レチノイド製剤(APL治療薬)
前骨髄球の分化を妨げる遺伝子の抑制機構を崩すことで異常に増殖した前骨髄球を減少させる薬

レチノイド製剤(APL治療薬)の解説

レチノイド製剤(APL治療薬)の効果と作用機序

  • 骨髄球の分化を妨げる遺伝子の抑制機構を崩すことで異常に増殖した前骨髄球を減少させる薬
    • がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで正常な細胞を障害し組織を壊す
    • 急性骨髄性白血病の一つである急性前骨髄球性白血病(APL)は前骨髄球のがん化でおこり染色体異常でキメラ遺伝子が生じ、これが白血球の分化・成熟を阻害し前骨髄球が異常に増加する
    • 本剤はAPLにおけるキメラ遺伝子による白血球の分化抑制機構を崩す作用をあらわす

レチノイド製剤(APL治療薬)の薬理作用

がん細胞は無秩序な増殖を繰り返し、正常な細胞を障害し転移を行うことで本来がんのかたまりがない組織でも増殖する。

急性前骨髄球性白血病(APL)は急性骨髄性白血病の一種で、前骨髄球のがん化によりおこる。APLは15番染色体と17番染色体の転座という染色体異常により、前骨髄球以降の分葉好中球への分化ができなくなり、骨髄や末梢血中で前骨髄球が増加する。これは染色体の転座により、キメラ遺伝子が生じ、細胞の自滅(アポトーシス)や骨髄系細胞分化を阻害することでおこるとされる。

本剤の成分であるレチノイドはAPL細胞でのキメラ遺伝子による分化誘導の阻害を解除する(キメラ遺伝子の抑制機構を崩す)ことで、前骨髄球の分化を促す作用などをあらわすとされる。なお、レチノイドはビタミンAの誘導体(体内で代謝を受けてビタミンAになる物質)で、催奇形性をあらわすことが報告されているため、妊娠する可能性のある婦人へ投与する場合には投与開始前の一定期間、投与中及び投与後の一定期間は避妊を行うなどの注意が必要となる。

レチノイド製剤(APL治療薬)の主な副作用や注意点

  • レチノイン酸症候群
    • 発熱、呼吸困難、胸水貯留、間質性肺疾患、低酸素症などがあらわれる場合がある
  • 皮膚症状
    • 発疹、皮膚乾燥などがあらわれる場合がある
  • 脂質代謝異常
    • 血中のトリグリセリド(TG)や総コレステロール(TC)の増加などがあらわれる場合がある
  • 感染症
    • 肺炎敗血症などがあらわれる場合があり十分な注意が必要
  • DIC血栓症など含む)
    • あおあざができやすい、鼻血、歯ぐきの出血、血尿、鮮血便、目の出血などの出血症状に加え、意識障害、呼吸困難、動悸、息切れなどの症状が続いたり急に悪化したりする場合は放置せず、早急に医師や薬剤師に連絡する
  • 避妊に関する注意
    • 本剤には催奇形性があり、投与開始前の少なくとも1ヶ月間、投与中及び投与中止後は一定期間(薬剤によって異なる場合がある)は必ず避妊する

レチノイド製剤(APL治療薬)の一般的な商品とその特徴

ベサノイド

  • トレチノイン製剤
  • ビタミンA製剤の併用禁忌(併用禁止)に関して
    • 本剤はビタミンAと同じレチノイドであり、併用によりビタミンA過剰症と類似した副作用症状がおこる場合がある

アムノレイク

  • タミバロテン製剤
  • トレチノイン(ベサノイド)より分化誘導能が高いとされ、またDICを増悪させにくいなどの特徴をもつ
  • ビタミンA製剤の併用禁忌(併用禁止)に関して
    • 本剤はビタミンAと同じレチノイドであり、併用によりビタミンA過剰症と類似した副作用症状がおこる場合がある