ぜんりつせんえん
前立腺炎
前立腺が炎症を起こした状態のことで、陰部の痛みや排尿障害、発熱の原因となる
7人の医師がチェック 104回の改訂 最終更新: 2022.05.30

前立腺炎の原因には何があるのか?前立腺肥大症との関係は?

前立腺炎は、急性前立腺炎と慢性前立腺炎があり、それぞれで原因が少し異なります。ここでは急性前立腺炎と慢性前立腺炎に分けて原因を解説します。

1. 急性前立腺炎の原因になるもの

急性前立腺炎は細菌によって起こる感染が原因です。正常な前立腺には細菌はいません。どのようにして細菌が前立腺に入り込み感染が起こるのでしょうか?

急性前立腺を起こす原因には以下のものがあります。

前立腺は尿道と射精管という管でつながっています。尿道は膀胱(ぼうこう)に溜まった尿を身体の外に出すための管で陰茎の中にあります。尿の中に細菌が混ざっていると前立腺に入り込んで感染を起こし前立腺炎の原因になります。これから説明する4つの原因についてはいずれも前立腺に感染を起こすものです。

参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

図:前立腺と周りの臓器の位置関係。

尿路の感染症

膀胱炎尿道炎など尿の通り路の感染症が原因で前立腺炎が起こることがあります。前立腺は射精管という管で尿道とつながっています。尿道を細菌が多く含まれた尿が流れると射精管から前立腺に細菌が入り込み感染が起こります。前立腺炎は、膀胱炎尿道炎が起きていると同時またはその後に起こることがあります。

前立腺肥大症

前立腺肥大症は、前立腺が大きくなる病気で、尿道を狭くすることがあります。前立腺肥大症の影響で尿道が狭くなると尿が出にくくなります。尿が出にくくなると様々な影響で尿の中に細菌が増えやすくなります。前立腺は膀胱の尿が身体の外に出るときに通る尿道とつながっているので、尿の中に細菌が多く含まれていると前立腺の中に細菌が紛れ込みやすくなります。

急性前立腺炎を起こした人で前立腺肥大症もある場合は、前立腺肥大症の治療をすることで再発予防が期待できます。前立腺肥大症の治療については「前立腺肥大症の治療」も参考にしてください。

排尿のための管の挿入:尿道カテーテル、自己導尿

膀胱の機能が低下しているなどの理由で排尿のために管を挿入しなければならないことがあります。管を用いた排尿には、管(尿道カテーテル)を挿入したままにしておく方法と、排尿のたびに管を挿入する自己導尿という方法があります。どちらも異物である管を挿入します。異物を挿入する行為は、尿の中の細菌が増える原因になります。前立腺は尿が流れる尿道とつながっているので尿の中に細菌が多くなると前立腺炎が起こりやすくなります。

内視鏡検査・手術

胃カメラなどでおなじみの内視鏡は細い管の先端にレンズがついた機械です。内視鏡は身体の中の空間を観察できます。内視鏡は膀胱や尿道の検査や手術にも用いられます。膀胱や尿道の内視鏡は尿の出口から挿入して中を観察します。内視鏡は膀胱や前立腺の病気を調べたり治療したりするのに有用ですが、検査や手術の影響で細菌が前立腺に入ってしまうことがあります。

特に注意が必要なのは外来で検査や処置を受けた後に起こる急性前立腺炎です。帰宅後に前立腺炎を疑う症状が現れたときには検査を受けた医療機関に連絡して対応を確認することが大切です。前立腺炎の症状は「前立腺炎の症状」で解説しているのであわせて参考にしてください。

前立腺がんの検査:前立腺生検

前立腺がんの疑いがある人には診断を確定する目的で前立腺生検という検査が行われることがあります。前立腺がんを調べるのに大切な前立腺生検ですが、検査に伴う合併症の一つに急性前立腺炎があります。

まず前立腺生検について説明します。

前立腺生検は、前立腺に針を刺して前立腺の一部を取り出す検査です。前立腺は身体の奥深くにあり身体の表面からは触れることはできませんが、肛門から指を入れて直腸越しに触れることはできます。前立腺生検では、肛門から針が飛び出る機械を挿入して直腸を貫いて前立腺に針を刺します。

直腸には多くの細菌が存在していますが、通常前立腺には細菌はいません。前立腺生検では直腸越しに前立腺に針を刺すので直腸の細菌が前立腺に入り込んで感染し前立腺炎が起こることがあります。前立腺生検を受ける前には、前立腺炎を疑う症状やその場合の対応について担当医に尋ねて確認しておくとよいと思います。

前立腺生検については「前立腺がんの検査」で詳しく解説しているので参考にしてください。

2. 慢性前立腺炎の原因になるもの

慢性前立腺炎の一部は細菌感染が原因です。急性前立腺炎を起こした後に治りきらずに感染が慢性化することもあります。一方で、原因がはっきりしないことも多いです。ここでは慢性前立腺炎に関係があると考えられている病気などを紹介します。

参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
​​​​​​​・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

尿路感染症

尿路感染症(尿の通り道の感染症)を繰り返している人は慢性前立腺炎になりやすいことが知られています。前立腺は、膀胱の尿が身体の外に出るときに通る尿道とつながっています。尿路感染症があると尿には細菌が多く含まれているので、排尿の際に細菌が前立腺に入り込み感染を起こすことがあります。

尿路感染症が原因で慢性前立腺を起こしている人の予防策は、まず尿路感染症を治すことやならないようにすることです。男性の尿路感染症には尿の通り道に結石などの異常が起きていることが多いので異常がないかを泌尿器科で確認することから始めましょう。

前立腺肥大症

前立腺肥大症は、前立腺が大きくなる病気で、尿道を狭くすることがあります。前立腺肥大症の影響で尿道が狭くなると尿が出にくくなります。尿が出にくくなると様々な影響で尿の中に細菌が増えやすくなります。前立腺は、膀胱の尿が身体の外に出るときに通る尿道とつながっています。尿の中に細菌が多く含まれていると細菌が前立腺の中に紛れ込みやすくなっています。

慢性前立腺炎の原因が細菌感染だとわかっている人で、前立腺肥大症も一緒に見つかった場合には、前立腺肥大症を治療して尿の流れを良くすることが大切です。前立腺肥大症は薬物療法や手術により尿の流れがよくなることが期待できます。

糖尿病

糖尿病の人は免疫力が低下して感染症が治りにくくなることがあります。慢性前立腺炎の人の中には急性前立腺炎が治らずに慢性化する人がいます。

糖尿病の人で急性前立腺炎にかかった後も症状が良くならない場合には、糖尿病ではない人に比べて慢性前立腺炎になっていることが懸念されます。症状の改善がない場合には医師に糖尿病の検査や治療についても相談してみてください。