2016.04.04 | ニュース

O-157による「溶血性尿毒症症候群」は抗生物質では防げない

17件の文献の調査から

from Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America

O-157による「溶血性尿毒症症候群」は抗生物質では防げないの写真

O-157など、「志賀毒素」という毒素を作る種類の大腸菌は、溶血性尿毒症症候群という極めて危険な状態の原因になります。予防法は確立されていません。抗菌薬(抗生物質)の効果について、これまでの研究を統合した結果が報告されました。

◆溶血性尿毒症症候群とは?

大腸菌は通常、健康な人の腸の中にも住み着いていて、正常な腸内フローラを作っています。しかし大腸菌の中でもO-157などの種類のものは、志賀毒素(ベロ毒素)という毒素を作る特徴があり、志賀毒素産生性大腸菌と呼ばれます。志賀毒素は赤痢菌が作る毒素と同じもので、その名前は赤痢の研究で知られる志賀潔に由来しています。

志賀毒素は下痢や血便の症状を起こすだけでなく、特に重症の場合には溶血性尿毒症症候群(HUS)という命に関わる状態を引き起こします。HUSは、赤血球が壊される(溶血性貧血)、血小板減少、腎機能低下といった病態によって、死に至ったり、全身状態が回復しても腎臓に障害を残すこともあります。

志賀毒素産生性大腸菌の治療では、志賀毒素が症状を起こしているため、抗菌薬で大腸菌を排除しても、残った志賀毒素による症状が続きます。抗菌薬がHUSの予防につながるかどうかは、研究者の間でも結論が出ていません。

 

◆17件1,896人のデータを解析

ここで紹介する研究では、文献の調査によって、これまでに行われた研究報告のデータがまとめられました。関係する17件の研究報告が集められました。集まったデータから、合計1,896人の患者について、抗菌薬を使うことでHUSを予防できるかどうかが、統計解析により検討されました。

 

◆抗菌薬を使ったほうがHUSが多い?

次の結果が得られました。

すべての研究を含めてプールすると、抗菌薬使用とHUSの発生が関連するオッズ比は1.33(95%信頼区間0.89-1.99、I2=42%)だった。バイアスのリスクが低く、かつHUSの適切な定義を用いた研究だけを含めて繰り返した解析では、オッズ比は2.24(95%信頼区間1.45-3.46、I2=0%)と計算された。

見つかった研究すべてのデータをまとめると、抗菌薬を使うかどうかで、HUSの頻度に違いが見られませんでした。しかし、研究ごとに質を評価し、一定基準を満たしたものだけを選んでデータをまとめると、抗菌薬を使ったときのほうがHUSが多くなっていました。

研究班は、「したがって、志賀毒素産生性大腸菌に感染した人に対して抗菌薬の使用は勧められない」と結論しています。

 

1996年に大阪府堺市で発生した集団食中毒では、O-157が原因となり、HUSを含めて多くの問題が発生し、死者も出る結果となりました。さらに2015年になって25歳で脳出血により死亡した女性の例が報道されるなど、HUSは非常に長期での影響がある可能性もあります。

まれな事例は予測できないとはいえ、短期的にも命に関わるHUSと、その原因である志賀毒素産生性大腸菌は非常に重要な問題であり、対策のため今後も研究が進むことに期待がかかります。

こうした問題につながる食中毒予防のためには、手洗いや食材を十分に加熱するなどの基本的な対策に気を付けてください。食中毒が起こってからのことの前に、まずは衛生が大切です。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Shiga Toxin-Producing Escherichia coli Infection, Antibiotics, and Risk of Developing Hemolytic Uremic Syndrome: A Meta-Analysis.

Clin Infect Dis. 2016 Feb 24. [Epub ahead of print]

[PMID: 26917812]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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