、咳喘息の再発や、本格的な気管支喘息への悪化を招く危険が高まると考えられるので、治療薬の中止タイミングについては治療薬を処方した医師に確認することが大事です。

参考文献:喘息予防・管理ガイドライン2015

10. 咳喘息が治らない、ツボ・食べ物は効く?

咳喘息は人によっては何もしなくても自然に完治することもあれば、しっかりと病院に通って治療していてもなかなか治らず、本格的な気管支喘息になってしまうこともあるような病気です。なので、咳喘息がなかなか治らないとしても、必ずしも治療が合っていないというわけではありません。

一通りの治療を行っても咳が治らずに辛い場合には、まずは辛いことを率直に担当医に伝えてみましょう。本当に咳喘息の診断が合っているのかどうか再チェックのための詳しい検査がされるかもしれません。詳しい検査をするために大きめの病院に紹介されるかもしれません。本格的な気管支喘息の治療に準じた薬を使い始めることになるかもしれません。本格的な気管支喘息の治療法に関して詳細は別のページで説明しています。

大事なことは、症状が治らないのであればしっかりと通院して、担当医にちゃんとその旨を相談することです。

気管支喘息としての本格的な治療をどんどん上積みしていくことになれば、専門性の高い治療になっていくので、もし今かかっている医療機関に呼吸器内科がなければ、呼吸器内科を紹介してもらうよう相談してみることも選択肢でしょう。

咳喘息に効くツボはあるのか?

なるべく薬に頼らずに咳喘息を治したい、ということでツボを刺激して治療することに関心を持たれる患者さんもいらっしゃるかもしれません。世の中では首や肩、手や腕などにあるツボを効果的に刺激することが咳喘息などの病気に対して有効であるという意見もあるようです。

このような治療が本当に有効である可能性はもちろんありえます。こういった治療を全て頭ごなしに否定することが正しい姿勢とは言えません。しかし、現在広く認められている西洋医学の見地で言えば、ある治療をした患者さんとしていない患者さんで偏りのない統計をとって比較し、治療をした患者さんのほうが明らかに良い結果であったと確認できない限りは、自信をもって推奨できる治療であるとは言い難いのです。

「ツボ治療で咳喘息が完治した!」というような体験談も聞かれるかもしれませんが、「ツボ治療が効かなかった」という体験談はあまり広まらないかもしれません。咳喘息は放っておいても自然に治ることがある病気ですし、体に触れることによる心理的効果でツボ治療のおかげで治ったように感じられるのかもしれません。例えば、治療に使われる手段はツボ治療ではなく、毎日腕立て伏せをする、毎日バナナを食べる、ヨガに取り組む、などでも同じ結果だったかもしれません(これらの例が有効だという意味ではありません)。

上記のように、ある治療をした患者さんとしていない患者さんで統計をとって確認しない限り、いわゆる「代替療法」の効果は不明と言わざるをえません。

このような理由で、ツボを押すという治療は特に推奨はできません。ただ、ツボを押すことが悪いと証明されているわけでもないですから、ツボを押す治療を強く希望する患者さんをお引き留めすることはしません。

ただし、ツボを押すことも決してリスクがゼロの治療ではないのは確かです。例えば強い動脈硬化がある方で、首の血管をむやみに押してしまうと脳梗塞の原因になることも考えられます。多くの場合は無視できる程度のリスクと思われますが、どんな治療にも効果とリスクの両面を考えておくことはとても大切です。

咳喘息に効く食べ物はあるのか?のど飴、はちみつなど

咳喘息の治療に有効であることを証明されている食べ物は特にありません。

のど飴やはちみつを食べることでラクになると感じられるのであれば、適量を摂って頂く分には構わないでしょう。ただし、小さいお子さんや高齢者で、普段のど飴などをまったく口にしない方ではのど飴で窒息するような可能性もゼロではありませんので気をつけてください。また、ハチミツを1歳未満の乳児に与えることは、ボツリヌス毒素による食中毒を起こすことがあるので避けてください。

11. 緊急で医療機関にかかるべきポイント

まず前提として、純粋な咳喘息であれば咳以外の症状は基本的に出ないはずです。咳は程度によっては非常に辛い症状ではありますが、咳症状単独で命に危険が及んだり、後遺症が残るような深刻な事態にはなりません。なので、咳が出ているだけであれば、夜間や休日に緊急で医療機関を受診する必要性は薄いでしょう。

症状を訴えられないお子さんの場合には、症状が咳だけなのか判断が難しいでしょうし、判断できなければ医療機関を受診して頂いた方が良いのですが、いつもよりも明らかにぐったりしている、ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音がする、今までにないくらい辛そう、などの見た目であれば、まず受診をお勧めします。

日本の医療体制は原則として、夜間休日の診療は、平日の日中に行われる検査治療に繋げていくための診療であり、緊急性が非常に高い病気でない限りは、言い方は悪くなりますが「応急処置」的な医療にならざるをえない面があります。夜間は医療機関も人手不足であり、行うことが出来る検査の種類や処方できる薬の種類も限られており、専門家も不在であることが多いからです。夜間の救急外来は、平日日中外来に比べるとどうしても限界があるのです。

上記のような理由で、咳だけの症状であれば翌平日まで待って医療機関を受診することが原則的に推奨されます。ただし、咳に高熱を伴っていれば肺炎の可能性もありますし、息苦しさが酷ければ本格的な気管支喘息の発作になっている、あるいは咳のしすぎで肺が破れてしまっている(気胸)などの可能性も考えられます。このような病気の場合には、ほとんどのケースで緊急受診するべきでしょう。

では緊急の場合をどうやって見分ければいいのでしょうか。

咳喘息の患者さんに関して言えば、息苦しさがあるかどうかは、緊急で受診するべき病気が隠れているかどうかの重要な判断要素になります。今までにあまり感じていないような息苦しさを自覚している咳喘息患者さんは、夜間休日でも緊急での受診を考慮したほうが良いでしょう。

最後に大事なことですが、咳喘息に関してかかりつけ医がいる場合には、咳発作時の対応に関して事前に聞いておくのがベストです。個々の患者さんに適した緊急時の方針を教えてくれるでしょう。