外反母趾とは
外反母趾は足の親指(母趾)が曲がって小指側に向いた状態です。最初は母趾の曲がりのみですが、進行すると痛みやしびれが起きたりタコができたりします。さらに進行すると、母趾のみではなく第2趾、第3趾の変形なども起こります。ここでは外反母趾が起こる仕組みをはじめとして、症状、原因、検査、治療、日常生活の注意点などを全体的に説明します。
1. 外反母趾とは
外反母趾というと足の親指(母趾)が「くの字」に曲がっている状態を思い浮かべる人が多いと思います。『外反母趾
はじめは痛みなどの症状がないため、曲がりがかなり大きくなるまで病院を受診しない人が少なくありません。外反母趾では、母趾がくの字に曲がるだけではなく、母趾が回転するように傾くなどのことが合わせて起こっています。そして、足の変形がある程度以上進むとどんどん変形しやすくなる悪循環に陥ります。そのため外反母趾になっていると自分で気がついた時には、悪化しないように適切な靴に変更したり、足の筋肉を鍛えるトレーニングをしたりするなど日常生活に注意して、一度は医療機関で相談してみることをお勧めします。
外反母趾をより深く理解するために、足の骨の構造や変形のしくみについて順を追って説明しますが、難しい内容が含まれているので読み飛ばしてもらって構いません。
足の骨の構造
外反母趾について知るにはまず、足の親指(母趾)の骨について理解していた方がわかりやすいので、ここで説明します。足はいくつもの骨が組み合わさってできています。手前から足先に向かって次のように呼ばれます。
- 第一楔状骨(内側楔状骨:ないそくけつじょうこつ)
- 第一中足骨
- 第一基節骨
- 第一末節骨
外反母趾で主に変形するのは第一中足骨と第一基節骨の間の関節で、中足指節関節(ちゅうそくしせつ関節、metatarsophalangeal joint:MTP関節)とよばれます。「くの字」に曲がった角の部分がMTP関節に当たります。MTP関節より手前にある第一楔状骨と第一中足骨の間の関節は足根中足関節(そっこんちゅうそく関節、tarsometatarsal joint:TMT関節)もしくはリスフラン関節とよばれます。外反母趾が進行するとTMT関節にも変形や痛みが起こります。
具体的な変形のしくみについて次に説明します。
外反母趾で起こる変形のしくみ
外反母趾では母趾が「くの字」に曲がるだけでなく、立体的な骨や関節のずれが起こります。具体的には、進行するに従って次のようなことが起こります。
- 第一中足骨の内反(1)
- 母趾のMTP関節での外反(2)
- 母趾種子骨の外側変位(3)
- 母趾の回内(4)
- 第一中足骨の回内(5)
- 第一足根中足関節(そっこんちゅうそく関節、tarsometatarsal joint:TMT関節もしくはリスフラン関節)の過度の可動性(6)
順を追って詳しく説明します。
外反母趾の初期には第一中足骨と第一基節骨の間の関節である中足指節関節(ちゅうそくしせつ関節、metatarsophalangeal joint:MTP関節)の内側を支える組織が弱くなって破綻して第一中足骨の内反(1)が起こります。内反とは内側に曲がることです。これによってMTP関節の内側が隆起して見えます。この隆起した部分をバニオンと呼びます。その結果、母趾を内側に閉じる母趾内転筋の緊張が大きくなり母趾が外反します(2)この外反が進行するとMTP関節の亜脱臼を起こします。亜脱臼を起こすと外反母趾の変形が進行しやすくなります。
母趾種子骨はMTP関節の足の裏側にある小さな2つの骨です。役割は母趾を曲げる時に大きな力を出せるようにすることと、衝撃を吸収させることです。第一中足骨の内反が起きて中足骨の骨頭が内側へずれると、母趾種子骨の位置はずれないものの、相対的に骨頭から外側へ動きます(3)。母趾種子骨が中足骨の骨頭からずれて脱臼すると、さらに母趾の内側にむかってねじれる回内変形(4)が悪化します。
それと同時に母趾を外側に開く母趾外転筋と腱が足底側に偏位して、さらに周囲の筋肉に影響を及ぼして、外反が悪化します。
第一中足骨の回内と第一足根関節の過度の可動性については外反母趾の進行に伴って起こると考えられていますが、その程度と外反母趾との進行度についてはまだはっきりしていません(5, 6)。
このように外反母趾は変形が変形を起こすような悪循環に陥ります。いったん進行すると、この悪循環に陥ることが多いため、進行しないように日常生活などに気をつけることも重要な治療の一つです。
2. 外反母趾になりやすい人について
外反母趾は男性より女性がなりやすく、年をとるとなりやすくもなりますし、若い時から外反母趾があった人では年とともに悪化することがわかっています。性別や年代でのなりやすさは次の通りです。
性別
外反母趾は男性より女性の方がなりやすいという報告があります。女性の方が外反母趾の原因となるハイヒールや足先の細い靴を履く機会が多いため、患者に女性が多いと考えられますが、靴の影響を抜きにしても女性の方が男性より外反母趾になりやすく、また外反母趾角が大きかったとの報告があります。これは女性の方が男性に比べて関節が柔らかく筋力が弱いためと考えられています。
年代
日本で行われた調査によると、男女ともに年齢が上がるにしたがって外反母趾にかかる人数は増加します。男性では50代から60代にかけて増加し、女性では40代から50代にかけてと、60代から70代にかけて特に増えることがわかっています。
3. 外反母趾の症状
外反母趾は足の親指(母趾)が「くの字」に曲がった状態のことです。はじめに気になる症状はこのような母趾の変形ですが、その他にも色々な症状を起こします。外反母趾の症状は次のようなものです。
- 母趾が外側(小指方向)へ曲がる
- 母趾の周りや足の裏、足の甲が痛む
- 足がしびれる
- 足にタコができる
- 第2趾、第3趾が曲がる
外反母趾の初期は母趾の曲がりが気になるのみですが、だんだんと曲がっている出っぱりの部分に痛みやしびれなどを感じるようになります。痛みは最初は母趾の内側のみですが、次第に足裏の中央や、足の甲にも起こるようになります。また体重がかかる部分やこすれる部分にタコができるようになり、さらに痛みを起こします。母趾の曲がりが悪化すると他の指も変形を起こして痛みを伴うようになります。
詳しい症状については「外反母趾の症状」を読んでみてください。
4. 外反母趾の原因
外反母趾はパンプスなどの先の狭くなった靴やハイヒールが原因と考える人が多いかもしれません。このような靴も原因になりますが、他にも原因になるものがあります。
【外反母趾の原因】
- 靴:ハイヒール・パンプスなど
- 性別
- 遺伝
- 扁平足・開帳足
足先を締め付けるような靴が原因になりますが、実は靴の種類によらず靴を履くという行為自体が外反母趾の原因の一つと考えられています。また、女性であるということも外反母趾のなりやすさに繋がります。これは、女性は男性に比べて筋肉が弱いことなどが原因の一つではないかと考えられています。加えて遺伝的な要因や、扁平足や開張足などの足の構造も原因になると考えられています。さらに詳しく知りたい人は「外反母趾の原因」を参考にしてください。
5. 外反母趾の検査
外反母趾は主に
- 問診
- 足の症状について
- 日常の生活習慣について
- 身体状況について
- 身体診察
- 視診
- 触診
- 可動域測定
- 画像検査
X線検査 CT 検査
問診では症状の経過や、靴の使用状況、日常の生活習慣などについて聞かれます。その後に診察が行われ、視診で足の変形やタコの有無が確認され、触診で痺れや痛みがあるかどうかを確認されます。また変形した母趾の動く範囲も調べられます(可動域測定)。画像検査は、他の病気と区別するためや、外反母趾の角度を測定して重症度を判定するために行われることがあります。
外反母趾の重症度は外反母趾角で評価されます。外反母趾角とは第一中足骨の骨軸と母趾基節骨の骨軸が作る角度のことです。『外反母趾診療ガイドライン』の定義では20度以上が外反母趾とされ、外反母趾の重症度と外反母趾角の関係は次の通りです。
- 軽度 20度以上30度未満
- 中等度 30度以上40度未満
- 重度 40度以上
痛みの程度は人によって異なり、重症度とは必ずしも比例しないことがあります。詳しい外反母趾の検査については「外反母趾の検査」を読んでみてください。
6. 外反母趾の治療
外反母趾の治療は次のようなものがあります。
- 靴の見直し
- 運動療法
- ストレッチ・マッサージ
- トレーニング・体操
- 装具療法
- 趾間装具(足指スペーサー、トースプレッダー)
- ストラップ型趾間開大装具
- 足底板(足底挿板・中敷き・インソール)
- テーピング
- 薬物療法
- 手術
- 遠位
骨切り術 - 骨幹部骨切り術
- 近位骨切り術
- 関節固定術
- 人工関節置換術
- 遠位
外反母趾の治療で最初に行うのは靴の見直しです。合わせて運動療法を行い母趾周囲の筋肉の減少を防ぎます。母趾と第2趾の間にはめる趾間装具や、母趾を内側に引っ張るように固定をするストラップ型趾間開大装具などを用いる装具療法が行われます。その他にも、インソールやパッド、テーピングなどを行うと痛みが緩和することが知られています。薬物療法は主に痛み止めの薬を使います。
このような治療を行っても、一度変形してしまった外反母趾を元どおりに改善することは難しく、変形や痛みが強い人には手術治療も検討されます。手術療法も変形の程度によってさまざまな選択肢があるため、お医者さんとよく相談して決めてください。最近では日帰りでできる手術もあります。
治療について「外反母趾の治療」でさらに詳しく説明しています。
7. 日常生活の注意点
外反母趾かもしれないと思った場合には、日常生活でどのようなことに気をつけるべきか知りたくなるものです。外反母趾の変形元どおりにすることは難しいものの、進行を少しでも抑えるために日常生活で取り入れたいことがあります。具体的には原因となるハイヒールやパンプスの使用中止、母趾周りの筋肉を鍛えるための運動などです
具体的な日常生活の注意点については「外反母趾の人が気をつけるべきこと」を読んでみてください。
【参考文献】
・杉浦弘通,酒向俊治,塚本裕二ほか:女性高齢者の外反母趾と足底の特徴.靴医学 2007;21(2):28-31
・酒向俊治,杉浦弘通,江西浩一郎ほか:40歳以降の第一趾側角にみる性差.靴医学 2011;25(2):150-154