尿道炎の治療:抗菌薬治療(セフトリアキソン、アジスロマイシンなど)
尿道炎の原因は、ほとんどが淋菌やクラミジアのような
1. 尿道炎の治療
尿道炎の原因は、ほとんどが淋菌やクラミジアなどの細菌による感染です。細菌感染には抗菌薬(
効果のない薬を使ったところで治ることは望めません。
以下では、尿道炎の原因として頻度が多い淋菌とクラミジアによる尿道炎の治療について解説します。ここで説明する治療法については感染症治療薬ガイドの淋菌性尿道炎、クラミジア尿道炎でも解説しているので合わせて参考にしてください。
参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014
・日本性感染症学会/編, 性感染症 診断・治療
淋菌性尿道炎の治療に用いる抗菌薬の処方例
淋菌の中には、抗菌薬の効かない耐性菌が最近増加しています。つまり、淋菌に対して以前は有効だった抗菌薬が効かない場合が増えているということです。たとえばニューキノロン系抗菌薬やテトラサイクリン系抗菌薬はクラミジア尿道炎の治療に用いることがありますが、淋菌に対しては70-80%の確率で無効です。このため尿道炎の原因が淋菌なのかクラミジアなのかを見分けておくことはとても大切です。
淋菌性尿道炎には主にセフェム系抗菌薬のセフトリアキソンという薬を用いて治療します。
【淋菌性尿道炎に対する治療例】
- セフトリアキソン
- 1回投与量 250mg/1日1回
- 投与期間:1回のみでよい
セフトリアキソンの副作用は吐き気や下痢、蕁麻疹(じんましん)、痒み(かゆみ)などですが、副作用がでることは比較的少ないとされています。
セフェム系抗菌薬についての詳細な解説は「セフェム系抗菌薬の解説」も参考にしてください。
クラミジア尿道炎の治療に用いる抗菌薬の処方例
クラミジア尿道炎に対して用いる抗菌薬の処方例をいくつか紹介します。クラミジア尿道炎の治療にはマクロライド系抗菌薬やテトラサイクリン系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬などが用いられることが多いです。以下ではそれぞれの治療例について解説します。
【マクロライド系抗菌薬を用いた治療例】
クラミジア尿道炎の治療によく用いられるマクロライド系抗菌薬はアジスロマイシンというものです。アジスロマイシンは一回の内服または注射で治療効果が期待できるという利点があります。
- アジスロマイシン(ジスロマック®、アジスロマイシン)
- 1回投与量 1,000mg/1日1回
- 投与期間:1回のみの投与でよい
マクロライド系抗菌薬の副作用は吐き気や下痢、腹痛などです。マクロライド系抗菌薬については「マクロライド系抗菌薬」も合わせて参考にしてください。
【ニューキノロン系抗菌薬を用いた治療例】
ニューキノロン系抗菌薬は様々な感染症に効果のある薬で、クラミジアにも効果が期待でき治療に用いられてきました。ところが近年、ニューキノロン系抗菌薬に耐性をもつクラミジアが増加しており、ニューキノロン系抗菌薬を治療につかえないことも増えてきました。
- レボフロキサシン(クラビット®、レボフロキサシンなど)
- 1回投与量500mg/1日1回
- 腎臓の機能によって調整が必要
- 投与期間:7日間
- 1回投与量500mg/1日1回
ニューキノロン系抗菌薬の副作用には下痢や吐き気、食欲不振などの消化器
ニューキノロン系抗菌薬についての詳細な解説は「ニューキノロン系抗菌薬の解説」もあわせて参考にしてください。
【テトラサイクリン系抗菌薬を用いた治療例】
テトラサイクリン系抗菌薬をクラミジア尿道炎の治療に用いるのは以下の場合です。
- マクロライド系抗菌薬やニューキノロン系抗菌薬が副作用で使いにくい
- 感染したクラミジアがマクロライド系抗菌薬やニューキノロン系抗菌薬に耐性を獲得している
テトラサイクリン系抗菌薬の中でもドキシサイクリンやミノサイクリンという薬がクラミジア尿道炎の治療に用いられます。
- ドキシサイクリン(ビブラマイシン)
- 1回投与量 100mg/1日2回
- 投与期間:7日間
- ミノサイクリン(ミノマイシン®、ミノサイクリン、塩酸ミノサイクリン)
- 1回投与量 100mg/1日2回
- 腎臓の機能によって調整が必要
- 投与期間:7日間
- 1回投与量 100mg/1日2回
テトラサイクリン系抗菌薬の副作用には吐き気や嘔吐、食欲不振、下痢などがあります。歯の着色や骨の発育不全などの副作用があるので子供や妊婦には使用を避けるようにします。
テトラサイクリン系抗菌薬については「テトラサイクリン系抗菌薬の解説」も合わせて参考にしてください。
淋菌とクラミジアの両方が感染することはある?治療は?
淋菌とクラミジアは同時に感染することがあります。珍しいわけではありません。淋菌に感染した人のうち20%から30%の人がクラミジアにも感染しているといわれています。
淋菌とクラミジアに感染している場合には両方の治療をしなければ尿道炎を治すことはできません。
クラミジアは淋菌とはちがってすぐには検査結果が出ないうえに症状も軽いことが多いので、受診した段階で淋菌性尿道炎の人がクラミジアにもかかっているかはわからないのが現状です。このために淋菌性尿道炎の人に対しては感染した状況や本人の状態などを鑑みて検査結果が判明する前に淋菌とクラミジア両方の治療を最初から行うこともあります。
2. 尿道炎の治療を受ける際の注意点
尿道炎の治療は主に抗菌薬によって行われます。抗菌薬治療には注意点もあります。抗菌薬の効果を最大限に発揮するために参考にしてください。
正しく抗菌薬を使うことが重要
当たり前のことですが抗菌薬は効果のある正しいものを使うことが大切です。抗菌薬はデタラメな方法で飲んだ場合効果は期待できません。以下ではよくない抗菌薬の使い方を紹介します。
尿道炎の患者さんで治らなくて悩んでいる人の中には、違う病気でもらった抗菌薬の余りを飲んでみたけれど治らなかったという人や、個人輸入で購入した薬を飲んだけれども効かなかったという人がいます。
抗菌薬は原因となる細菌に合わせて効果のあるものを選ぶのが正しい使い方です。医師はそのつど細菌に合わせて抗菌薬を選んでいます。当然ながら他の病気でもらった抗菌薬では効果は期待できません。
尿道炎の様に人に隠したい病気の特性からか、自分で尿道炎を診断し個人輸入などで薬を購入して服用する人がいます。このような行為は非常に危険です。個人輸入した薬が偽物だった例や薬の副作用で死亡した人の例も知られています。
抗菌薬を正しく使うには医療機関を受診して診察から治療のきちんとしたステップを踏むことが大切です。
治療はパートナーも同時に行う
尿道炎のように性行為によってうつる病気が見つかった場合、性行為をする相手(パートナー)もすでに病気にかかっていると考えたほうがよいでしょう。
パートナーが感染している場合は自分だけ治療してもパートナーから再び病気をもらってしまい感染が繰り返されることになります。打ち明けにくいですがパートナーに尿道炎にかかってしまい性行為で感染することを説明して一緒に治療をすることが重要です。
治療期間を守る
尿道炎と診断された場合は抗菌薬による治療を行います。抗菌薬によって治療を開始すると効果が現れて症状が軽くなります。症状が軽くなったことに油断をして自己判断で治療を終了してしまう人がいます。つまり抗菌薬を飲まなくなるのです。
抗菌薬の処方期間は治療に必要な期間です。必要な期間に満たない治療は不十分です。つまり、治療期間が短すぎることで、菌が生き残ってしまう恐れがあります。すると菌が再び増殖して症状が悪化する原因にもなります。
治療期間中は性行為を控える
症状がよくなると治療期間中であっても尿道炎は治ったものだと考えて性行為をしてしまったという話を聞くことがあります。これは誤った考えです。
治療期間中は、たとえ症状が軽くなっていても、まだ病原体が生き残っているかもしれません。病原体がまだいる時期に性行為をすると、パートナーにうつしてしまう恐れがあります。すると再び感染することにもつながります。
性行為の再開は、治療期間を終えてもう病原体がいないことを確認して、医師の許可を得てからにしてください。
治療後の再受診を忘れない
治療後には再受診が予定されることが多いです。再受診は治療を確実にするために大切です。
尿道炎には抗菌薬による高い効果が期待できます。治療期間を終えるころには症状がなくなっている人がほとんどだと思います。症状がないのに治療後に再受診が必要なのはなぜなのでしょうか。
再受診の目的は、治療後に細菌が生き残っていないかや、生き残っている場合には耐性(薬が効かないまたは効きにくい状態)が出てきないかを調べるためです。治ったと思っていても細菌が再び増殖してまたあの症状をもたらすことがあるのです。そのため、尿道炎の治療は再受診して菌が最終的にいなくなったことを確認するまでなのです。
また悲しい思いをしないために、再受診での検査結果がでるまでを治療と考えて頑張りましょう。