2016.12.18 | ニュース

セロトニンが出る病気で肺の手術になった14歳女子

ワシントン大学から症例報告

from Case reports in pediatrics

セロトニンが出る病気で肺の手術になった14歳女子の写真

カルチノイドはセロトニンを分泌する腫瘍です。セロトニンが原因で下痢、紅潮、喘鳴など「カルチノイド症候群」と呼ばれる症状を起こします。気管支にできたカルチノイドがカルチノイド症候群を起こした女の子の例が報告されました。

アメリカのワシントン大学の研究班が、気管支のカルチノイドによってカルチノイド症候群が現れた14歳の女の子の例を『Case Reports in Pediatrics』に報告しました。

この女の子は、6か月以上続く疲労感と、2か月以上続く咳を訴えて受診しました。痰はありませんでした。週に1-2回の微熱と、寝汗頭痛動悸胸の痛み呼吸困難顔のほてり下痢の症状がありました。

それまでに受けた治療として、喘息の治療によく使われるステロイドとサルブタモールで咳がわずかに和らぎました。子どもに多いマイコプラズマ肺炎などに有効な抗生物質のアジスロマイシンも使われましたが、症状は続いていました。

以前にかかった病気として、軽度のアレルギー性鼻炎がありました。また、アメリカ中西部(五大湖周辺などの地域)にたびたび旅行し、馬や牛に触れていました。

喫煙はなく、検査で呼吸機能などに異常はありませんでした。

胸部レントゲンとCTで、左気管支に正常ではないが見つかりました。周りに液体が溜まっている様子も見られました。

 

入院して、内視鏡を気管に入れる気管支鏡検査を行ったところ、分泌物をともなう腫瘍が見つかりました。

症状や腫瘍の見た目から、カルチノイドが疑われました。カルチノイドは普通の肺がんとは違った腫瘍の一種で、周りに転移しない良性の場合もありますが、悪性(がん)の場合もあります。転移がある場合でも10年以上生存できることが多いとされます。

カルチノイドの血液マーカーの検査を行ったところ、セロトニンが基準値を超える240ng/mlに増加していました(基準値は230ng/ml未満)。

手術で肺の一部を切り取り、腫瘍を取り除くとともに近くのリンパ節も検査のため取り出されました。

取り出した組織を顕微鏡で検査したところ、腫瘍はカルチノイドであり、リンパ節転移はしていないことが確かめられました。

手術後の経過は良好で、1か月後には咳、呼吸困難、ほてり、疲労感はなくなっていました。

 

腫瘍が分泌するセロトニンによって症状が現れた例の報告でした。

カルチノイドがある人でも、カルチノイド症候群が実際に現れる人は一部だけです。この報告は子どもの気管支カルチノイドによるカルチノイド症候群の珍しい例として挙げられています。

この女の子に現れたほてり・動悸・下痢などはカルチノイド症候群の症状としては典型的です。セロトニンの作用による症状です。ほかにカルチノイド症候群では以下の症状が出ることがあります。

  • 痛み
  • 潮紅
  • 首・顔などの赤い発疹
  • かゆみ
  • 顔のむくみ
  • よだれ
  • 低血圧
  • 喘鳴(喘息のように呼吸がゼーゼー鳴る)

カルチノイドはこれらの症状のほか、セロトニンの原料になるトリプトファンを消耗してしまうため、トリプトファンから作られるナイアシンを不足させ、皮膚炎・下痢・認知症などが現れる栄養不足状態(ペラグラ)の原因になる場合がごくまれにあります。セロトニンが過剰に作られることで、ほかの必要な物質が足りなくなってしまうのです。

さらに、カルチノイド症候群が心臓に影響することも多く、重症では心不全に至ります。心臓の異常によって死亡する患者もいます。

 

カルチノイドはまれな病気ですが、当てはまる症状が多い人は一度病院で原因を調べてもらってはどうでしょうか。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Endobronchial Carcinoid and Concurrent Carcinoid Syndrome in an Adolescent Female.

Case Rep Pediatr. 2016.

[PMID: 27895950]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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