重症筋無力症の基礎知識
POINT 重症筋無力症とは
免疫機能の異常が原因で手足・目・口など様々な場所の筋力が低下する病気です。診断を確定するために、反復刺激検査・筋力持久力検査・血液検査などを行います。胸腺の腫瘍(胸腺腫)が原因で起こる場合があり、その場合には胸腺腫の摘出術を行います。他にもステロイド薬・免疫抑制薬・血液浄化療法などの治療があります。ものが二重に見える・ものが飲み込みにくい・疲れやすいなどの症状が出た場合は医療機関にかかって下さい。その際は脳神経内科や一般内科にかかることをおすすめします。
重症筋無力症について
免疫 の異常が原因で目や口など様々な場所の筋力が低下する病気- 本来は外敵から守るはずの免疫システムが、自分を攻撃してしまうことで起こる
- 免疫細胞が作られる場所の一つである胸腺に異常があることが多い
- 病気のメカニズム
- おかしくなった免疫が神経から筋肉への命令を邪魔することで、筋肉がうまく動かせなくなる
- 筋肉の動きに関わる
アセチルコリン という物質の作用が弱まる
- 10万人あたりに11-13人かかると言われている
- 全国で患者は1-2万人程度いると言われている
- 女性が多い(男性の2倍)
発症 しやすい年齢は性別で違う- 男性:10歳から65歳の間に多い
- 女性:30歳、55歳にピークが多い
- 分類
- 2つのタイプに分かれる
- 眼筋型重症筋無力症:目やその周囲に
症状 が出るタイプ - 全身型重症筋無力症:全身がだるいなど全身に症状が出るタイプ
- 眼筋型重症筋無力症:目やその周囲に
- 2つのタイプに分かれる
重症筋無力症の症状
症状 が日によって変わる- 一般的に朝は症状が軽く、夕方以降に症状が重くなる
- 目の症状
まぶた が開きにくい(眼瞼 下垂)- 物が二重に見える(
複視 ) - 目の症状を初期症状として発見されることが多い
- 口、口の周りの症状
- 物を飲み込みにくい(嚥下障害)
- しゃべりづらい(
構音障害 )
- 全身の症状
- 全身の筋力低下(肩が上がりにくい、立ち上がりにくいなど)
- 疲れやすい
- 筋無力症
クリーゼ (患者の約10%に起きる):重度の手足の麻痺 、または呼吸するための筋力の低下(死に至ることもある)
重症筋無力症の検査・診断
重症筋無力症の治療法
- 治療法の概要
発症 年齢、重症度、胸腺異常の有無によって治療法が変わる
- 主な治療
- 拡大胸腺摘出術:画像検査などで胸腺の異常(胸腺腫など)が見つかった場合は早期に手術を行い胸腺と胸腺周囲の脂肪を広範囲に切除する
- 抗コリンエステラーゼ薬
- 効果は一時的で、
対症療法 として用いられることが多い
- 効果は一時的で、
ステロイド薬 免疫 抑制薬を一緒に使ってステロイド薬の必要量が極力少なくなるようにする
- 免疫抑制薬
抗体 製剤- リツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)
- エクリズマブ(抗
補体 C5モノクローナル抗体) - エフガルチギモドアルファ(抗FcRn抗体フラグメント製剤)
- ロザノリキシズマブ(抗FcRn抗体製剤)
免疫グロブリン 療法- 重症の場合や急激に悪化した場合に行う
- 血液浄化療法(アフェレーシスの一種)
- 重症の場合や急激に悪化した場合に行う
- 急速に呼吸困難に陥ることがある
- その場合、一時的には人工呼吸器を使用する
- 重症筋無力症では、使用できない薬が多い
- ベンゾジアゼピン系薬剤
- 一部の
抗菌薬 - 一部の抗不整脈薬
- 利尿薬
- 最近の治療で治る見込み(
予後 )は改善した- 50%ほどは日常生活に支障がないようになる
- 完治したと言える状態はないが、全体の20%近くが寛解(
症状 がなくなった状態)に至る - 薬をやめても1年以上症状が出なくなる人もいる
- 死亡は少数だがありえる
重症筋無力症に関連する治療薬
コリンエステラーゼ阻害薬(重症筋無力症などの治療薬)
- アセチルコリンの分解酵素を阻害しアセチルコリンの作用を増強することで、重症筋無力症における目や口、全身の筋力低下などを改善する薬
- 重症筋無力症では免疫異常により神経と筋肉の伝達物質(アセチルコリン)が邪魔をされているため筋力の低下がおこる
- アセチルコリンはコリンエステラーゼという酵素によって分解される
- 本剤はコリンエステラーゼ阻害作用によりアセチルコリン分解を抑える作用をあらわす
- 特徴的な副作用に下痢、吐き気、発汗、徐脈などがある
- 本剤の中には低緊張性膀胱による排尿困難の改善に使われるものもある
副腎皮質ホルモン(ステロイド内服薬・注射剤)
- 抗炎症作用、免疫抑制作用などにより、アレルギー性疾患、自己免疫疾患、血液疾患などに効果をあらわす薬
- 副腎皮質ホルモンの一つのコルチゾールは抗炎症作用、免疫抑制作用、細胞増殖抑制作用、血管収縮作用などをもつ
- 本剤はコルチゾールを元に造られたステロイド薬
- 本剤は薬剤のもつ作用持続時間によって、(作用の短い順に)短時間作用型、中間型、長時間作用型に分けられる
- 本剤は多くの有益の作用をもつ反面、副作用などに注意が必要となる
- 副作用の軽減目的のため、抗菌薬や胃薬などを併用する場合もある
コリンエステラーゼ阻害薬(点眼薬)
- アセチルコリンの分解酵素を阻害して重症筋無力症における眼の筋力低下や緑内障における眼圧を改善する薬
- 神経伝達物質のアセチルコリンはコリンエステラーゼという酵素によって分解される
- 重症筋無力症では免疫異常により神経と筋肉の伝達物質(アセチルコリン)が邪魔をされているため筋力の低下がおこる
- 目の筋力の低下により、まぶたが開きにくいであったり物が二重に見えるなどの症状があらわれる
- アセチルコリンは副交感神経を亢進させ、眼房水(眼圧上昇の原因となる体液)の排泄を促進させる
- 斜視(調整性内斜視)などの治療に使用する場合もある
重症筋無力症の経過と病院探しのポイント
重症筋無力症が心配な方
重症筋無力症は、現在でも治療が難しい難病の一つです。治療の目標は症状を抑えることと、それがうまくいった場合には、治療薬なしで症状が改善した状態(寛解(かんかい)状態といわれます)を目指します。
よくある初期症状にはものが二重に見える複視という状態があります。目の筋肉がうまく動かなくなることによって、右目と左目の焦点が少しずつずれてしまいます。斜視のように他人から見て分かるほど最初から両目の向きがずれてくるわけではありませんが、本人にとっては「ピントが合わせづらい」または「視力が落ちた」ように感じられます。その後、ものが飲み込みにくくなったり疲れやすくなったり呼吸がしづらくなったりという経過が一般的です。
このような症状に当てはまる場合には、お近くの内科、もしくは脳神経内科を受診されることをお勧めします。複視や飲み込みづらさの原因となる病気は重症筋無力症以外にも数多くあります。他の病気も含めて診断するための診察や検査が必要になりますが、これを最も専門的に行っているのは脳神経内科です。脳神経内科のクリニックがある場合にはそちらの受診をお勧めしますし、脳神経内科に限らず一般的な内科クリニックをまずはじめに受診するのも良いでしょう。
他の病気よりも重症筋無力症の可能性が高いとなってきた場合には、より精密な診断を行うため、総合病院や大学病院の受診が必要となります。はじめからこれらの病院を受診するということもできなくはないのですが、紹介状なしでの受診は追加で受診費用がかかることと、まずは重症筋無力症の可能性がどのくらいあるのかを判断した上でその次にこのような専門病院を受診した方が、不必要な受診が避けられる(最初から専門病院を受診した後に重症筋無力症ではない、となると、もう一度別の診療科を受診し直す必要が出てきます)という点があります。