小児慢性特定疾病に指定されている子供のネフローゼ症候群とは?
ネフローゼ症候群は尿から大量のタンパク質がもれ出ることが原因で起こる病気です。子供にも
目次
1. 子供のネフローゼ症候群は難病?
ネフローゼ症候群は尿からタンパク質が大量に漏れ出てしまうことにより
小児慢性特定疾病とは?
小児慢性特定疾病は、以下のような条件をみたす病気です。
- 慢性に経過する疾病であること
- 生命を長期にわたって脅かす疾病であること
- 症状や治療が長期にわたって生活の質を低下させる疾病であること
- 長期にわたって高額な医療費の負担が続く疾病であること
ネフローゼ症候群は小児慢性特定疾病に指定されていており、定められた重症度に応じた医療費助成を受けることで自己負担額が軽減できます。小児の医療費は市町村によって別の制度がある場合もあるので、どの制度を利用できそうか担当医や医療機関の相談窓口、住んでいる自治体などに相談してみてください。
参考:小児慢性特定疾病情報センター(2021.1.27閲覧)
2. 子供と大人のネフローゼ症候群は違う?
ネフローゼ症候群は子供にも大人にも起こる病気です。子供と大人ではネフローゼ症候群がおこる原因に違いがあります。
小児では約90%が微小変化型ネフローゼ症候群というタイプのネフローゼ症候群です。微小変化型ネフローゼ症候群は
ネフローゼ症候群の原因についてのそれぞれの詳細な解説は「ネフローゼ症候群の原因は?一次性と二次性(糖尿病、高血圧)の違い」で解説しています。
3. 小児ネフローゼ症候群の特徴
小児ネフローゼ症候群にはどのような特徴があるのでしょうか。発症する人の数や発症しやすい年齢などに注目して解説します。
参考文献
・浅野 泰/監「腎臓内科診療マニュアル」日本医学館, 2010
・日本小児腎臓病学会/編「小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2013」診断と治療社, 2013
どれくらいの頻度で発症するのか?
小児ネフローゼ症候群は日本では10万人に約5人が発症するという報告があり、一年間には約1,000人の小児がネフローゼ症候群を発症しています。
発症しやすいのは何歳くらい?
小児ネフローゼ症候群のうち約90%を占める微小変化型ネフローゼ症候群は、約80%が6歳未満で発症します。発症するピークは2-4歳とされています。
男児と女児ではどちらが多い?
小児ネフローゼ症候群は男児に多い傾向にあります。男児と女児の患者数の比はおよそ2:1とされています。
4. 小児ネフローゼ症候群の症状
ネフローゼ症候群の症状は体の中の間質という場所に水分が溜まる浮腫(ふしゅ、
- 尿の泡立ち
- 体の浮腫み(むくみ)
- 体重の増加
倦怠感 (けんたいかん)- 呼吸困難(こきゅうこんなん)
ネフローゼ症候群の一連の症状は
尿からタンパク質が大量に失われると体の浮腫みにつながります。体の浮腫みはアルブミンというタンパク質の減少を原因としています。アルブミンは血管の中に水分を引きつける働きがあります。アルブミンが減少すると血管の外に水分が移動します。水分の移動により浮腫みが生じます。
浮腫みによって体の中に水分がたまり続けると体重が増加したり倦怠感の原因になります。また血管から間質への水分の移動が肺で起こると肺の機能が低下して呼吸困難といった症状が現れることもあります。
他には腸が浮腫むことによる吐き気や腹痛、下痢、食欲低下などの原因になることもあります。
5. 小児ネフローゼ症候群の原因
小児ネフローゼ症候群は微小変化型ネフローゼ症候群という種類が約90%を占めます。その他には膜性増殖性糸球体腎炎や巣状糸球体硬化症などがありますが多くはありません。
微小変化型ネフローゼ症候群の特徴がない場合などには治療の方法を変えることも考えられるので、
6. 小児ネフローゼ症候群の検査
小児ネフローゼ症候群が疑われる場合にはいくつかの検査を用いて診断します。以下のものがあります。
- 身体診察
- 尿検査
- 血液検査
腹部超音波検査 - 腎生検
以下ではネフローゼ小児症候群の診断基準と腎生検という検査について説明します。
その他の検査については「ネフローゼ症候群の検査は?尿検査、腎生検など」で解説しているので参考にしてください。
小児ネフローゼ症候群の診断基準
尿検査と血液検査の値からネフローゼ症候群の診断が行われます。
小児におけるネフローゼ症候群の診断基準は以下になります。
【小児における診断基準】
- 高度尿蛋白(夜間蓄尿で40mg/hr/m2以上)又は早朝尿で尿蛋白クレアチニン比2.0g/gCr以上
- 低アルブミン血症(血清アルブミン2.5g/dL以下)
1,2を同時に満たし、明らかな原因疾患がないものを一次性ネフローゼ症候群と診断する。
解説します。
タンパク尿が基準値以上に多く、血液中のアルブミンというタンパク質が基準値以下で、全身に影響する病気が見つからない場合に一次性ネフローゼ症候群と診断されます。
腎生検とは?
腎生検とはネフローゼ症候群が起きている腎臓に針を刺して腎臓の組織を一部取ってくる検査のことです。取り出した腎臓の組織は顕微鏡で観察します。腎臓の変化によりネフローゼ症候群を起こしている原因を特定します。
腎生検が必要なのはどんなとき?
ネフローゼ症候群を発症した子供の全員に腎生検が必要な訳ではありません。腎生検は体に負担がかかる検査なので必要と考えられる人に対して行われます。『小児特発性ネフローゼ症候群
- ネフローゼ症候群発症時に以下の条件を満たす場合
- 1歳未満
- 持続
血尿 、肉眼的血尿 - 高血圧、
腎機能 障害 - 低
補体 血症 - 腎外症状(
発疹 、紫斑 など)
ステロイド 抵抗性を示す場合
解説します。
小児ネフローゼ症候群の原因は、微小変化型ネフローゼ症候群という病気がほとんどを占めています。しかし1.の5つの条件は微小変化型の特徴から外れていると考えられる条件です。微小変化型はステロイド剤への反応がよいですがそれ以外の病気の場合は治療薬の選択も変わることがあります。したがって微小変化型以外の可能性があるときには腎生検を行い診断の確定をすることが勧められています。
ステロイド剤はネフローゼ症候群の治療で頻繁に用いられますがステロイド剤の効果が小さいまたは無効なことがあります。このような状態をステロイド抵抗性といいます。ステロイド抵抗性のネフローゼ症候群は腎生検をして腎臓についてより詳細に調べる必要があります。
参考文献
・日本小児腎臓病学会/編「小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2013」診断と治療社, 2013
7. 小児ネフローゼ症候群の治療
小児ネフローゼ症候群の大部分は微小変化型ネフローゼ症候群と呼ばれるものでステロイド剤の効果が高いです。このために微小変化型ネフローゼ症候群と考えられる場合には腎生検を行わずに治療に入ります。
ステロイド治療に効果はある?
小児ネフローゼ症候群の大部分は微小変化型ネフローゼ症候群という種類のものです。微小変化型ネフローゼ症候群はステロイド剤の効果が高いです。約90%の人に効果があります。
治療開始1週間程度で尿からでるタンパク質の量が正常範囲にもどることが多いです。
ステロイド治療実際は?投与期間・剤形
ステロイド剤の投与期間は様々な意見があり最適な投与方法・期間はまだ定まってはいません。よく行われている方法のひとつは、最初の4週間は毎日内服をしてその後の4週間は1日おきに内服をする方法です。他には3-7ヶ月に渡り少しずつステロイド剤の量を減らしていく方法(長期漸減法)などもあります。
ステロイド剤には飲み薬のタイプ(
ステロイド治療が効かないときはある?その場合はどうする?
ステロイド剤に効果がない場合もあります。ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群といいます。ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群は以下のように定義されています。
- プレドニゾロンを4週間以上連日内服しても完全寛解しない場合
解説します。
プレドニゾロンは代表的なステロイド剤の一種です。寛解(かんかい)とは症状や検査の異常値が抑えられた状態のことです。ネフローゼ症候群の完全寛解は定められた尿検査で尿タンパクが陰性と考えられる状態が3日以上続くことと定義されています。ステロイド剤に抵抗性を示した場合には腎生検を行い
ネフローゼ症候群で用いる薬の詳細な情報は「ネフローゼ症候群の治療薬の解説:ステロイド剤・リツキシマブ(リツキサン®)など」で解説しているので参考にしてください。
再発することはある?
小児ネフローゼ症候群はステロイド剤が効果を示すことが多く90%の人が寛解します。寛解後の経過はどうなのでしょうか?
寛解後に約80%の人が再発するとされています。再発した場合には初回治療と同じくステロイド剤を用いて治療します。
再発は一回ではなく頻回になる(繰り返す)こともあります。ステロイド剤を長期間に渡り使用すると副作用が問題になります。特に小児の場合は成人とは違い発達過程にあるので低身長などの成長への影響も懸念されます。したがって再発を繰り返す場合には免疫抑制剤という薬を用いることも検討されます。
一般的に再発は年齢を重ねるとともに減少していくと考えられています。成人になるまでに治ることの方が多いです。その一方で再発が頻回に起きて治療の効果が弱くなることや、腎臓の機能が損なわれてしまうこともあります。
ネフローゼ症候群は初回の治療に反応性がよいことが多いですが、一方で再発することも多いです。治療が成功してもその後もしっかりと定期受診などで観察を続けることが大事です。
参考文献
・日本小児腎臓病学会/編「小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2013」診断と治療社, 2013
8. 治療中の生活はどうすればいい?運動・食事
ネフローゼ症候群の治療中に生活で気をつけることはあるのでしょうか?運動と食事に焦点をあてて解説します。
食事で気をつけることは?
食事に制限をもうけることでタンパク尿や浮腫などの症状が軽減するメリットは証明されていません。しかし浮腫の改善に関しては食塩の制限をすることのメリットが推測されています。ネフローゼ症候群は尿からタンパク質が失われることにより浮腫が生じます。浮腫はいわゆる「むくみ」です。食塩に含まれているナトリウムという物質は浮腫を悪化させると考えられています。このために治療を開始して間もないタンパク尿がまだ出ている時期には食塩を制限することで浮腫による症状が緩和されるという意見はあります。
運動はしても大丈夫?
ネフローゼ症候群などの腎臓の病気になると安静にすることが望ましいという考えが以前はありました。運動をすると腎臓に異常がなくともタンパク尿が出ることがあります。タンパク尿は腎臓の機能を低下させる原因なのでできるだけ運動を避けるべきだと考えられてきました。
しかし運動を制限することでネフローゼ症候群からの回復を早めたり再発を抑えたりする効果は証明されていません。さらに過剰な運動の制限は肥満や骨粗鬆症の原因になることも知られており悪い影響の方が大きいと考えられています。
かなり状態が悪いときには医師から運動を制限するように言われることもありますが、それ以外は運動を制限する必要はありません。
参考文献
・日本小児腎臓病学会/編「小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2013」診断と治療社, 2013