2016.02.27 | コラム

医療用麻薬とは決定的に違う、薬物乱用における麻薬とその危険性

依存性などをふまえて

医療用麻薬とは決定的に違う、薬物乱用における麻薬とその危険性の写真
1.代表的な麻薬と薬物乱用
2.薬物乱用におけるヘロインとその極めて高い危険性について
3.薬物乱用におけるコカインとその極めて高い危険性について
4.その他の麻薬の乱用

薬物乱用の歴史は人類の歴史の中でも暗い歴史の一つと言えます。残念ながら現在の社会においても様々な違法薬物による事件が後を絶ちません・・・。今回は主に「薬物乱用における麻薬」について解説します。

医療現場で使われている麻薬(医療用麻薬)とは一般的にモルヒネやオキシコドンなどの成分を含む薬剤をあらわし、がん疼痛緩和などで活用され患者のQOLの維持などに重要な役割を果たしています。医療用麻薬の適正使用や疼痛ケアに関する考え方、患者や家族のニーズに合わせた製剤の開発は近年非常に進歩を遂げてきた領域でもあり、麻薬という言葉へのイメージは良い意味で変わってきている面もあります。

しかし一方で、以前からあるマイナスの意味での麻薬のイメージが払拭されているとは言えず、ある側面では悪化しているとも言えます。その大きな要因が社会問題でもあり覚せい剤などと並んで犯罪としても横行する乱用薬物としての麻薬です。

 

◆ 代表的な麻薬と薬物乱用

日本における麻薬とは中枢神経系に作用し精神機能に影響を及ぼす物質で「麻向法(麻薬及び向精神薬取締法)」の条文で定義され指定されているものを指します。

麻薬は大きく分けて、あへん系麻薬、コカ系麻薬、合成麻薬、その他の幻覚剤に分類されます。

医療用医薬品として使用するモルヒネ、コデイン、オキシコドンなどはあへん系麻薬、コカインはコカ系麻薬、フェンタニルやペチジンなどは合成麻薬に分類されています。医療用麻薬は医師の診断の下、非常に慎重にそして適切な量を用いて使われることで臨床上非常に高い有益性・有用性などを発揮します。

しかし医療用麻薬は麻薬として指定されている薬物の一部であり、その他の多くはいわゆる薬物乱用で使用され問題となる麻薬になります。近年ではいわゆる危険ドラッグとして世に出てくる成分が次々と麻薬に指定されてきています。今回は薬物乱用における麻薬の中でも2大巨頭ともいえるヘロインコカインを例にとり、極めて高い危険性などを考えてみます。[ 薬物乱用:医薬品を本来の治療目的から逸脱した用法や用量あるいは目的のもとに使用すること、治療目的にない薬物を不正に使用すること 

 

◆ 薬物乱用におけるヘロインとその極めて高い危険性について

あへん系麻薬の元になる生アヘンは植物のケシの未熟果皮に傷をつけモルヒネやコデインなどのアルカロイドを含む乳液を乾燥したものであり、モルヒネから造られたヘロイン(成分名:ジアセチルモルヒネ塩酸塩)は元々は咳止めとして開発された薬剤でした。(勿論、現在ヘロインは世界的に禁止・規制されている薬物です)

ヘロインは乱用薬物の頂点に君臨しアメリカ合衆国では特に乱用が目立つ薬物です。モルヒネより作用が数倍強力で中毒性も非常に高い薬物となっています。ヘロインはビッグ・エイチ、ブラック・タール、スキャッグ、スマックなどの通称で呼ばれ身体的依存性は非常に高く、精神的依存性もあります。また、他の麻薬よりも身体的依存性が早くできあがるとされます。ヘロインの最大の恐怖はその禁断症状にあるとされています。中毒者の禁断症状がひどくなると、自分の身体を壁などへ打ち付ける自害行為、背中などの骨が砕けるように痛み座ることすらできない・・・などの症状があらわれ、これらから逃れるために更なるヘロイン摂取へ走らせていくのです。

ちなみにモルヒネなどのアヘンアルカロイドの原料となるケシですが、ケシ自体は意外(?)にも私たちの身近にあり、特に食用としてのケシの実は七味唐辛子に入っていたり、あんパンに振り掛ける食材として販売されています。もちろん食用のケシの実(ポピーシードの名前でも販売されている)自体にはモルヒネは含まれていませんが、発芽すると法(あへん法)に触れるため、国内で販売されている種子には発芽防止処置が施されています。(海外ではポピーシードからアヘンアルカロイドが検出されたという報告もありますが、収穫時の果実の粉砕の際にアヘンアルカロイドを含む果皮などがポピーシードへ付着したことなどが原因と考えられています)

 

◆ 薬物乱用におけるコカインとその極めて高い危険性について

コカインはコカという植物の葉を原料として造られ、陶酔感などを与える代償として少量でも場合によっては致死量となる可能性がある危険な薬物です。コカインはコカイン塩酸塩として医療用麻薬としても存在し、日本では主に表面麻酔の薬剤として適正に使われることもあります。しかし密売され薬物乱用で使われるコカインは当然ながら医薬品として造られているものではありません。それどころか他の違法麻薬と同じように大半は、カサ増しのためによくわからない成分の増量剤などが混ざっています。実際にコカインに起因する死亡事故ではこうした増量剤が原因であることも多いとされています。このことからコカインという言葉は同じでも、薬物乱用としてのコカインは医療用とは全く別の薬物と言っても過言ではないのです。

薬物乱用目的で密売されるコカインの通称は、コーク、トゥート、ブロウ、ホワイト、クラックなどの呼び名で扱われています。中でもクラックはコカインの遊離体(簡潔に説明すると、コカインとしての活性をもった状態が遊離体となります)に化学変化を与えて塊にしたものです。極めて中毒性が高くそして非常に早く作用が発現します。

コカインの乱用では記憶力の低下、不眠、肺障害、脈拍や心拍異常などによる心臓障害、呼吸困難・・・など様々な身体的症状に加え、精神的症状もあらわれます。精神症状の慢性的な症状においては「コーク・バグ」(直訳すると「コーク:コカイン」「バグ:虫」)と呼ばれる特殊な感覚があらわれ体中を虫が這っている様な感覚に襲われます。そしてコカインの最大の恐怖は「止めることが難しい」点です。コカインは麻薬の中でも更生例が極めて少ない薬物の一つであり、中毒者は困難に向き合うことになります。

 

◆ その他の麻薬の乱用

今回挙げたヘロインやコカインをはじめ、特に近年における犯罪などの原因となる合成麻薬のMDMA、当初は通信販売やインターネットなどで取引されていたマジックマッシュルーム(麻薬成分を含むため、平成14年に麻薬原料植物として指定された)など数多くの薬物乱用を引き起こす薬物が世に出て被害を拡大し続けています。特に若年齢層の乱用は日本の将来へ暗雲をもたらす脅威ともなります。

薬物乱用に対して断固として『絶対に、絶対に、ダメだ!!』を貫くだけでなく、次世代へ警鐘を鳴らしていく必要があるのです。

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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