外反母趾の治療:靴の見直し、ストレッチ、インソール、サポーター、手術
外反母趾の治療の基本は靴の見直しです。また、足の親指(母趾)周囲にある筋肉の減少も原因になるため筋肉強化の運動療法も行います。しかし、これらの治療で外反母趾の変形を改善することは難しいため、変形や痛みが強い場合には手術も検討されます。ここでは外反母趾の治療について詳しく説明します。
目次
1. 外反母趾は何科を受診すれば良いのか?
外反母趾の治療を行う主な診療科は整形外科です。病状の程度や日常生活にどのくらい困っているかによりリハビリテーション科を紹介される場合もありますが、まずは整形外科を受診することをお勧めします。
2. 外反母趾を治す方法
外反母趾の治療は痛みの程度や日常生活の不便さなどによって決められます。多くの場合、最初に行われるのは靴の見直しです。不適切な靴の使用が外反母趾の主な原因になりますので、足の親指(母趾)のまわりを圧迫しないような靴やサポートのついた靴を履くようにしてください。平行して運動療法や装具療法を行うことがあります。痛み止めの湿布や塗り薬などの薬物療法は運動療法や装具療法と合わせて行うことがあります。これらの治療でも痛みが続く場合には、手術療法を選択することもできます。
【外反母趾の主な治療】
- 靴の見直し
- 運動療法:ストレッチ・体操など 装具療法
- 薬物療法
- 手術
治療法の具体的な内容について一つひとつ説明します。
3. 靴の見直し
不適切な靴の使用が外反母趾の原因の一つであるため、外反母趾の治療では、まずは靴の見直しが行われます。「外反母趾
外反母趾では変形した母趾の付け根の隆起部分(バニオン)に痛みが起こるため、バニオンを圧迫しないような靴を選ぶようにします。特に、靴の先端部分(トウボックス)が広く指が圧迫されないものをを選ぶのがポイントです。
おしゃれなハイヒールやパンプスを履きたい場合には、せめて短時間にすることをおすすめします。外反母趾用の靴がいろいろなブランドから市販されていますので、これらを活用するのも選択肢の1つです。具体的には次のことを参考にして靴を選んでみてください。
- ヒールが低めの靴にする
- 甲を覆う靴にする
- 足先は広めのものにする
- 甲が止まるものを選ぶ
- 靴底が曲がりにくく、歩行時に反りすぎないものを選ぶ
◎ヒールが低めの靴にする
ヒールの高い靴はおしゃれですが、履くと足先に大きな力がかかりつま先部分がさらに圧迫されて外反母趾が悪化します。ヒールの高さは3cmまでが望ましいです。
◎甲を覆う靴にする
甲が浅くて指の付け根が見えてしまうような靴は、縁の部分がバニオンが当たって痛みが出やすくなります。足の甲を十分に覆ってくれるデザインの靴を選んでください。お店で選ぶ時は痛みのある部分に当たらないかどうか確かめてみてください。
◎足先は広めのものにする
つま先の細くなったパンプスはおしゃれですが、両脇からの圧迫が強くなるため、痛みが出やすくなったり外反母趾が悪化することがあります。自分の足幅に合ったもので足指が圧迫されない程度の広さがある靴を選んでください。
◎甲が止まるものを選ぶ
靴の中で足が前滑りすると、足先が靴の先端に当たって痛みが起こることがあります。足の甲の部分でホールドされるものを選ぶと、前滑りが起こりにくくなって痛み予防になります。スニーカーなどのヒモ靴であれば、ヒモをきちんと締めることで前滑りを抑えることができます。面倒ですが、靴を履くたびにヒモを締め直すとより確実です。
◎靴底が曲がりにくく、歩行時に反りすぎないものを選ぶ
足先部分がよく曲がる靴は足が蹴り出しやすく歩きやすいですが、外反母趾では足先が反ると母趾の関節に痛みが起こりやすくなります。そのため、靴底が曲がりにくい靴を選ぶと良いです。靴底が厚めのものは曲がりにくさの目安になります。また、つま先が少し沿った形になっているロッカーソールという靴底もあります。これは、足先を反らせることなく足が蹴り出しやすい形状なので、歩きにくさが気になる人は試してみても良いです。
4. 運動療法での治し方:ストレッチ・体操など
軽度から中等度の外反母趾には、運動療法が変形の矯正や痛みの緩和に効果があるといわれています。運動療法では足の筋肉を強化するためのストレッチや体操などを行います。
母趾や足裏のストレッチ・マッサージ
外反母趾では足の親指(母趾)周囲の筋肉が硬くなります。ストレッチやマッサージをすることで痛みの緩和に効果があります。足の指の間を手で広げるようにして母趾の筋肉を伸ばしながら(ストレッチ)マッサージをします。母趾の付け根を押しながらマッサージをしたり、母趾から土踏まずに向かって指でぐっと押しながらマッサージをすることも有効です。押すときは気持ちの良い強さにとどめて、もし痛みが出たら中止してください。
母趾の筋力トレーニング・体操
母趾のまわりの筋力がなくなることも外反母趾の一つの原因になります。外反母趾を予防するためにも、外反母趾を治療する目的でも筋力トレーニングは若干の効果が期待できます。ここでは、3つの運動を紹介します。自分で簡単にできるトレーニングなのでトライしてみてください。
◎Hohmann体操(ホーマン体操)
母趾の筋力トレーニングをする運動で、軽度の外反母趾であれば、母趾の変形の改善が期待できます。座った状態で両方の母趾にゴムやひもをかけて、両方の母趾を外側に引っ張る運動です。引っ張った状態で5-10秒間キープしてゆっくり戻します。30回を1セットとして、1日3セットほど行ってみてください。
◎タオルギャザー
椅子やベッドなどに腰掛けて、床に置いたタオルを足の指でたぐり寄せる運動です。左右片方ずつ行っても良いですし、両足同時に行っても良いです。慣れてきたら、タオルの反対端に重いものを乗せて負荷をかけて行うとさらに効果的です。座った姿勢でうまくできるようになったら、立って行ってください。ポイントは、かかとを床につけたままで浮かさないこと、足の指をしっかり伸ばしてタオルを掴むようにすることです。10回を1セットとして1日5セット程度行ってみてください。
◎足指じゃんけん
足でグーチョキパーをする運動です。足の全部の指を曲げる「グー」、母趾のみを反らせて、後の指は曲げる「チョキ」、指を全体的に開く「パー」を1セットとして行います。足の指のみでチョキやパーが作れない場合には、足に力を入れながらも手で補助してあげても良いです。1日50セットくらい行ってみてください。
5. 装具療法での治し方
外反母趾に対する装具療法はさまざまなものがあります。薬局などで市販されているものもあれば、整形外科などで処方されるものもあります。それぞれの生活スタイルにあったものを使用してみてくだい。
装具療法は痛みを緩和する効果がありますが、中止すると再び痛みが現れます。痛みの緩和効果があまりない状態で使用を続けると、過度な修正でかえって外反母趾が悪化する可能性があります。効果が感じられない場合には、使い続けるのではなくかかりつけのお医者さんに相談してみてください。
趾間装具(足指スペーサー、トースプレッダー)
母趾と第2趾の間に挟むシリコン製の装具です。装着が簡単で、比較的安価なものが多いので手軽に使用できますが、矯正力は弱めです。歩くと外れてしまうことが多いので、寝ている時の使用をお勧めします。医療機関で処方してもらうこともできますし、市販品を購入することもできます。処方された場合には療養費として申請することもできます。
ストラップ型趾間開大装具
ストラップを母趾に引っ掛けてと第2趾との間を広げる装具です。母趾と小指をつなぐ横のアーチを高く保ったり、足裏のタコの部分に体重がかかりすぎないようにパット(中足パッド、コーンパッド)が付いたものもあります。痛みや違和感が強いようなら、就寝時の使用からはじめて徐々に慣らしていくのも良いです。医療機関で処方してもらうこともできますし、市販されているものもあります。処方された場合には療養費として申請することもできます。
足底板(足底挿板・中敷き・インソール)
軽度から中等度の外反母趾では足底板を使用することも効果的です。
外反母趾では足の横のアーチや縦のアーチ(土踏まず)が崩れて開張足や扁平足を起こすことがあります。特に開張足では横の足幅が広くなることで横からの圧迫が起こって痛みが強くなります。足底板でアーチを支えることで痛みを柔らげることができます。具体的には、中足骨の裏を支えて横のアーチを作る中足骨パッドや、縦のアーチ(土踏まず)を持ち上げるようなアーチサポートなどがついた足底板が使われます。市販のものを買うこともできますが、自分の足型を取ってカスタムメイドで作ることもできます。医療機関で処方された場合には療養費として申請することもできます。ただしインソールやサポーターを使いながら靴を履く場合には、通常よりも足の厚みが出てしまうため、少し厚みに余裕のある靴に使用してください。
テーピング
外反母趾に対してのテーピングは足のアーチを支えたり、足の指を開いたりするように貼ると効果的です。簡単に行えて痛みを和らげる効果があります。外反母趾のテーピングに使うテープは固いものではなくて、伸縮性のあるもの選んでください。
3本のテープを使う簡単な方法を紹介します。
- 1本目:母趾の内側から、足の内側に沿ってかかとまでテープを貼ります。少し指が開くように固定して、かかとの小指側までまわして止めます。
- 2本目:今度は反対に、小指の外側をはじめとして、足の外側を沿ってかかとまでテープを貼ります。少し指が開くように固定して、かかとの母趾側までまわして止めます。
- 3本目:最後に足の裏の中足骨のある部分に横に貼ります。
装具の療養費について
医療機関で処方される装具の費用は、療養費支給の申請によって一部払い戻しを受けられるることがあります。
上記に挙げたストラップ型趾間開大装具や趾間装具(趾間スペーサー、トースプレッダー)のほか、インソールや靴なども適応になるものもあります。申請方法の詳細については各医療機関に問い合わせてみてください。
6. 薬物療法での改善方法:痛みを緩和する湿布や軟膏など
外反母趾で起こる痛みを緩和するため湿布や軟膏を使用することがあります。主に使用されるのは、ロキソニンなどのNSAIDs(エヌセイズ)が含まれた湿布薬です。
7. 手術での治し方
外反母趾の治療ではまず運動療法、装具療法、薬物療法などの
保存療法を3ヶ月以上続けても症状の改善がなく、日常生活に支障をきたす人には手術が検討されます。
手術方法は130種類以上にのぼり、骨の周りの筋肉などの軟部組織の手術と骨に対する手術があります。軟部組織の手術は軽度から中等度の変形に行われます。軟部組織の手術を受けた人の70%で痛みが改善するものの、全体の30%で再発したと報告されており、骨に対する手術よりも再発率が高いです。そのため、現在は軟部組織のみの手術は行われることは少なく、
骨に対する手術は主に第一中足骨を切って変形を治す手術が行われています。骨を切る位置によってさまざまな方法があります。一般的に変形が重症になるほど、骨を切る位置は足の先端(遠位)から徐々に手前になります。変形が強い場合や炎症などが強い場合は関節の固定を行ったり、人工関節を入れたりします。
手術方法と合併症など
現在、骨に対する手術は大まかに次のようなものがあります。
- 遠位骨切り術
- 骨幹部骨切り術
- 近位骨切り術
- 関節固定術
- 人工関節置換術
それぞれの手術方法と適応される重症度は次の通りです。
手術方法 | 軽症 | 中等症 | 重症 |
遠位骨切り術 | ◯ | ◯ | |
骨幹部骨切り術 | ◯ | ◎ | ◎ |
近位骨切り術 | ◯ | ◯ | ◎ |
関節固定術 | ◯ | ||
人工関節置換術 | ◯ |
◎:良い適応となる手術方法、◯:適応となる手術方法
上の表はあくまでも目安で、同じ重症度であっても角度や症状によって選択される手術は異なります。また、手術法によって術後の
次に、それぞれの手術方法の概要と合併症について詳しく解説します。
◎遠位骨切り術
軽症から中等症の外反母趾に行われる手術です。第1中足骨の先端に近い部分を切って、曲がった骨を正常な位置に移動させて固定します。切り方と固定の方法にはさまざまな種類があります。
第1中足骨が短くなるので、第2中足骨の方が長くなることで圧迫が起き痛むことがあります。また、起こる頻度は少ないものの中足骨の末端が
◎骨幹部骨切り術
軽度から重症の外反母趾まで適応がある手術ですが、多くの場合には中等度から重度の人に勧められる手術です。遠位骨切り術では骨の先端の部分を切るのに対し、骨幹部骨切り術では骨の真ん中辺り(骨幹部)を切ります。中足骨の骨幹部を切断して骨を正常な位置に移動させて固定します。骨の切り方や移動、固定の方法にはいくつかの方法があります。
他の手術に比べて骨と骨がくっつき(癒合)やすく、矯正した骨を強固に固定できると考えられています。また、第1中足骨の長さの調節が可能であり、骨の壊死が起きにくいという利点があります。術後の合併症には感染、骨の亀裂などがありますが、他の術式に比べて頻度は高くありません。
◎近位骨切り術
中等症から重症の外反母趾に行われる手術で、遠位骨切り術とともに広く行われる手術です。近位骨切り術では第1中足骨の手前に近い部分を切って、骨を正常な位置に移動させて固定します。
皮膚切開が遠位骨切り術よりやや大きくなります。第1中足骨の短縮が起こるため、第2中足骨の痛みが起きたり、足根中足関節(TMT関節)が不安定であるため再変形が起こる可能性があります。骨の壊死や偽関節(誤った形で関節が固定されること)は起きにくいといわれています。
◎関節固定術、人工関節置換術など
重症の外反母趾や、関節リウマチなどに
関節固定術はバニオンの痛みの改善に有効です。変形の矯正も確実で外反母趾の再発も起きにくいです。しかし、合併症として足の裏にタコができたり、母趾の先端の関節に障害が起こりやすいです。再度の手術は難しいため比較的高齢者に勧められる手術です。人工関節置換術は比較的新しい手術法のため術後の経過についてはっきりとわかっていないこともあります。しかし人工関節の耐久性を考慮すると、活動性の高い年齢層には勧められない手術です。
リハビリテーション
術後はギプス固定が必要なものもあれば必要でないものもあります。例えば、遠位骨切り術では術後のギプス固定は必須ではありません。リハビリテーションの方法や歩行開始時期も手術方法によって異なりますので、詳しくは手術を受けた医療機関で確認をしてください。
なお、いずれの手術でも骨と骨がくっつく(癒合)まで歩き方に注意が必要です。歩行時は骨の切断部分に負担がかからないように、かかとから着地するようにします。多くの場合には術後2-3ヶ月程度で通常の靴を履けるようになります。
費用
手術そのものの費用は10万円程度です。手術方法や入院の日数によって異なりますが、大体トータルで15-20万円程度が目安となります。実際の費用は受診する医療機関に問い合わせてみてください。
8. 外反母趾の最新治療には何があるか
近年行われている身体への負担が少ない手術方法にDLMO法があります。遠位骨切り術の一種で、局所麻酔で行うことができるため日帰りで受けることができます。新しい手術であるため長期的な手術後の経過はわかっていませんが、術後早期の段階においては、軽症から中等度の外反母趾には有効と報告されています。外反母趾角が30度を超える場合には勧められないという報告もあり、どの程度の外反母趾にまで行うことができるかは、はっきりとわかっていません。また、全ての病院でこの方法の手術を行なっているわけではありません。DLMO法を検討したい人は、あらかじめ医療機関に問い合わせるなどして確認してから受診することをお勧めします。
9. 外反母趾の名医はどこにいるか
どのような医師を名医と呼ぶかは人によってさまざまです。外反母趾の治療は数多くの技術を用いて行われることから、名医とはさまざまな治療について精通し、適切な治療を提供できる医師のことだと言えるかもしれません。一方、治療は長期間に渡るため医師と患者の人間関係も大切です。出会った医師を「名医」と思えるかどうかは相性にもよるということになります。専門医など目に見える客観的な指標のみならず、自分と相性がいいかどうかという点も考慮して選ぶと良いかもしれません。
10. 外反母趾の専門医とは
学会などの団体が認定した外反母趾の専門医は現時点ではありません。外反母趾を主にみるのは整形外科であり、日本整形外科学会が認定した整形外科の専門医はあります。専門医は4年以上の研修施設での研修後に専門医試験に合格した、基本的な整形外科の知識と技術を持った医師です。また整形外科の中でも足の外科治療(手術治療)を専門としている「日本足の外科学会」があり、学会ページには病院を検索できる機能がありますが、専門医の制度はありません。
外反母趾を診てもらうのは必ずしもこれらに掲載された医療機関でなくて問題ありませんが、住んでいるところの近くにある場合には受診の参考にしてみてください。
【参考文献】
・Osteoarthritis Cartilage. 2010 Jan;18(1):41-6.
・Foot Ankle Int. 2007 May;28(5):654-9.
・Foot Ankle Int. 2007 Jun;28(6):748-58.
・Br Med Bull. 2011;97:149-67.
「外反母趾診療ガイドライン」