前立腺炎の人であらわれやすい症状:排尿時痛・排尿困難感など
前立腺炎には急性前立腺炎と慢性前立腺炎の2つがあります。急性前立腺炎では症状が強く出ることが多く、慢性前立腺炎の症状は弱く違和感程度のこともあります。急性と慢性に分けて症状の解説をします。
1. 急性前立腺炎でみられやすい症状
急性前立腺炎は、
急性前立腺炎では主に排尿に関する症状が現れます。
- 排尿時に痛みがある:排尿時痛
- 尿が出にくいまたは出なくなる:排尿困難感・尿閉
- 排尿の回数が多くなる:
頻尿 - 発熱
- 寒気がする:悪寒
急性前立腺炎の症状は後述する慢性前立腺炎に比べると強いことが多いです。また慢性前立腺炎との症状の違いに発熱があります。以下では急性前立腺炎で現れやすい症状についてそれぞれ解説します。
参考文献
・青木 眞, レジデントのための
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014
排尿時に痛みがある:排尿時痛
前立腺炎が起こると排尿時に痛みを感じることがあります。
前立腺炎では前立腺に
排尿時に痛みがあると必ず前立腺炎かというとそうではありません。排尿時の痛みは他の病気でも現れることがあります。
【排尿時の痛みの主な原因】
- 尿道炎
- 尿道
がん - 尿道結石
尿道炎は淋菌やクラミジアなどが感染を起こす病気です。淋菌やクラミジアなどは性行為によりうつるいわゆる性病です。
尿道にもがんや結石がができることがあります。がんや結石があると尿道には炎症が起きるので排尿時の痛みの原因になります。
ほかにもしくみは不明ですが、アルコールやカフェインの過剰摂取も排尿時痛の原因になります。
排尿時の痛みは性病などを連想してしまいドキッとする症状の一つだと思います。しかし排尿時の痛みには性病以外にもいくつか原因があります。では排尿時痛の原因を自分で見分けることはできるのでしょうか。
排尿時痛以外の症状がなく一回だけ排尿時の痛みを感じたなら、病気が原因ではないかもしれません。しかし、痛みが強くなったり排尿のたびに痛みを感じるようであれば前立腺か尿道に問題が起きている可能性があります。このような場合は泌尿器科を受診して原因を調べる方がよいでしょう。
尿が出にくいまたは出ない:排尿困難・尿閉
前立腺に炎症が起こると前立腺は
狭くなった尿道は尿の流れが悪くなってしまいます。尿の流れが悪いと尿がでにいくと感じます。前立腺の浮腫(ふしゅ)がつよいと尿道が完全に塞がってしまうこともあります。つまり尿が膀胱から先には流れない状態です。この状態を尿閉(にょうへい)といいます。尿閉が起こると、お腹の皮膚に穴を開けて膀胱に管を通して膀胱の中の尿を身体の外に出すという処置が必要になることがあります。この治療を膀胱ろうといいます。膀胱ろうについては「前立腺炎の治療」を参考にしてください。
排尿の回数が多くなる:頻尿
前立腺炎が起こると前立腺が浮腫んで大きくなるので尿の流れが悪くなりやすいです。尿の流れが悪くなると一回の排尿で膀胱の中の尿が出きらなくなります。出きらない尿を残尿と言います。残尿が多くなると膀胱はまたすぐに尿で満たされてしまうので排尿の回数が多くなってしまいます。この排尿回数が増えた状態を頻尿(ひんにょう)といいます。
寒気がする:悪寒
急に寒気がして身体がガタガタ震える、温めようとしても毛布にくるまっても震えがとまらないという経験は多くの人にあると思います。この症状を悪寒(おかん)といいます。
悪寒は発熱の初期に現れることのある症状で、その後高い熱がでることが多いです。
急性前立腺炎の人は発熱することがあるのでその前触れとして悪寒が現れることがあります。
発熱
急性前立腺炎の人の中には発熱する人がいます。
前立腺での炎症が強かったり急性前立腺炎を起こす細菌が全身に広がったりしたときに熱がでます。全身に細菌が広がることを菌血症といい深刻な状況です。
前立腺炎ではなぜ菌血症が起こりやすいのでしょうか。
前立腺は血管が多くある臓器です。血管が多いために細菌感染が起こると細菌が血管の中に入り込みやすいです。そのため前立腺炎で発熱している場合には菌血症も念頭において治療をする必要があり、入院治療が必要な判断材料にもなります。
2. 慢性前立腺炎でみられやすい症状
慢性前立腺炎は急性前立腺炎と症状が異なります。慢性前立腺炎で症状が急激に現れることはほとんどなく、程度も軽いことが多いです。慢性前立腺炎の症状は以下のものになります。
- 排尿時に痛みがある
- 尿が出にくくなる:排尿困難感
- 排尿回数が多くなる:頻尿
- 肛門周囲の違和感や不快感がある
陰嚢 (いんのう)の中に痛みを感じる
痛みが弱くて「違和感」と表現をされる患者さんもいます。慢性前立腺炎は症状は軽いのですが、薬の効果が出るのに時間がかかるのでなかなか症状が改善されないこともあります。
参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014
排尿時に痛みがある:排尿時痛
排尿時の痛みは急性前立腺炎でも現れる症状ですが、慢性前立腺炎でも現れることがあります。前立腺は尿道という尿をだす管の一部の周りをくるむようして存在しています。前立腺に炎症が起こるとくるんでいる尿道にも炎症が広がることがあります。炎症が起きている場所は刺激に対して過敏になっています。このために尿が流れたりすると痛みを感じます。慢性前立腺炎の排尿時の痛みは、急性前立腺炎に比べると軽いことが多いです。
尿が出にくくなる:排尿困難感
前立腺に炎症が起こると前立腺は一時的に浮腫んで(むくんで)大きくなります。前立腺は尿道を取り囲むようにしてあるので前立腺が浮腫むと尿道が圧迫されて狭くなります。尿道が狭くなると尿が出にくいと感じます。
排尿回数が多くなる:頻尿
前立腺で炎症が起こると前立腺が浮腫んで大きくなります。前立腺が大きくなると尿道が圧迫されて狭くなります。尿道が狭くなると尿が出にくくなり、尿が膀胱の中に残ってしまいます。膀胱の中に尿が残ると尿がたまりやすくなり排尿の回数が増えます。
会陰部に違和感や不快感がある
前立腺は身体の奥のにある臓器で陰茎と肛門の間にあります。この部分を会陰部(えいんぶ)といいます。慢性前立腺炎が起こると会陰部に違和感や不快感を感じることがあります。会陰部はちょうど自転車のサドルや椅子に座った時に圧迫される場所なので、長時間のデスクワークや自転車の運転で会陰部の違和感や不快感がひどくなることがあります。長時間座る必要がある場合は柔らかい素材のものを敷いて座るなどの工夫によって症状を和らげることが期待できます。
陰嚢の中や鼠径部(そけいぶ)に痛みを感じる
鼠径部というのは足の付け根あたりのことです。多くはありませんが、慢性前立腺炎の人の中には陰嚢の中や鼠径部に痛みを感じる人がいます。したがって、陰嚢の中や鼠径部の痛みの原因が不明な時には前立腺炎が原因かもしれません。
前立腺は膀胱のすぐ下(足側)にある臓器で陰嚢や鼠径部とは離れているので、一見関係なさそうです。それでも陰嚢や鼠径部に症状が出るのは事実です。
陰嚢内や鼠径部の痛みは前立腺炎による痛みの関連痛と考えられています。関連痛とは、痛みの原因とは離れた場所に痛みを感じることです。関連痛が起こるメカニズムは、痛みの原因となる場所にある神経が、関連痛が起こる場所にもつながっていることなどです。
陰嚢の中や鼠径部の痛みで受診する時に前立腺炎だろうと予想できる人は少ないかもしれません。ですから排尿状況などの症状について質問を受けると戸惑うかもしれませんが、その場合は、医師が痛みの原因として前立腺炎の可能性を考えているのかもしれません。