ぎらんばれーしょうこうぐん
ギラン・バレー症候群
細菌やウイルスの感染をきっかけに、免疫が自分の神経を攻撃してしまい、感覚障害や筋力低下が起こる。
12人の医師がチェック 156回の改訂 最終更新: 2023.06.19

ギラン・バレー症候群とはどんな病気なのか?症状・原因・検査・治療について

ギラン・バレー症候群は免疫機能の異常によって末梢神経が障害を受ける病気です。ほとんどの人は順調に回復しますが、なかには重症化して人工呼吸器が必要になる人もあります。このページではギラン・バレー症候群の概要として症状や原因、検査、治療について説明していきます。

1. ギラン・バレー症候群とはどんな病気なのか?

ギラン・バレー症候群(英語名:Guillain-Barre syndrome)は免疫機能の異常によって末梢神経が障害を受ける病気です。本来、免疫機能は自分の身体を守ってくれるものですが、異常が起こると自分の身体を攻撃してしまうことがあります。このように免疫の異常によって自分の身体が攻撃されてしまう病気を自己免疫疾患といい、ギラン・バレー症候群はその1つです。

ギラン・バレー症候群は末梢神経が障害される病気

人間の神経は中枢神経と末梢神経の2つに大別できます。中枢神経とは脳と脊髄背骨の中にある神経)のことを指し、そこから枝分かれし全身に広がっているのが末梢神経です。末梢神経はさらに次の3つに分けることができます。

【末梢神経の種類と主な役割】

  • 運動神経:身体を動かす
  • 感覚神経:感覚を脳に伝える
  • 自律神経:臓器の動きやホルモンの分泌などをコントロールする

ギラン・バレー症候群ではこれらの末梢神経に障害が起こります。障害された神経の種類や場所、程度によって、症状の現れ方が変わります。

ギラン・バレー症候群にかかる人の割合やなりやすい年齢、男女比について

日本や諸外国で行われた研究報告の結果を用いて、ギラン・バレー症候群の疫学についてを説明します。

■ギラン・バレー症候群にかかる人の割合

日本で行われた研究によると、ギラン・バレー症候群を発症する人は人口10万人に対して1.15人と推測されています。

■ギラン・バレー症候群になりやすい年齢

ギラン・バレー症候群は年齢が上がるとともに、患者さんの数が増加していきます。諸外国でのギラン・バレー症候群の発症率の統計をまとめた表を下に示します。

【年齢別でのギラン・バレー症候群の10万人あたりの発病人数】

年齢(歳) 10万人あたりの男性患者(人) 10万人あたりの女性患者
(人)
0歳から9歳 0.8 0.45
10歳から19歳 0.97 0.55
20歳から29歳 1.18 0.66
30歳から39歳 1.43 0.8
40歳から49歳 1.73 0.97
50歳から59歳 2.09 1.18
60歳から69歳 2.54 1.42
70歳から79歳 3.07 1.72
80歳から89歳 3.72 2.09

男女ともに年齢が上がるにつれて、ギラン・バレー症候群を発病する割合が増加します。また、子どもでもギラン・バレー症候群を発病することがあります。

■ギラン・バレー症候群は男性と女性のどちらに多いのか

ギラン・バレー症候群は男性にやや多いです。日本での統計によると男女比は3:2程度とされます。

【参考文献】

Neuroepidemiology. 2011;36(2):123-33.
・ギラン・バレー症候群の全国疫学調査第一次アンケート調査の結果報告結果.厚生省特定疾患 免疫性神経疾患調査研究分科会 平成10年度研究報告書.1999;59-60.

2. ギラン・バレー症候群の症状

ギラン・バレー症候群になると、「手や足に力が入らない」と「手足がしびれる」といった症状が最初に現れます。発症から1-2週間の間で症状が最も悪化することが多く、発症から4週間以降では症状は進行しないのが一般的です。 軽症の場合は、初期症状からあまり進行しないこともあり、日常生活への影響も少なくて済みます。一方で、重症な場合は、歩行や立ち上がりができなくなり、日常生活に大きく影響します。そして、さらに悪化すると命に危険が及ぶこともあります。例えば、呼吸ができなくなることもあり、その際には人工呼吸器を使って呼吸を助ける必要があります。 症状がピークを過ぎれば、回復傾向になります。重症化した場合は長く症状が残ることもあります。症状については「ギラン・バレー症候群の症状」で詳しく説明しているので、参考にしてください。

3. ギラン・バレー症候群の原因

免疫の異常によって末梢神経が障害されるギラン・バレー症候群の多くは感染症をきっかけにして発病すると考えられています。実際、患者さんの約70%がギラン・バレー症候群を発症する1-3週間前に、風邪や下痢などの感染症を原因とする症状を経験していることがわかっています。これを先行感染といい、ギラン・バレー症候群の原因の1つだと考えられています。なお、ギラン・バレー症候群を起こす感染症の原因菌としてはサイトメガロウイルスやEBウイルス、カンピロバクターが知られています。感染以外にもギラン・バレー症候群を起こすきっかけになるものがいくつか知られており、代表的なものは「予防接種」や「手術」「外傷(怪我)」です。

4. ギラン・バレー症候群の検査

手や足のしびれや脱力といった症状からギラン・バレー症候群が疑われる人には次のような診察や検査が行われます。

【ギラン・バレー症候群が疑われる人の検査】

  • 問診
  • 身体診察
  • 筋電図
  • 血液検査
  • 髄液検査
  • 画像検査
    • CT検査
    • MRI検査

基本的には問診と身体診察で診断が行われますが、それだけでは判断が難しい場合や他の病気との区別が必要な場合には、検査がいくつか行われます(上記の検査全てが行われるわけではありません)。それぞれの診察や検査については「ギラン・バレー症候群の検査」で詳しく説明しているので参考にしてください。

5. ギラン・バレー症候群の治療

ギラン・バレー症候群の主な治療は「免疫調整療法」と「リハビリテーション」の2つです。軽症で進行する可能性が極めて低い人では、治療を行わずに経過を見ることがあります。

  • 免疫調整療法
    • 免疫グロブリン療法
    • 血液浄化療法
  • リハビリテーション

原因となっている免疫の異常を整える治療(免疫調整療法)が有効です。免疫調整療法には回復を早めたり、重症化を少なくする効果があります。

免疫調整療法は「免疫グロブリン療法」と「血液浄化療法」の2つです。(詳しくは「ギラン・バレー症候群の治療」で説明しているので参考にしてください。)また、重症化した人には免疫調整療法後にもしばらくの間、症状が残る(後遺症)ことがあり、機能を元に近づけるためにリハビリテーションが行われます。

リハビリテーションについては「こちら」を参考にしてください。

6. ギラン・バレー症候群でよくある疑問について

ここまでギラン・バレー症候群の概要について説明してきました。病気自体がよく知られたものではないので、ここで取り上げた以外の疑問や悩みについてもよく耳にします。具体的に言うと、「遺伝するのか」や「うつる病気なのか」などです。患者さんが持ちやすい疑問や悩みについては「こちらのページ」でまとめて説明しているので参考にしてください。

【参考文献】

ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン2013
・「神経内科ハンドブック」(水野美邦/編集)、医学書院、2016
Neuroepidemiology. 2011;36(2):123-33.