「芸術活動」は軽度認知障害の発症リスクを低下させる?
日本では2012年時点で、約462万人の認知症の患者さんがいると言われており、高齢化に伴い増加傾向にあります。 現在のところ認知症を回復させる治療法はなく、発症を予防したり遅らせることが大変重要です。 今回、米国メイヨークリニックの研究チームが、余暇活動と軽度認知障害の関係について調査を行い、芸術活動が発症リスクを低下させる可能性があると報告しました。
◆軽度認知障害(MCI)とは?
軽度認知障害は健常な状態と認知症との間の状態です。認知機能の低下がみられるものの、認知症の基準を満たさない状態を言います。
主な症状として、簡単に覚えられそうなはずのことが覚えられない、などの記憶障害が挙げられます。
厚生労働省の報告では、年間で10~15%が認知症に移行すると言われています。
◆前向き調査を行う
調査方法は以下のとおりです。
地域住民全体を対象にした米国メイヨークリニックの前向き調査の参加者は、MCIの
発症 を特定するために研究開始時と15か月に1回の間隔で包括的に評価された。研究開始時に、中年期と高齢期の生活習慣要因が質問票を用いて評価された。
◆芸術的な活動で発症リスク減少
調査結果は以下の通りです。
調査登録時に認知機能が正常だった参加者256人(年齢の中央値87.3歳、62%が女性)のうち、121人が中央値4.1年の調査期間の間にMCIを発症した。
MCIのリスクは中年および高齢期に芸術的な活動をしていた(ハザード比0.27、p=0.03)、工芸をしていた(ハザード比0.55、p=0.02)、社会的な活動をしていた(ハザード比0.45、p=0.005)、コンピュータを使用していた(ハザード比0.47、p=0.008)参加者において減少していた。
このように、中年〜高齢期に芸術的な活動や工芸、社会的な活動、コンピュータを使用していた高齢者ではMCIの発症リスクが減少していました。
今回の結果からは、必ずしも芸術的な活動をすればMCIにならないというわけではない点については注意が必要です。芸術的な活動を含め、どのような機序で認知機能に影響を及ぼしているかは分かりません。ただ、色々なことに興味をもち積極的に活動することは、認知機能に対して良い影響を及ぼすのかもしれませんね。実際に認知症の患者さんを診療されている先生方はどのようにお考えになるのでしょう?
執筆者
Risk and protective factors for cognitive impairment in persons aged 85 years and older.
Neurology. 2015 May 5
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。