2021.04.07 | コラム

ファイザー、モデルナ、アストラゼネカの次に日本で期待される新型コロナワクチンは?

今後、日本で使用される可能性があるワクチンの開発状況について解説します

ファイザー、モデルナ、アストラゼネカの次に日本で期待される新型コロナワクチンは?の写真

ファイザー社とBioNTech社が開発したmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンが史上初の新型コロナウイルスワクチンとして欧米で承認され、2020年12月から世界各国でワクチンの接種が始まっています。日本では2021年2月17日に同ワクチンの接種が始まり、2021年5月21日にはモデルナ社、アストラゼネカ社のワクチンが特例承認されました。2021年5月現在、世界を見渡すと約100種類ものワクチンの臨床試験が進んでおり、遠くない将来、日本でもさらに多くのワクチンが使用できるようになることが予想されます。

ファイザー社とBioNTech社が開発したmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンが史上初の新型コロナウイルスワクチンとして欧米で承認され、2020年12月から世界各国でワクチンの接種が始まっています。日本では2021年2月17日に同ワクチンの接種が始まり、2021年5月21日にはモデルナ社、アストラゼネカ社のワクチンが特例承認されました。2021年5月現在、世界を見渡すと約100種類ものワクチンの臨床試験が進んでおり、遠くない将来、日本でもさらに多くのワクチンが使用できるようになることが予想されます。

このコラムでは今後日本で使用される可能性のあるワクチンに焦点をあてて解説します。

*本コラムは2021年4月7日に配信し、 モデルナ社、アストラゼネカ社の新型コロナワクチンの特例承認を受け2021年5月24日に更新しました。

 

たった一年でなぜできた?

通常、新しいワクチンが開発されて医薬品としての承認を受けるまでには10-15年という長い時間がかかると言われています。人間の一生の長さと比べるとかなりの年月が必要と感じてしまいますね。

それに対して今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV2)に対するワクチンは、1年足らずというとても短い期間で開発から承認、製造が行われました。これには以下のような理由があると言われています。

 

  • 世界的なパンデミックで患者さんの数が多く、ワクチンの臨床試験が迅速に進んだ
  • 新型コロナウイルス感染症が発生する以前から、MERS(中東呼吸器症候群)などのコロナウイルス感染症に対するワクチン開発が進んでいた
  • ウイルスの遺伝情報を全世界的に共有するプラットホーム(GISAID)があり、世界中の研究者がワクチン開発に参加した
  • mRNAワクチンは、従来のワクチンより短期間で大量に製造できた
  • 各国でワクチンの承認審査が迅速に進んだ

 

特殊な世界情勢という背景はあるものの、科学の進歩やワクチン開発に携わる人々の努力によって開発期間の短縮が実現できたと言えます。

 

猛スピードだが、必要なステップは踏んでいる

ワクチンの効果を調べる研究には大きく分けて2つの段階があります。1つは動物実験でワクチンの効果を確認する「前臨床試験」、もう1つは実際の人間にワクチンを接種して効果を検証する「臨床試験」です。

臨床試験にはさらに3つのステップがあります。

1:第I相試験(Phase 1, P1)
  少人数の健康な成人を対象とし、ワクチンの安全性(どのような副反応が起こるのかなど)をチェックします。

2:第II相試験(Phase 2, P2)
  数十人規模の人を対象とした試験で、ワクチンの接種量・接種回数・接種スケジュールを決定します。

3:第III相試験(Phase 3, P3)
  数百人から数万人規模の人を対象にワクチンを接種して有効性・安全性を最終検証します。

ワクチン開発の詳細についてはこちらのコラムも参考にしてください。

 

約100種類のワクチンが臨床試験中

2021年5月現在、全世界で約100種類のワクチン候補に対する臨床試験が進行しており、また約180種類のワクチン候補に対する前臨床試験が行われています。これらのうち、実用に最も近い第III相試験(第II/III相試験)が行われている、主なものについて以下にまとめます。

 

【主なワクチンの開発状況】

P4:第IV相試験(市販後の調査)、P3:第III相試験、P2/3:第II/III相試験接種回数に皮下注(皮下注射)と記載されているもの以外は筋肉注射

試験の段階 開発者 種類 接種回数 欧米での緊急承認 日本の状況
P4 ファイザー / ビオンテック(アメリカ) mRNAワクチン 2 特例承認
P4 アストラゼネカ (イギリス) ウイルスベクターワクチン 1または2 特例承認
P4 モデルナ(アメリカ) mRNAワクチン 2 特例承認
P3 ジョンソン&ジョンソン(ヤンセン)(ベルギー) ウイルスベクターワクチン 1または2  
P3 ノババックス (アメリカ) サブユニットワクチン 2    
P3 キュアバック AG (ドイツ) RNAワクチン 2    
P3 サノフィパスツール (フランス) サブユニットワクチン 2    
P2/3 イノビオ・ファーマシューティカルズ(アメリカ) DNAワクチン 2 (皮下注)    
P2/3 アンジェス (日本) DNAワクチン 2    
P2/3 ReiThera (イタリア) ウイルスベクターワクチン 1    
P2/3 COVAXX (アメリカ) サブユニットワクチン 2    
P2/3 メディカゴ (カナダ) ウイルス様粒子(VLP)ワクチン 2    

参考

WHO, COVID-19 Landscape of novel coronavirus candidate vaccine development worldwide, 2021年5月14日更新
・厚生労働省:新型コロナワクチンについて > 開発状況について

 

世界各国の開発状況ばかりが並んでいるので、日本の企業は何をやっているんだと思われる人もいるかもしれません。日本の企業でもコロナワクチンの研究開発は進められており、大阪大学と共同研究を行っているアンジェス社が第II/III相試験を実施中であり、試験結果が待たれるところです。(日本のワクチン開発状況についても近日配信予定です。)

 

第II/III相試験とは

ここでおさらいすると、第II相試験は数十人の人に参加してもらい、ワクチンの接種量・接種回数・接種スケジュールを決定する試験、第III相試験は数百人から数万人の人を対象にワクチンの有効性・安全性を最終検証する試験でした。また、第III相試験では通常、ランダム化比較試験という方法がとられます。これは患者さんを2つのグループに分け、グループAには新ワクチンを、グループBにはプラセボ(新ワクチンと同じ見た目だが効果のない偽薬)を投与してワクチンの効果を調べるやり方です。

一方で、第II/III相試験では第II相試験と第III相試験をミックスした方法で試験を行います。第III相試験と同じ様に患者さんをグループ分けしますが、新薬を投与するグループをさらに2つか3つに分け、グループごとに投与量を変えたり投与スケジュールを変えます。そしてそれぞれの効果をプラセボと比較します。

 

例えばアンジェス社の第II/III相試験では以下のようにグループ分けがされています。

  • 新ワクチン2.0mgを2週間間隔で2回接種するグループ
  • 新ワクチン2.0mgを4週間間隔で2回接種するグループ
  • プラセボを投与するグループ

(参考:アンジェス社「新型コロナウイルスDNAワクチン: 第2/3相臨床試験について」

 

この試験ではワクチンの効果があるかどうかを調べると同時に、2週間間隔の投与と4週間間隔の投与のどちらがより効果が期待できるかを調べることができます。一般的に第II/III相試験では、第II相試験と第III相試験を別々に行うよりも試験全体にかかる期間を短縮し、医薬品の承認までのスピードを上げることができます。他方、単純な1対1の比較ではないため、本当に効果があることを証明するためには事前に綿密な試験計画を立てる必要があります。

 

ワクチンの種類:ウイルスベクター、mRNA、DNAなど

上の表に登場したワクチンの種類は耳慣れのしないものが多いと思いますので、ここで簡単に解説します。

 

◎不活化ワクチン

新型コロナウイルスを分離・培養し、不活化(感染する力をなくすこと)したものをワクチンとして精製したものです。新型コロナウイルスを構成するさまざまなたんぱく質が含まれ、ウイルスを標的とする抗体が作られることで新型コロナウイルスに対する免疫力を強化します。

すでに実用化されている不活化ワクチンとして、インフルエンザ菌b型ワクチン(Hibワクチン)や日本脳炎ワクチンなどがあります。

 

◎サブユニットワクチン(組み換えたんぱく質ワクチン)

サブユニットワクチンは別名を組み換えたんぱく質ワクチンとも呼ばれます。新型コロナウイルスの遺伝子情報からウイルスを構成するたんぱく質の一部を人工的に作り出し、これを原料として精製されたワクチンです。

組み換えたんぱく質ワクチンの名前は、遺伝子情報からたんぱく質を作る過程で遺伝子組み換え技術を利用していることに由来します。

 

上で述べた2つのワクチン(不活化ワクチン、サブユニットワクチン)では新型コロナウイルスを構成するたんぱく質の一部を投与しますが、ウイルスベクターワクチン、RNAワクチン、DNAワクチンと呼ばれる3つのワクチンではたんぱく質の設計図である遺伝子(遺伝情報)をワクチンとして接種します。

 

◎ウイルスベクターワクチン

ウイルスベクターワクチンでは、人間に無害なウイルスに遺伝子の運び屋(ベクター)になってもらい、新型コロナウイルスのたんぱく質を作る遺伝子を体内に投与します。身体に入ったベクターウイルスは細胞に入り、そこで新型コロナウイルスの遺伝子から新型コロナウイルスのたんぱく質(感染性なし)が作られます。これを標的にして免疫が強化されます。

 

◎RNAワクチン

RNAワクチンでは、新型コロナウイルスたんぱく質の設計図であるメッセンジャーRNAと呼ばれる物質を体内に投与し、体の中でたんぱく質(感染性なし)を作らせ免疫を強化します。RNAは壊れやすい物質であり、脂質でできたカプセルで補強された状態で接種されます。

 

◎DNAワクチン

DNAワクチンでは、同じく新型コロナウイルスたんぱく質の設計図であるDNAを体内に投与します。身体の中でDNAからたんぱく質(感染性なし)が合成され、これを標的にして免疫が強化されます。

 

欧米で行われている緊急承認とは

通常、ワクチンの臨床試験は年単位の経過観察を行って安全性や効果について詳細に検討するように計画されます。新型コロナウイルスに対するワクチンの臨床試験も同様に、約2-3年間の計画で試験が予定されています。しかし、試験の終了を待っていては現在の世界的な流行に対して後手を踏んでしまいます。そこで、ワクチンについてのもっとも重要な情報である「感染予防効果」および「接種後1週間以内の副反応」についてのデータが発表された時点で、通常の薬剤承認のプロセスとは異なる特例的な承認が行われています。これを緊急使用承認(Emergency Use Authorization, EUA)と呼びます。緊急使用承認を得たワクチンは臨床試験の終了を待たずに製造と各国への供給が開始され、世界規模のワクチン接種へとつながっています。

 

このコラムでは、現在世界中で開発されている新型コロナウイルスワクチンについて解説しました。すでに日本ではファイザー社のワクチン接種が始まっており、次いでモデルナ社、アストラゼネカ社のワクチンも承認されました。今後もさまざまなワクチンが承認され使用されることになると思われます。本コラムでワクチン候補についての知識が深まり、日々更新されるワクチン情報の理解の助けになれば幸いです。

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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