2017.10.17 | ニュース

食べ過ぎで足が麻痺、心電図異常が出た28歳ボディービルダー

韓国から症例報告
from Medicine
食べ過ぎで足が麻痺、心電図異常が出た28歳ボディービルダーの写真
(c) bondarchik - iStock

血液中のカリウムの量は体の作用によって正確にコントロールされています。カリウムが多すぎても少なすぎても致命的な影響があります。ボディービルダーで急に低カリウム血症による麻痺が発生した例が報告されました。

低カリウム血症による麻痺が起こった28歳男性

韓国の慶尚(キョンサン)大学校の研究班が、28歳男性のボディービルダーで急に低カリウム血症による麻痺が起こった例を、医学誌『Medicine』に報告しました。

このボディービルダーは、5日前に地域の競技会に出場し、終わってから4日間、大量の炭水化物を食べていました。競技後に体重は10kg増えていました

すると両足に麻痺が現れてしだいに進行し、12時間以内に歩けなくなり、ベッドからも立ち上がれなくなって救急受診しました。

血液検査でカリウムが1.8mmol/l(基準値3.3-5.1)ときわめて少なく低カリウム血症による麻痺と見られました。心電図ではQT延長、ST低下、陰性T波、U波という、いずれも低カリウム血症に特徴的な異常が現れていました。

 

低カリウム血症とは?

カリウムは筋肉の収縮に深く関わっています。血液のカリウムが多すぎても少なすぎても、心臓の筋肉に影響し、致命的な不整脈などを起こす恐れがあります。

健康な体では、カリウムはさまざまなしくみで調節され、血液の中では4mmol/l前後の狭い範囲に保たれています。食事が多少偏ったぐらいでは変わりません。

低カリウム血症は血液の中のカリウムが少なくなった状態です。低カリウム血症は筋力低下などを起こすことがあります。

 

なぜ低カリウム血症になったのか?

低カリウム血症の主な原因として以下が考えられます。

  • 食事からのカリウム摂取不足
  • 下痢
  • 嘔吐
  • やけど
  • 周期性四肢麻痺
  • 薬剤の作用
  • 代謝性アルカローシス
  • 尿によるカリウムの喪失

この男性では摂取不足は考えにくく、下痢・嘔吐・やけどはありませんでした。持病はなく、最近薬剤やサプリメントも使用していませんでした。

検査で低カリウム血症の原因が探られました。

周期性四肢麻痺は遺伝やバセドウ病などのほかの病気によって起こることがあり、麻痺の症状を繰り返します。しかしこの男性は生来健康で家族にも自身にも同じ症状が出たことはなく、考えにくいと思われました。

アルカローシスとは血液がアルカリ性に傾くことです。酸・アルカリのバランスを見る動脈血ガス分析検査では、pH 7.39、pCO2 46mmHg、HCO3 23mmol/lと正常範囲であり、アルカローシスは考えにくいと思われました。

カリウムが尿の中に出ていくことはホルモンの異常や腎臓の異常により起こる場合があります。しかし尿のカリウム濃度は10mmol/lと正常範囲であり、これも考えにくいと思われました。

低カリウム血症の原因がもしほかの病気ならば治療を必要とする可能性があります。この男性ではほかの病気が見つかりませんでした

 

カリウムを補充して7日で退院

点滴でカリウムをゆっくり補充する治療が行われました。血中カリウムは正常範囲になり、筋力は回復しました

入院72時間後には歩けるようになり、入院7日後に退院となりました。8か月後までの経過観察で再発はありませんでした。

 

低カリウム血症の原因は何だったのか?

研究班は考察の中で、過去の文献にある似た例に触れています。

ひとつの例では、ボディービルダーがホルモン剤などの薬物乱用をしたことで、低カリウム血症による麻痺が起こっていました。もうひとつの例では、詳細不明のやせ薬を使用したボディービルダーで低カリウム血症による麻痺が起こっていました。

今回の男性は薬剤やサプリメントを使っていなかったため、どちらにも当てはまらないと考えられました。研究班は生理作用に基づく説明として、この男性が大量の炭水化物を食べたことにより急激にインスリンが分泌され、インスリンの作用によって血液中のカリウムが細胞内に取り込まれたのではないかという仮説を示しています。

 

競技後も体を大事に

ボディービルダーが急に起き上がれなくなり、食べ過ぎが原因と思われた例を紹介しました。

食べ過ぎが低カリウム血症による麻痺を起こすという考えは確立されたものではありません。しかし、どんな生理作用を起こすかはともかく、4日で10kgも増えるほどのむちゃ食いが体に悪いことは想像がつくでしょう。

ボディービルダーは厳しい食事制限で体を磨き上げますが、競技が終わって解放されても、あまり極端なことはしないほうがいいようです。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Severe hypokalemic paralysis and rhabdomyolysis occurring after binge eating in a youngbodybuilder: Case report.

Medicine (Baltimore). 2017 Oct.

[PMID: 28984784]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。