ふくあつせいにょうしっきん
腹圧性尿失禁
おなかに力が入ったことで、尿が漏れしてしまう状態
7人の医師がチェック 114回の改訂 最終更新: 2022.02.09

腹圧性尿失禁の検査について:排尿日記、ストレステスト、パッドテストなど

腹圧性尿失禁が疑われる人には診察や検査が行われ、腹圧性尿失禁かどうかや程度が調べられます。このページでは腹圧性尿失禁の診察や検査について掘り下げて説明していきます。

1. 問診

問診とはお医者さんと患者さんの対話形式の診察のことを指します。「患者さんの症状の把握」や「患者さんの背景の確認」が主な目的です。問診では症状など困っていることを伝えてください。その後、お医者さんからいくつか質問があります。

【腹圧性尿失禁が疑われる人への質問例】

  • 排尿状況についての質問
    • いつくらいから尿もれがあるのか
    • どの程度尿がもれるのか
    • 毎回尿がもれるのか、それとも数回に一回なのか
  • 患者さんの背景についての質問
    • 過去にかかったことがある病気には何があるか
    • 現在治療中の病気はあるか
    • 定期的に飲んでいる薬はあるか

尿失禁の症状について詳しく話すのには抵抗を感じる人が多いです。しかしながら、ありのままをお医者さんに伝えることが、効果的な治療につながります。「治す」という目的のためにお医者さんも詳しく知りたいと思っていますので、できるだけ正確に症状を伝えてください。それでも口にするのが恥ずかしいと思う人はメモを用意して、まずお医者さんに読んでもらうなどの工夫をしてみるとよいです。

2. 身体診察

一般的に、身体診察は問診に続いて行われます。問診で得た情報をもとにお医者さんが患者さんの身体の状態をくまなく調べます。イメージしやすい例では、聴診器で身体の中の音を聞くのは「聴診」と呼ばれる身体診察法の1つです。その他では外見を観察する「視診」や身体を触って調べる「触診」などがあります。 腹圧性尿失禁が疑われる人では下腹部および性器周辺を詳しく調べます。

3. 尿検査

尿検査では尿に含まれる成分を調べます。「糖」や「タンパク質」「白血球」の有無やその量を知ることができます。健康診断で受ける尿検査と基本的には同じです。尿について多くのことがわかる尿検査ですが、腹圧性尿失禁に特徴的な検査結果はありません。つまり、尿検査だけで腹圧性尿失禁かどうかはわかりません。尿検査の主な目的は他の病気を除外することになります。 尿検査については「膀胱炎になったらどんな検査をする?」で詳しく説明しているので、より詳しく理解したい人は参考にしてみてください。

4. 排尿日誌

排尿日誌は排尿状況や尿失禁のタイプを把握するのに役立ちます。排尿日誌は一般的には次のような項目で構成されており、毎日の様子を時間ごとに記録していきます。

【排尿日誌の記入例】

20XX年X月X日

時間 尿量(mL) 尿意切迫感 尿もれ 水分量 メモ
7:00 300mL あり あり なし 起床時
9:00       お茶200mL  
 ・  ・  ・          
22:00 400mL あり なし なし 就寝前

上の表はあくまでも例なので、各医療施設によってアレンジが加えられている場合もあります。また自分で作成する場合は自分で気になる症状などを追加して作ってみてもよいです。

特に腹圧性尿失禁が心配な人は「尿もれ」の欄を詳しく記載するようにしてください。

5. 特殊な検査

ここまでの診察や検査で腹圧性尿失禁が強く疑われた人には腹圧性尿失禁に特化した検査が行われます。

ストレステスト

膀胱内に生理食塩水を注入した上で、腹圧を上げ(いきむまたは咳ばらいをする)、尿もれがあるかどうかを調べます。漏れがある場合を陽性と判定し、腹圧性尿失禁の診断の材料になります。

パッドテスト

尿失禁の程度を評価する検査方法です。500mLの飲水後に、パッド(おむつのようなもの)を装着し、歩行や階段の上り下りなどを行います。運動後にパッドの重量を測定すると、尿もれの有無およびその量がわかります。2g以上の漏れが確認できた場合、尿失禁があると判定されます。

Qティップテスト

尿道(膀胱から尿を体外に出す管状の臓器)が動きやすいことが腹圧性尿失禁の原因の1つと考えられています。尿道の安定性を評価する方法の1つがQティップテストです。尿道に綿棒を挿入し、腹圧をかけ、綿棒の動きを観察します。綿棒の移動が大きければ(正確には水平面に対して30°以上の移動があれば)、Qティプテスト陽性と判断し、尿道が不安定である証拠になります。

6. 尿流動態検査

尿流動態検査は主に排尿時の膀胱や尿道の動きを数値化する検査です。検査機器を装着した状態で排尿を行い、排尿に関わる臓器の機能を客観的に評価します。 腹圧性尿失禁の診断では、ここまでに説明した問診や身体診察、ストレステストやパッドテストといった検査でほとんどが十分ですが、他の病気(神経因性膀胱前立腺肥大症など)の病気の存在が否定できない場合に尿流動態検査が行われます。 詳しくは「神経因性膀胱の検査について」で説明しているので、参考にしてください。

7. 画像検査

身体の中を画像化する検査です。健康診断でお馴染みのレントゲン検査も画像検査に含まれます。画像検査にはいくつ方法があり、腹圧性尿失禁が疑われる人には超音波検査MRI検査がよく行われます。

超音波検査(エコー検査)

エコー検査は超音波の反射を利用した画像検査です。腹圧性尿失禁が疑われる人には膀胱やその周辺の異常について調べられます。実際の検査ではプローブと呼ばれる機械を下腹部に当てて行われます。

MRI検査

MRI検査は磁気を利用した画像検査です。似たような検査に放射線を使うCT検査がありますが、磁気を利用したMRI検査では被ばくの心配はありません。 超音波より詳細に調べることができるので、超音波検査で異常が疑われた人やはっきりと調べられなかった人に行われます。MRI検査の原理や検査を受ける際の注意点については「MRI検査を受けるまえに知っておきたいこと」を参考にしてください。

参考

泌尿器科領域の治療標準化に関する研究班, EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン, じほう, 2004