憩室炎の原因について
憩室とは腸の壁の一部が外側へ袋状に飛び出してしまったものです。大腸の憩室は、便秘などが原因でできたものが多いです。憩室がある人のうち1-2割の人は憩室炎を経験するといわれています。このページでは憩室に
1. 憩室はなぜできるのか
憩室とは、腸の壁の一部が外側へ袋状に小さく飛び出してしまったものです。憩室は、生まれつき持っている
腸は筒状になっている臓器で、胃から運ばれてきた食べ物は腸の中を通過しながら消化・吸収され、最終的に便へと変わっていきます。肛門から便として身体の外に出る前の、食べ物の最後の通り道が大腸です。大腸は、消化された食べ物の水分を吸収して便に変化させる場所です。
大腸に憩室ができる原因は、およそ次のように考えられています。便秘や下痢が起こるような、腸の動きが上手く調整できていない状態では、腸の中の圧が必要以上に高まります。腸の内圧が高い状態が長く続くと、腸の壁の弱い部分が負荷に耐えられなくなり、壁に裂け目ができます。この結果、腸壁の内側の層だけが風船のように膨らんで飛び出したものが後天的にできた憩室です。先天性の憩室のほとんどは単発のものですが、後天的な憩室は、一個だけではなく複数個できることが多いです。
最近は日本人に後天的な憩室が増えてきているといわれています。その原因の一つは食生活の変化です。食生活が欧米化したことで肉類の食事が中心となり、どの世代でも野菜不足が問題となっています(厚生労働省「国民健康・栄養調査結果の概要」より)。食物繊維が不足すると腸の動きが乱れがちになり、腸の中の圧が高まってしまう要因となります。
他にも、精神的なストレスや不規則な生活などは便秘や下痢といった排便異常を引き起こし、憩室の発生につながることがあります。
2. 憩室に炎症が起こるメカニズム
憩室炎が起こるメカニズムは完全に解明されているわけではありませんが、およそ次のように考えられています。憩室の大きさは1㎝前後で、出口が細く絞られた小さい巾着袋のような形をしています。もともと憩室ができやすい人とは、さまざまな原因によって腸がうまく動いていない状態であることが多く、腸の中の便の流れは滞りがちです。便がスムーズに排泄されていかないと、巾着袋の中に便が詰まりがちになります。便秘や下痢によって腸内環境が乱れていると、
憩室炎を起こす細菌は、腸内細菌といって普段から腸の中に存在しているような菌であることがほとんどです。憩室炎の原因として考えられる主な細菌以下のとおりです。
大腸菌 - バクテロイデス属
- クロストリジウム属
憩室炎の治療では上記の細菌に効果がある
3. 憩室炎になりやすい人の特徴:タバコを吸う人、肥満の人など
便秘は憩室や憩室炎が起こる大きな要因の一つですが、それ以外に現在報告されている中で最も有力と考えられているのは喫煙と肥満です。さまざまな研究結果を踏まえて考えられる憩室炎になりやすい人の特徴は以下の通りです。
- タバコを吸う人
- 肥満の人
- 便秘や下痢になりやすい人
- 高齢の人
- 飲酒する人
上記のような人は腸に負担がかかるような状況になりやすく、憩室炎を起こしがちです。それぞれについて、以下で詳しく説明しています。
なお、「
タバコを吸う人
タバコを吸ったことがない人に比べ、タバコを吸ったことのある人のほうが憩室が多くみられたという報告があります。さらに、タバコを吸わない人に比べてタバコを吸う人のほうが憩室炎が重症になりやすく、死亡率が上昇するともいわれています。喫煙は、憩室炎に限らず他のさまざまな病気の原因としてもあげられますので、タバコを吸っている人は禁煙することをおすすめします。
肥満の人
海外の報告では、
厚生労働省による平成29年「国民健康・栄養調査」の結果では、肥満に当てはまる(BMI≧25 kg/m2 )人の割合は男性 で30.7%、女性で 21.9%でした。BMIが30以上の日本人はおよそ3%前後と諸外国に比べて少なく、日本人にとって高度の肥満が憩室炎のリスクとなるかは分かっていません。しかしながら、日本人を対象にした研究で、大人になってから10kg以上の体重増加があった人は、そうでない人に比べて憩室ができやすいことが報告されています。
便秘や下痢になりやすい人
便秘や下痢は、腸の中の圧が高まりやすくなるため、憩室や憩室炎が起こる大きな要因と考えられています。便秘では、腸や憩室の中に便が長い時間とどまることによって、憩室に炎症が起きやすい環境となります。憩室炎を起こさないためには、便秘を極力避けることが好ましいです。
また、
便秘や下痢など排便習慣の改善は、憩室症や憩室炎を予防するために取り組みたい内容です。憩室炎を起こさないための食事や排便習慣の見直しについての詳しい説明は、「憩室炎を予防するためにできること」のページを参考にしてください。
高齢の人
年齢を重ねると腸の壁がもろくなります。そのため、腸の中の圧があがった時に耐えきれなくなって、腸の壁の弱いところが飛び出して憩室ができやすくなります。高齢の人は左側結腸といわれる大腸の終わり(肛門)に近い部分に憩室ができやすくなることが分かっています。右側結腸に比べて左側結腸の憩室炎は、
また、高齢者には便秘がちの人が多く見られ、とくに70歳以上になると便秘の人が急激に増加します。高齢になると、腸の動きを司る神経の働きが弱まることが、便秘になりやすい要因の一つと考えられています。他にも、筋力の衰えなどさまざまな原因で、便をうまく排泄する機能が落ちるといわれています。
前述したように、便秘があること自体が憩室や憩室炎を起こす原因になると考えられていますので、高齢の人は普段から便秘の改善を心がけるようにしてください。
飲酒する人
日本の研究報告では飲酒する人はそうでない人に比べて、憩室を持っている割合が高かったといわれています。さらに海外の報告では、飲酒する人は憩室炎の起こるリスクが高かったともいわれています。アルコールと憩室炎の関係についてはまだ十分に解明されていないこともありますが、アルコールは腸にとっては刺激になりやすく、人によっては下痢を引き起こし、憩室炎が起こりやすい状況になります。アルコールは適量を心がけるようにしてください。
参考文献:
・大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)
・「ハリソン内科学 第5版」(福井次矢, 黒川 清/日本語版監修) 、MEDISI、2017
・「NEW外科学 改訂第3版」(出月康夫, 古瀬彰, 杉町圭蔵/編集)、南江堂、2012
・眞部紀明、今村祐志、鎌田智有、他 大腸憩室疾患の疫学. 胃と腸 2012; 47:(7): 1053-1062.
・Stollman N, Raskin JB: Diverticular disease of the colon. Lancet 363: 631-639,2004
・Yamauchi N, Shimamoto T, Takahashi Y, et al: Trend and risk factors of diverticulosis in Japan. PloS One 10: e0123688, 2015
・厚生労働省「平成29年 国民健康・栄養調査結果の概要」