のうこうそく
脳梗塞
脳の血管が詰まる結果、酸素や栄養が行き届かなくなり、脳細胞が壊死する。運動・感覚の麻痺などを起こし、後遺症による寝たきりや死亡にもつながる
21人の医師がチェック 443回の改訂 最終更新: 2024.10.18

脳梗塞の後遺症:片麻痺、高次脳機能障害、半側空間無視、相貌失認、うつなど

自分や家族が脳梗塞になったとき「後遺症は残るのか」というのは関心の高いことだと思います。このページでは、脳梗塞の後遺症が残る理由や、後遺症の種類、対処法について説明します。

1. 脳梗塞の後遺症が残る理由について

脳梗塞は、脳の血管の一部が詰まってしまい、そこから先の脳に血液が回らなくなる病気です。血液が行き届かない部分の脳細胞は時間の経過とともに死んでいきます。

一度死んだ脳細胞が生き返ることはありません。そのため、その脳の部分やそこにつながっている神経が担っていた機能は失うか、低下した状態になってしまいます。

人間の身体は失った能力を補おうとする

脳梗塞で脳の一部の細胞が死んでも、人間の身体はなんとかそれを補おうとします。補う方法は主に次の2通りです。

  • 脳の他の部位が、失われた部分の機能を補う
  • 死んだ細胞を介さない新たな神経の通り道を作ることで補う

脳梗塞が起こった部位でも細胞が全て死ぬわけではありません。生き残った部分が時間をかけて復活していくこともあります。ただし、脳梗塞は風邪とは違って、じっとしていても失った機能はなかなか良くなりません。失った機能を補う反応を活性化するために、リハビリテーションが大切になるのです。

2. 脳梗塞の後遺症はどのようなものがあるのか

脳梗塞の後遺症は、大きく3つに分けられます。

  • 神経障害
  • 高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)
    • 注意障害
    • 失行
    • 失認
  • 精神障害

それぞれについて説明していきます。

神経障害

脳梗塞の後遺症として、代表的なもののひとつが神経障害です。

【神経障害の例】

  • 運動麻痺
  • 感覚麻痺
  • 嚥下障害(飲み込みが難しくなる障害)
  • 排尿障害(尿を出す機能が低下する障害)
  • 視覚障害

運動麻痺や感覚麻痺は、ダメージを受けた脳の反対側の身体にあらわれることが多く、片側に出るということから「片麻痺」と呼ばれます。「半身不随」は片麻痺のことを指すことが多いです。

ただし、片麻痺=片側「のみ」の障害というわけではありません。脳には右半球と左半球がありますが、左右で独立しているわけではなく、お互いに情報を交換しあっています。そのため、片側がダメージを受けると、その反対側の脳にも多少なりとも影響があります。麻痺していないように見える身体も実は手足を動かしにくかったり、力を入れにくかったりといった障害が見られることもあるのです。

運動麻痺としてあらわれる症状は、手足を動かしにくい、しゃべりにくい、手の細かい動き(巧緻性)ができないなどです。感覚麻痺としては、触られている感覚が鈍い、熱い・冷たいの判断ができないなどがあります。これらの症状については「脳梗塞の症状」でも詳しく説明していますので、ご確認ください。

高次脳機能障害

高次脳機能障害は、脳梗塞の後遺症として残りやすいもののひとつです。

【高次脳機能に含まれる機能】

  • 記憶
  • 学習
  • 認知(ものごとを捉える機能)
  • 注意
  • 判断
  • 言語

これらの機能に障害が起こると、次のような問題が起こります。

■注意障害
注意が散漫になってしまい、同じことをし続けることが難しくなります。

例えば、洗濯物をたたもうとしても、途中で部屋のホコリが気になって掃除を始めたり、来月の家族旅行のことを思い出して宿の予約を始めたり、夕食の準備のことを考え始めてしまって、洗濯物をたたむ手がとまります。その結果、全然ひとつの仕事が完了しません。

逆に、ひとつのことにかかりきりになり他のことに注意が向かない、といったことも注意障害に含まれます。料理をしているとき、野菜スープをつくるのに夢中になって、同時に焼いていた魚のことに注意が向かず、真っ黒焦げにしてしまったりもします。

■失行
私たちが普通に行っている行為ができなくなる症状のことです。例えばハサミと紙を渡されて「ハサミで紙を切ってください」と言われたとき、その言葉の意味はわかっているにもかかわらず、どのように使って良いかわからない状態になります。

■失認:相貌失認、半側空間無視、ゲルストマン症候群
見たり聞いたりしたものが何かがわからない症状です。視覚は正常で、見えてはいるのに、それが何かを説明できなくなります。人の顔を見分けられない場合を「相貌失認」と言います。

半側空間無視という症状も失認の一種です。視野の左右どちらか半分の空間が、見えてはいるのに認知できない状態です。歩いていると左右どちらかに偏ってしまったり、見えているはずの障害物にぶつかったり、食事を片側半分食べ残したりします。

失認によって、よく知っているはずの場所で迷子になってしまう場合もあります。

失認をともなう特徴的なパターンのひとつに「ゲルストマン症候群」があります。典型的なゲルストマン症候群は以下の4つの症状から成るとされます。

【ゲルストマン症候群】

  • 手指失認
    • 言われた指を正しく選べなかったり、触れた指がどの指かがわからなかったりする症状です。「身体失認」の一種です。
  • 左右識別障害
    • 左右がわからない症状です。
  • 失書
    • 字が書けないことです。字を見ながら書き写すことはできる場合があります。
  • 失計算
    • 計算ができないことです。

ほかに脳梗塞では記憶や学習といった機能が低下することもしばしば見られ、「昨日練習したことができない」といったことも多いです。そのためなかなかリハビリが進まず、本人や家族がやきもきしてしまうことがあります。同じ練習を何度も繰り返したり、より実践する環境に近い状態で練習するなどの工夫により、カバーできることもあるかもしれません。

精神障害

脳梗塞の後遺症としてあまり知られていないのが、精神障害です。脳の中でも精神状態や心理状態に関連する部位がダメージを受けたり、その部位と神経で連結している部分がダメージを受けたときに見られます。

なかでも多いのが、脳卒中後の「うつ」です。脳自体のダメージに加えて、脳卒中で自分の手足が動かなくなったりすることに精神的なダメージを受けて、うつになりやすくなると考えられています。

また、家族は脳梗塞の後に「性格や人格が変わった」と気づくことがあります。脳の特定の部位がダメージを受けることで、性格が優しくなったり、逆に怒りやすくなったり変化することがあるためです。人が変わってしまったように感じ、家族の方は淋しさや戸惑いを覚えると思います。しかし、本人の考えでやっていることではなく、病気のために起きたことです。向き合うのが辛くなった時には、医療者や地域の福祉センターなどに相談をしてみてください。

3. 脳梗塞の後遺症と上手に付き合うにはどうすればいいのか

脳梗塞を経験すると、どうしてもいくらかの後遺症が残ってしまいます。

脳梗塞の後遺症は細かく分けると非常に多くの種類があります。障害された場所の微妙な違いによって、一人ひとりの症状が違ってきます。このページで説明しきれなかった症状も無数にあります。どんな症状があらわれていて、何ができなくなっているのか、何に困るのかを生活の中でよく観察することが、上手く付き合うための第一歩です。

後遺症を抱えて退院し、家庭や社会に復帰するためには、リハビリテーションや、個人の工夫、家族など周りのサポートが大切です。脳梗塞を発症した場合、全身の状態が許す限り、なるべく早くリハビリを始めるようにしてください。