かかんきしょうこうぐん
過換気症候群
不安や興奮などによる、いわゆる過呼吸によって体内の二酸化炭素のバランスが崩れ、しびれなどの症状を起こしている状態
17人の医師がチェック 125回の改訂 最終更新: 2021.05.20

過換気症候群とは:原因、症状、検査、治療など

過換気症候群は、過呼吸によって体内の二酸化炭素が減少することが原因となります。息苦しさ、手足や口周りの痺れ、動悸などの症状が出現します。命に関わることは極めてまれで、呼吸をゆっくりにするだけで数十分以内にはおさまります。ここでは過換気症候群の原因や症状、診断に至る流れ、治療方針を解説します。

1. 過換気症候群とはどんな状態か

過換気症候群はストレスなど精神面の問題が原因で、過呼吸になることで起こります。若い女性に多い病気ですが、近年はストレス社会を反映して中年男性の発症も増加傾向と言われています。なお、「過呼吸」と「過換気」はほぼ同じ意味と考えて大丈夫です。

呼吸の仕組み

過換気症候群を理解するためには、呼吸の仕組みについて簡単に知っておく必要があります。ヒトは呼吸により肺を通して、血液中に酸素(O2)を取り込み、血液中から二酸化炭素(CO2)を放出します。血液中に二酸化炭素が多くなると血液は酸性に、少なくなるとアルカリ性に傾きます。

過換気症候群の症状が出る仕組み

身体の痛みや精神的な不安、緊張などが原因で必要以上に呼吸が速くなると、二酸化炭素が血液中から放出されすぎて、血液は本来よりもアルカリ性に傾きます。

血液がアルカリ性に傾くと、脳はバランスを取るために呼吸をゆっくりにするよう信号を出します。そうすると、呼吸しようとしても呼吸がしにくいと感じて、息苦しさからいっそう不安感が強まります。不安感からもっと呼吸が荒くなっていくと、過換気症候群の負のスパイラルに陥ってしまうわけです。

また、血液がアルカリ性に傾くと、カルシウムなど血液中のミネラルバランスに異常が生じます。これによって、息苦しさ以外にも、手足や口周りの痺れ、筋肉のけいれんなどさまざまな症状が出ます。

2. 過換気症候群の症状について

過換気症候群では、過呼吸の原因となった元々の精神的な症状などに加えて、以下のような症状が出ます。

【過換気症候群の主な症状】

  • 呼吸が速くなる
  • 息苦しい
  • 胸が痛い
  • 動悸やめまいがする
  • 汗をかく
  • 手足や口の周りが痺れる
  • 筋肉がけいれんする など

上に挙げたような一連の症状は、呼吸をゆっくりすれば数分から数十分以内には治まるものです。しかし過換気症候群の人は、症状が出てくることでパニックになってしまい、不安感からますます呼吸が速くなって症状が悪化しがちです。

3. 過換気症候群の検査、診断について

過換気症候群は、主に症状が出現した際の経緯から診断されます。症状が典型的であり、以前にも過換気症候群を起こしているような人では、必ずしも検査は行われません。

過換気症候群に対する検査が行われる場合では、血液検査が最も中心的な役割を果たします。これにより血液のpH(酸性・アルカリ性の指標)や、カルシウムなどのミネラルバランスが分かるためです。

血液検査以外にも胸部レントゲンX線)検査、胸部CT検査心電図検査などが行われることもあります。これらは過換気症候群を直接診断するためではなく、他の病気ではないことを確認するのが目的です。何か他の身体の病気が原因で過呼吸になることもあるからです。代表的な身体の病気としては、以下のようなものがあります。

【過換気症候群と診断される際に注意すべき身体の病気】

特に肺血栓塞栓症が原因で過呼吸になっている人は診断が難しいことが多く、実はお医者さんにとっても見落としやすい注意すべき状態です。また、気管支喘息と過換気症候群は同時に発作を起こすこともあり注意が必要です。

こうした身体の病気が原因ではなく「ストレスなど精神症状からくる過呼吸だろう」と考えられれば、過換気症候群と診断されます。

以下にそれぞれの検査について個別に説明をします。

問診、診察

過換気症候群と診断される際に最も重要なのが問診と診察です。問診では以下のような点が重点的にチェックされます。

【主な問診内容】

  • 過呼吸が始まった時の状況(精神的な不安、緊張の強まる状況かどうか)
  • 以前にも過換気症候群と診断されたことがあるかどうか
  • 典型的な過換気症候群の症状が出ているかどうか など

過換気症候群は繰り返すことが多いので、以前にも診断されているかどうかは重要な目安です。また、診察では以下のような項目が重点的にチェックされます。

主な診察内容】

  • 呼吸数
  • 血中酸素飽和度
  • 脈拍数
  • 血圧
  • 体温
  • 呼吸音 など

一般的に過換気症候群では呼吸数や血中酸素飽和度、脈拍数などは増加し、血圧、体温、呼吸音などには異常が見られません。ただし、それらを確認するだけで過換気症候群とは診断できません。

これらの問診と診察内容を総合的に判断して、身体の病気が隠れている可能性は考えにくく、ストレスなど精神的な要因だと考えられれば過換気症候群と診断されます。

一方で問診や診察で、隠れた身体の病気の可能性もあると考えられた人では、必要に応じて検査が勧められます。

血液検査

過換気症候群において、血液検査は最も中心的な役割を果たします。過換気症候群の人では血液のpHが上昇し、カルシウムイオン濃度、カリウム濃度、リン濃度などの低下が見られます。

また、より正確に血液のpHや酸素、二酸化炭素の状態をチェックするために「動脈血ガス分析」という血液検査が行われることもあります。これは、脚の付け根や手首(親指側)を走る動脈から血液を採取する検査です。これらの動脈は触ってみると脈打っているのが分かると思います。動脈は、酸素を豊富に含んだ血液が心臓から送り出される時に通る血管であり、動脈血を調べることで正確に血液のpHや酸素、二酸化炭素の状態が分かります。

なお、血液検査で過換気症候群に典型的なデータが得られたとしても、それだけで過換気症候群とは断定できません。他の身体の病気に伴って過呼吸になっていても、過換気症候群として典型的なデータが得られることもあるからです。身体の病気をチェックするためには、以下で説明していくような追加の検査も行われます。

胸部レントゲン(X線)検査

胸部レントゲン(X線)検査は比較的手軽に胸全体の様子を観察できるため、広く行われています。この検査だけで過換気症候群と診断することはできませんが、気胸肺炎など他の病気で過呼吸になっていないかどうかを調べることができます。

胸部CT検査

胸部CT検査は胸部を輪切りにして観察する検査です。肺など胸部の様子をレントゲン検査よりも精密にチェックすることができます。過換気症候群を診断するためにCT検査まで必要になる人は多くありませんが、肺血栓塞栓症や小さな肺炎気管支炎気胸などを診断するためには必要となることもあります。

心電図検査

心電図検査も他の検査と同様に、過換気症候群の診断に直接結びつく情報は得られません。しかし、心筋梗塞や肺血栓塞栓症などに伴って過換気になっている人を見つけるためには有用な検査と言えます。

4. 過換気症候群の治療について

身体の病気が原因ではなく、精神的な要因で過換気になったと分かっている人は、ゆっくりと呼吸をしているだけで症状は改善します。もともとストレスや不安、緊張などで過換気が起きているところに過換気症候群による追加の症状まで出てくるので、本人の不安感はとても大きいものです。「呼吸ができなくて死んでしまうかもしれない」という恐怖感を覚える人も少なくありません。

しかし、基本的に命の危険を生じるような病気ではないことを理解し、ゆっくりと落ち着いて呼吸できれば数分から数十分程度で症状は劇的に改善します。なかなか自力で呼吸を落ち着かせることができない人では、以下のような治療法も行われます。

ペーパーバッグ再呼吸法

ペーパーバッグ再呼吸法では、袋を口に押し当てた状態でしばらく呼吸を続けます。そうすると、二酸化炭素が多く含まれているいったん吐き出した空気をまた吸い込むことになります。そのため、血液中の二酸化炭素濃度が低くなりすぎるのを防ぎ、過換気症候群による症状が治まります。

重大な病気のない若い人で、過呼吸を繰り返すような場合には有効な治療と考えられます。一方で、いったん吐いた酸素濃度が低い空気をまた吸い込むことになるため、この治療法には注意点もあります。心臓や肺などの病気で身体が多くの酸素を必要として過呼吸になっているときにこの治療法を行うと、酸素不足によって元の病気に悪影響を与えるのです。

したがって、過呼吸の人を見かけたら反射的にペーパーバッグ再呼吸法を勧めるのは危険と言えます。身体の持病がなく、精神的な要因で過呼吸を繰り返しているような人でのみ許容される治療法と考えて良さそうです。

内服治療

過換気症候群を繰り返す人はメンタル面の問題を抱えていることも多く、心療内科や精神科のお医者さんに診てもらうことも有効です。

不安感が強く、自分で過呼吸を抑えきれない人は、抗不安薬と呼ばれるタイプの薬などを処方されることもあります。そうした薬を過呼吸発作のときのために持参しておくと安心感につながるかもしれません。

参考文献

Daphné Du Pasquier : Hyperventilation syndrome and dysfunctional breathing : update. Rev Med Suisse 17 : 16(698): 1243-9, 2020.

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