アメリカ全国の薬物使用状況の調査
アメリカ合衆国の薬物乱用・精神衛生管理庁などの研究班が、2015年に行われた全国調査のデータをもとに、国内でオピオイドの乱用をした人の数などを推計し、医学誌『Annals of Internal Medicine』に報告しました。
2015年の全国薬物使用健康調査(NSDUH)のデータが使われました。NSDUHは、全国から世帯を選び出し、調査員が訪問して、対象者が自分の手で回答をコンピュータに(調査員にも内容を知られることなく)入力することで、薬物使用の状況などについて情報を集めた調査です。51,200人がすべての質問に答えました。
オピオイドとは?
モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどが、オピオイドという種類に分類される薬剤です。オピオイドは治療上いろいろな用途で使われますが、中でも痛みを和らげる効果から、中等度から高度の痛みの治療としての用途があります。一般的なNSAIDsやアセトアミノフェンといった痛み止めの薬では効果が不十分な場合に、オピオイド鎮痛薬は非常に重要な役割を果たします。
多くのオピオイド鎮痛薬に共通する副作用として眠気、便秘、吐き気、依存性、呼吸抑制などがあります。依存性は時として薬物乱用につながる可能性もあります。犯罪行為とも関係する薬物乱用の問題の中でオピオイドもしばしば話題となります。
乱用の可能性がある一方で、適切な目的と用法・用量で使う限り、オピオイド鎮痛薬は強い痛みの治療に欠かせない有益な薬です。
オピオイド使用は37.8%、乱用は4.7%
調査結果からオピオイド使用について以下のことが見積もられました。
重み付けしたNSDUHの推定値によれば、2015年には、アメリカの市民で施設に入っていない成人の9,180万人(37.8%)が処方薬のオピオイドを使用した。1,150万人(4.7%)が乱用だった。190万人が薬物使用障害だった。
軍人や施設に入っている人を除くアメリカの市民の成人のうちで、2015年のうちに処方薬のオピオイドを使用した人は全体の37.8%にあたる9,180万人と推計されました。この中には乱用も含まれますが、適切に処方された人も含まれます。そのうち1,150万人がオピオイドを乱用していると見られました。薬物使用障害にあたる人は190万人と見積もられました。
乱用した人の特徴について以下の結果がありました。
乱用と薬物使用障害は成人のうち無保険、失業中、低収入、または行動上の健康問題がある人に最も多く報告された。乱用した成人のうち、59.9%がオピオイドを処方なしで使用したと答え、40.8%は最近の乱用の際に友人や親族から処方薬のオピオイドを無料で手に入れていた。
乱用・薬物使用障害は以下に当てはまる人に多い傾向がありました。
- 無保険
- 失業中
- 低収入
- 行動上の健康問題がある
また、乱用した人の40.8%が、最後に乱用した時には友人や親族から処方薬のオピオイドを無料で手に入れたと答えました。
研究班は「この結果から、証拠に基づいた痛みの管理にアクセスしやすくすること、未使用のオピオイドを潜在的に濫用可能な状態にする過剰な処方を減らすことが必要と思われる」と結論しています。
オピオイドの適正使用と、アメリカが抱える問題
アメリカのオピオイド乱用についての調査結果を紹介しました。オピオイド鎮痛薬が有効だといっても、人口の3割近くに処方されるといった状況は、やはり行き過ぎかもしれません。
アメリカで行われている薬物乱用の中でもオピオイド乱用は一部にすぎません。同じ2015年のNSDUHのデータでは、12歳以上のうち10.1%が最近1か月以内に薬物乱用を経験していること、そのうちマリファナの乱用が最も多く2,200万人以上にのぼることなどが推計されています。
オピオイド鎮痛薬が犯罪のイメージと結び付いた結果、本当にオピオイド鎮痛薬を必要としている患者が不当な扱いを受けたり、自分でもオピオイド鎮痛薬による治療をためらったりする事例が報告されています。
オピオイド鎮痛薬は現代の医療には欠かせない薬です。必要な人に必要な薬を届けるために、乱用やそれによる社会の偏見といった問題に取り組むことをアメリカは迫られています。
執筆者
Prescription Opioid Use, Misuse, and Use Disorders in U.S. Adults: 2015 National Survey on Drug Use and Health.
Ann Intern Med. 2017 Aug 1.
[PMID: 28761945] http://annals.org/aim/article/2646632/prescription-opioid-use-misuse-use-disorders-u-s-adults-2015※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。