とうにょうびょう
糖尿病
血液中のブドウ糖(血糖)濃度が慢性的に高値となる病気。長期に放置すると眼、神経、腎臓など多くの臓器に悪影響が出る
36人の医師がチェック 311回の改訂 最終更新: 2024.11.12

糖尿病の食事療法:カロリーと炭水化物の量の計算

糖尿病で病院に通うと、毎回のように「食事に気をつけていますか?」と聞かれます。気をつけているつもりではありますが、何を食べたら気をつけたことになるのか正直わからない、という人もいるかもしれません。ここでは糖尿病治療のための食事療法について説明します。

1. 適切なエネルギー(カロリー)摂取量とは

糖尿病の食事療法では、食事のエネルギーを適切な範囲に制限することで、血糖値が上がりすぎないようにするのが目標です。

身体が大きい人はエネルギーをたくさん消費します。また、力仕事をしている人も多めのエネルギーが必要です。そこで、1日に摂るべきエネルギー量は身長と労働量をもとに計算します。

まず、身長に対して標準的とされる理想体重を計算します。

  • 理想体重(kg)= 身長(m)× 身長(m)× 22

65歳以上の人であれば、すこしゆるく考えるほうが良いとされており、最後にかける22は 22から25で良いとします。

次に、労働の強さによって決まった数字を理想体重に掛けると、1日あたりの必要エネルギー量になります。

  • 軽労働(デスクワーク):25から30×理想体重
  • 中等度の労働:(立ち仕事):30から35×理想体重
  • 重労働(力仕事):35以上×理想体重

例として計算してみましょう。

身長160cmでデスクワークをしている人なら、理想体重は1.6×1.6 × 22 = 56.3 kgです。1日のカロリーはこれに25から30を掛けて、およそ1400kcal(キロカロリー)から1700kcalとなります(十の位で四捨五入しています)。

身長と労働の強さを当てはめると同じように計算できます。例としていくつかの組み合わせを計算します。

  • 155cm、立ち仕事:1600kcalから1800kcal
  • 170cm、デスクワーク:1600kcalから1900kcal
  • 175cm、力仕事:2400kcal程度

この数字が目安となりますが、病気の程度や合併症の有無などによって目標が異なる場合があります。お医者さんや管理栄養士さんの話を聞いてみると、より理解が深まります。

2. 炭水化物の適量とは

糖尿病と聞くと、「甘いものは食べられないのかな」と思うかもしれません。確かに甘いお菓子はエネルギーが高いうえ、食べ過ぎてしまいやすいので、ほどほどにしておいたほうが賢明です。糖類は炭水化物の一種ですので、炭水化物が多いごはんやパンにも同様のことが言えます。

しかし、炭水化物は身体にとって必要な栄養素です。そのため、糖尿病の食事療法中であっても減らしすぎず、適量を摂取するようにしてください。

目安として、1日の総摂取エネルギーの50-60%を炭水化物で摂ると良いと考えられています。1日の摂取エネルギーを1600kcalとして計算すると、うち800kcalから960kcalを炭水化物で摂ることになります。これは炭水化物の量に換算すると200gから240gに当たります。

例えば、お茶碗に軽くいっぱいの白米に含まれる炭水化物は約40g、袋麺では約60gです。食品のパッケージに書かれていたりもしますので、ふだん食べているものにどれぐらいの炭水化物が含まれているのか確かめてみてください。

炭水化物も適量が必要な理由

炭水化物を摂ると血糖値が上がります。それなら、血糖値を下げるには炭水化物を摂らないほうがいいように思えます。なぜ「減らすほどよい」とは言えないのでしょうか? 実は、炭水化物も適量を摂ったほうが長期的には効果があるのです。

炭水化物は体内で分解されてグルコースブドウ糖)になります。グルコースは生きるために必要なエネルギー源です。グルコースが減ると、生命維持のために必要な働きができなくなってしまうので、身体は筋肉に蓄えられているタンパク質を使ってグルコースを作ろうとします。

このため、炭水化物が少ない食事を続けると身体のタンパク質が消費され、筋肉が減ってしまうのです。筋肉が減ると、筋力が落ちるだけでなく、基礎代謝が落ちてエネルギーを消費しにくい身体になっていきます。

医学的にまだ明確ではない部分も多いですが、炭水化物の適量は総摂取カロリーの50-60%が目安です。残り40-50%はタンパク質や脂質から摂ります。

GI値とは?

最近では、グリセミック指数(GI)という概念も重要なのではないかと考えられています。

GIは、炭水化物50gを含む食品を食べたときに、どの程度血糖値が上がるのかを食品ごとに比較した数値です。ブドウ糖の血糖値を上げる力を100として数値を計算します。GIが高い食品ほど、食べてすぐに血糖値が上がるということです。

主食で比べると表のようになります。

GI 食品の例
高い パン、白米
中程度 うどん
低い パスタ、そば、玄米

※GIは測定の仕方によっても多少のずれがあります。

GIを重視する立場からは、糖尿病の食事療法には、より血糖値を上げにくいそばや玄米が望ましいと考えられます。お菓子などの甘いものはGIが高いので要注意ということになります。ただし、このような考え方については専門家の意見が一致しない点もあります。

エネルギー摂取量と炭水化物を適量に収めることができていれば、その中で低GIの食品を選ぶことも考えられます。

3. 脂肪は減らすべきか

肥満だと糖尿病になりやすいというイメージから、脂肪の多い食事も糖尿病に悪そうだと思えるかもしれません。確かに、脂肪の摂り過ぎはよくありません。しかし、脂肪を全く摂らないようにすれば良いというわけではありません。

オメガ3脂肪酸と呼ばれる物質(EPAやDHAなど)は、魚の脂肪に多く含まれていて、中性脂肪の値を下げる効果があると言われています。中性脂肪値を下げるときに使うエパデール®という薬があり、これはオメガ3脂肪酸のEPA(イコサペント酸)が主成分の薬です。血中の脂肪を減らすために脂肪酸を飲むという行為は一見矛盾しているように見えますが、実際にこの治療で中性脂肪値が下がります。

また、コレステロールは体内で合成されています。体内で作られるコレステロールの量に比べて、食事から取り込まれるコレステロールはわずかです。そのため、食事中のコレステロールを厳しく制限しても、血液中のコレステロール値にそのまま反映されるわけではありません。

このように、脂肪や脂質を極端に減らすことがコレステロール値や中性脂肪値の改善に直結するとは限りません。エネルギー摂取量のうち20-30%程度を脂質から摂ることが目安とされていますが、それを大幅に下回るような制限は必要ありません。

4. 禁酒は必要か

糖尿病の治療中に飲酒を制限するべきかは研究者の間でも結論が出ていません。ただし、飲み過ぎで起こる病気はアルコール性肝障害などほかにもあるため、総合して考えれば、飲酒はほどほどが良いと言えます。目安としては1日に25gほどのアルコール摂取を上限と考えてください。25gのアルコールというと、日本酒で1合、焼酎で0.6合、ビールで中瓶1本ほどです。また、お酒の中には炭水化物を含むものがありますので、どのタイプのアルコールを摂取するのかも気をつけるようにすると良いです。

5. その他の摂取すべき栄養

食物繊維を摂ることで血糖値が下がることがわかっています。1日に20g以上の摂取が目安です。ビタミン類に関しては、糖尿病にどの程度有効かは不明ですが、身体機能の維持に必要な栄養素です。極端な食事の制限によって以前まで食事で得ていた栄養素が不足してしまわないよう注意してください。逆に、たくさん摂ろうとしてサプリメントや栄養ドリンクを大量に飲むのは危険ですのでやめてください。

なお、コーヒーが血糖値を下げるのではないかという意見もありますが、疑問の声もあります。今の時点ではコーヒーにはあまり期待しすぎないほうがいいでしょう。

6. 糖尿病の献立の例

ここまで、摂取エネルギーと炭水化物の適量について説明してきました。しかし、いざ食事となると、何をどれぐらい食べればいいのかわからなくなってしまいます。適量の食事というのは、具体的なメニューで言うとどのような内容になるのでしょうか?

デスクワークをしている人が1日に1800kcalを摂ることを考えてみましょう。

炭水化物で摂取したいカロリーは50-60%ですので1000kcal(炭水化物250g)とします。

食品交換表を使って計算すると、1日の食事の例として、

  • 朝:パン90g(8枚切り2枚:炭水化物60g)、野菜サラダ、卵焼き、りんご半分(炭水化物20g)
  • 昼:ご飯150g(1膳:炭水化物60g)、鰆の照り焼き、小松菜のおひたし、豆腐のお味噌汁
  • 夜:ご飯200g(1膳:炭水化物80g)、豚肉の塩焼き、きんぴらごぼう

これでおおよそバランスの取れた1800kcalの食事になります。これは一例ですので、ぜひ専門家である管理栄養士と相談してみてください。

7. 栄養バランスの管理を楽にする方法

上に一例を挙げましたが、朝昼晩に何を食べるか毎日計算して考えるのは大変です。茶碗1杯分の白米にどのくらいの炭水化物が含まれているのか、正確に知っている人は少ないでしょう。1日分の献立を考えるために、1日に使う食品すべての栄養成分を知ろうとするのは現実的とは言えません。

すべてを計算するのはとても大変なことですが、実際の食事療法は楽にする方法があります。キーポイントは3つです。

食品交換表を使う

食事のコントロールには、日本糖尿病学会が作成している「糖尿病食事療法のための食品交換表」という書籍が便利です。通称「食品交換表」と呼ばれているものです。

食品交換表には、同じタイプの食品でエネルギーが同じになる量が書いてあります。たとえば、30gの食パンと60gのそばはどちらもおおよそ80kcalです。これを参考にすれば、身長と労働量から計算した摂取エネルギー量が、食べ物で言うとどれぐらいの量になるか把握できます。

さらに、食品交換表には炭水化物の多い食品・タンパク質の多い食品・脂肪の多い食品という分類が載っています。

この情報を使えば、まずエネルギー量から1日の食品の量を計算して、その中でも炭水化物:タンパク質:脂肪の割合が適切になるように、同じカロリーの食品に交換して食事を組み立てていくことができるのです。

食品交換表は書店やショッピングサイトで買えますので、ぜひ手に入れて活用してください。

細かく計算しすぎない

炭水化物の量で言えば、10g以下まで考える必要はありません。あまり正確に計算しようとすると大変すぎて長続きしません。

白米100gには40g程度の炭水化物が含まれます。しかし、炊き方や品質次第では、炭水化物含有量が35gだったり45gだったりすることもあります。つまり、細かく計算しても、毎食10g程度の誤差はあるものです。全体として目標量を大幅に超えない、つまり食べ過ぎないことを最低限として、続けることを大事にしましょう。

管理栄養士に相談する

栄養管理のためにいろいろな情報が役立ちます。

しかし、食べ物は複雑です。考えることが多すぎて、どこから手を付ければいいのかわからなくなってしまうことはよくあります。数字がたくさん出てきて計算がわからなくなることもあります。がんばって毎日食事を工夫していても、果たして今自分がやっていることは正しいのだろうかと不安になることもあるでしょう。

そんなときに助けになってくれるのが管理栄養士です。管理栄養士は栄養コントロールの専門家です。食事で迷ったら、管理栄養士に相談して、栄養指導を受けてみましょう。糖尿病診療ガイドライン2019でも管理栄養士による指導は有効であるとされています。また、できるだけ早めから指導を受けるようにしたり、複数回指導を受けたりすることでその効果は高まります。

8. 食事療法を続けるコツ

ここまで食事を改善する方法を紹介してきました。効果的な方法はありますが、実践するにはもう一歩踏み出す必要があります。つまり、糖尿病を治療したい人自身が自分の行動を変えるということです。

ついつい食べ過ぎることやバランスの悪い食べ方をすることを避けて、食事療法を長く続けるためには何に気を付ければいいでしょうか。ポイントを挙げます。

  • 腹八分目でやめておく
  • 食べる食品の種類をできるだけ増やす
  • 食物繊維を多く摂る
  • 朝食・昼食・夕食を規則正しくする
  • なんとなく間食する習慣をやめる
  • ゆっくり噛んで食べる

もうひとつ大事なことは、「方法にとらわれない」ということです。どうしても会食を避けられないことや、ついつい羽目をはずしてしまうことは誰にでもあります。そんなときは「たまには仕方ない、また頑張ろう」と考えるのが前向きな姿勢です。一度失敗したと思ってもやり方を変えるなど工夫して続けることはできます。

食べ過ぎてしまったら、週のうち残りの6日間で食べる量を少しずつ減らして取り戻す方法もあります。長く続けることを第一に、細かいやり方は柔軟に考えてください。

食事療法を続けた先に

食事摂取を適切に行うことで糖尿病や心血管疾患による死亡率が下がるというデータが海外にあります。そのデータでは、精製しない穀類や果物、ナッツを多めに摂取して、ショ糖の多く含まれるものや赤肉を少なくすると良いとされています。また、国内のデータでも食物線維やタンパク質を先に摂ること血糖値の上昇をなだらかにできると考えられています。

依然として確定的ではない部分も多いですが、食事療法を続けることで病気のコントロールが良好になる可能性は高いです。一方で、厳しすぎるほどの食事療法を続けられる人は多くないかもしれません。医療者の意見を取り入れながら、長続きするやり方を自分なりにアレンジしていくと最も良い結果が期待できるかもしれません。