2016.03.10 | コラム

日本生まれの薬物も、薬物乱用における覚せい剤について

覚せい剤の乱用について
日本生まれの薬物も、薬物乱用における覚せい剤についての写真
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この記事のポイント

1.覚せい剤とは?
2.日本生まれのメタンフェタミンと密造覚せい剤の極めて高い危険性について
3.「スピード」と名付けられたアンフェタミンの極めて高い危険性について

近年、世界的にその問題がクローズアップされてきている薬物乱用。乱用薬物の中でも日本においては特に覚せい剤による事件が残念ながら後を絶ちません。今回は社会に闇をもたらす「覚せい剤の薬物乱用」について解説します。

◆ 覚せい剤とは?

「覚せい剤」とは、その名前からもわかるように中枢神経系の興奮作用をあらわし、乱用すると強い精神依存を起こす物質で「覚せい剤取締法」で規制されているものになります。

覚せい剤として規制されている成分としては、メタンフェタミン(フェニルメチルアミノプロパン)、アンフェタミン(フェニルアミノプロパン)及びこれらの塩類が主なものです。

モルヒネなどの医療用麻薬と同様、覚せい剤も元をたどれば医薬用として造られた薬剤の一つと言えます。実際に現在でも医療用医薬品として覚せい剤や覚せい剤原料を主成分とした製剤が造られ適正使用されている一面もあります。

しかしヘロインやコカインなどの麻薬の薬物乱用が社会問題となっているのと同じく、覚せい剤の薬物乱用も社会問題となっていて、世界中に蔓延る乱用薬物の一つになっています。[ 薬物乱用:医薬品を本来の治療目的から逸脱した用法や用量あるいは目的のもとに使用すること、治療目的にない薬物を不正に使用すること

 

◆ 日本生まれのメタンフェタミンと密造覚せい剤の極めて高い危険性について

メタンフェタミンは日本でエフェドリンから合成された成分であり、「ヒロポン」などの名前で販売され、第二次世界大戦時に軍需工場の労働者が徹夜作業を行う時に使用されたなどの過去を持ちます。

「ヒロポン®(成分名:メタンフェタミン塩酸塩)」は現在でも医療用医薬品として存在し、散剤、錠剤、注射剤の剤形が製造・販売されておりナルコレプシー、各種の昏睡、麻酔剤などによる急性中毒の改善などが効能・効果として承認されています。医療用医薬品としての覚せい剤であっても使用においては薬物依存などが注意喚起され医師の診断の下、観察を十分に行い用量及び使用期間に注意して慎重に使われます。

しかし(特に近年における)薬物乱用におけるメタンフェタミンは医療用として製造されるものとは大きく異なり、極めて危険な薬物となっています。

薬物乱用の原因となるいわゆる「密造覚せい剤」としてのメタンフェタミンは、クリスタルやシャブなどの通称で呼ばれます。これらの密造覚せい剤の多くは覚せい剤以外の「異物」を含みます。この異物の正体が賦形剤として使われる乳糖などであればまだ僅かながら希望がある(?)のですが、中にはストリキニーネといった薬剤や殺虫剤などが混入されているものもあります。重度の覚せい剤中毒者は覚せい剤自体にある程度の耐性ができているため、このような異物(夾雑物)が混入した密造覚せい剤を好む者もいます。

ストリキニーネは少量では神経の興奮剤となりますが、過剰摂取により強直性痙攣などを引き起こし場合によっては呼吸停止などがあらわれます。殺虫剤の摂取が人体に悪影響を及ぼすのは言うまでもなく「密造覚せい剤」の摂取がもたらす結末は覚せい剤そのものの毒性などに加え、含有する異物自体も体に有害であるため死に至るケースも少なくないのです。また「密造覚せい剤」の多くは、体内で分解されにくく長時間体内に残存するため、様々な中毒症状をあらわし身体に更なる障害をもたらすのです。

 

◆ 「スピード」と名付けられたアンフェタミンの極めて高い危険性について

アンフェタミンは19世紀後半に合成された薬物で20世紀に入りその覚せい作用が確認されイギリス、ドイツなどで販売され、現在でも世界的な乱用薬物の一つになっています。日本で誕生したメタンフェタミンが中国、ミャンマーなどアジア地域で密造されているのに対して、アンフェタミンの主な密造地域はヨーロッパとなっています。

アンフェタミン類は吸入、注射といった方法での乱用が一般的ですが、重度な依存者は瞬時に強力な快感を得られる注射を好む傾向にあります。粉末を溶かして注射すると瞬時に強力な快感を得られるとされます。この方法で使用するアンフェタミンを通称で「スピード」と呼ぶことがありますが、まさに的を射ている呼称と言えます(メタンフェタミンを「スピード」の通称で呼ぶ場合もあります)。瞬時に強力な快感を得られるということはその反面、身体や精神への反動も計り知れないことは容易に想像がつくのではないでしょうか?

「スピード」の摂取により呼吸数や心臓の動きが急激に上昇し、これらが高揚感などにつながりまるで自分が超人になったような感覚をもたらす一方、一度エネルギーが枯渇すると極度の疲労感、頭痛、眩暈などの症状に襲われます。この反動的な症状を緩和させるため、また再び高い高揚感を求めるために更なる薬物摂取へと走らせます。これにより、記憶力の低下、攻撃性の増強、異常行動などがあらわれ心臓障害や脳障害などの深刻な症状を引き起こしていくのです。

2000年ごろ以降、タイで行われた覚せい剤の大規模な取り締まりなどにより減少の兆しが一瞬見えたかに思えた覚せい剤の乱用ですが、残念ながら現在でも世界中で多くの乱用者がいる薬物の一つとなっています。メタンフェタミンの薬物乱用者の多くはアジアに居住しているとされ、更にその多くは東アジアと東南アジアに居住しているとされています。また近年ではエクスタシーの名称で多くの乱用者を生んでいる合成麻薬のMDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン)による薬物犯罪・事件の多発など日本を取り巻く覚せい剤事情は決して悠長に構えていられるものではありません。

繰り返しになりますが、覚せい剤の恐ろしさは破壊的な依存性と治療が難しく乱用者の多くが死へとつながることにあります。仮に覚せい剤自体が直接の死因とならなくても、長期の乱用によって栄養障害などがおこり細菌ウイルスなどの感染が生じやすくなったり、不純物を含む覚せい剤の注射による血管へのダメージ、腎臓病、肺機能障害、心臓障害、脳障害など死へのロードを着実に歩むことになるのです。

今回挙げた覚せい剤や違法薬物による薬物乱用は近年、若年齢層にも広がり日本の将来へ暗雲をもたらす脅威ともなっています。

薬物乱用に対して断固として『絶対に、絶対に、ダメだ!!』を貫くだけでなく、次世代へ警報を鳴らしていく必要があるのです。

執筆者

中澤 巧

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。