2017.12.06 | ニュース

59人の麻痺は本当にエンテロウイルスD68が原因だったのか?

日本の2015年秋の調査から

from Clinical Infectious Diseases

59人の麻痺は本当にエンテロウイルスD68が原因だったのか?の写真

手足が動かしにくいなどの症状を現す「急性弛緩性脊髄炎」にかかった人が2015年に日本各地で見つかりました。原因解明のために行われた調査の結果から、病気の特徴などが報告されました。

急性弛緩性脊髄炎が流行?

急性弛緩性脊髄脳から脊椎の中へ向かって通っている太い神経。脳と体の各部位を行き来する指令を伝える役割をもつ炎(きゅうせいしかんせいせきずいえん)は、まれで実態が把握されていない病気です。手足が動かしにくくなるなどの「急性弛緩性麻痺神経の障害により、手足などに十分な力が入らない、感覚が鈍くなるなど、身体機能の一部が損なわれること」という症状が見つかっています。

急性弛緩性麻痺の患者からエンテロウイルス様々な病気の原因となる病原体の一つ。細菌とは別物であり、抗菌薬は無効であるD68が見つかった例があることなどから、エンテロウイルスD68が原因に関わっているのではないかと考えられています。

2015年10月には、日本小児神経学会から学会員に対して情報提供に関する協力依頼が出されるとともに、厚生労働省から「急性弛緩性麻痺(AFP)を認める症例の実態把握について(協力依頼)」という事務連絡が出されました。これによって全国で急性弛緩性麻痺が現れた人の調査が行われました。

 

日本で見つかった患者の統計

国立感染症何らかの病原体が引き起こす病気。細菌、ウイルス、真菌などが原因となることが多い。人から人へ直接うつらないものも含めた総称研究所の多屋馨子氏らが、急性弛緩性麻痺の調査結果などをもとに、急性弛緩性脊髄炎の特徴や、経過を予測する手がかりとなる点を調べ、専門誌『Clinical Infectious Diseases』に報告しました。

この調査では、患者の運動機能の評価のため徒手筋力検査を使いました。徒手筋力検査は、医師と患者が力比べをするようにして筋力を0(筋肉の収縮がまったくない)から5(強い力に逆らって動かすことができる)までで評価する方法です。

徒手筋力検査をもとに、診断後の運動機能の改善を4段階で評価しました。

  • 完全な回復:徒手筋力検査で5
  • 良好な回復:徒手筋力検査で4、または2段階以上の改善
  • ある程度の回復:より小さい改善
  • 回復なし

あわせてエンテロウイルスD68の感染についての調査結果も参照しました。

報告の著者らは、調査で見つかった患者の特徴を集計するとともに、完全な回復・良好な回復を見込みやすい人の特徴があるかを調べました。

 

59人のうち9人で検出

調査では115人が報告されていました。

ギランバレー症候群やその他の病気と診断された人などを除くと、急性弛緩性脊髄炎が確実という基準に合った人が58人、おそらく急性弛緩性脊髄炎という基準に合った人が1人いました。

うち55人は子供、4人が成人でした。年齢は4分の3が7.7歳以下、半数が4.4歳以下でした。

麻痺などの神経学的症状が現れるよりも前に何らかの別の症状があった人が57人で、特に多かったのは発熱(52人)と呼吸器症状(44人)でした。4分の3の人で発熱から5.3日以内に手足の筋力低下が現れていました。

ウイルスの検査をした人は57人で、エンテロウイルスD68が見つかった人は9人でした

52人に何らかの筋力低下が残りました。治療前の徒手筋力検査が3を超えていた人、エンテロウイルスD68が見つからなかった人などで、「完全な回復」または「良好な回復」が多い傾向にありました。

 

2015年9月をピークに、新しく急性弛緩性脊髄炎が見つかった人の数の増減と、エンテロウイルスD68が見つかった人の増減に強い相関2つのことの間に何かしらの関係性があること。ただし、因果関係や前後関係などの意味をもった関係性があるかは不明がありました。

 

著者らは「エンテロウイルスD68は急性弛緩性脊髄炎の原因として働くもののひとつかもしれないが、免疫病原体に対する体の防御システム。何かのきっかけで、免疫が過剰反応している状態がアレルギーで、免疫が自分自身の体を攻撃してしまうのが自己免疫疾患応答のような感染者の感受性の要因も急性弛緩性脊髄炎の発症症状や病気が発生する、または発生し始めることに寄与していることがありえる」と結論しています。

 

急性弛緩性脊髄炎の対策に向けた努力

日本で行われた急性弛緩性脊髄炎の調査の報告を紹介しました。エンテロウイルスD68だけでは説明がつかないかもしれないという結果がありました。

急性弛緩性脊髄炎の正確な原因はわかっておらず、治療法も確立していません。有効な対策を見つけ出すための努力が続けられています。

執筆者

大脇 幸志郎


参考文献

Clinical Features of Acute Flaccid Myelitis Temporally Associated with an Enterovirus D68 Outbreak: Results of a Nationwide Survey of Acute Flaccid Paralysis in Japan, August-December 2015.

Clin Infect Dis. 2017 Oct 6. [Epub ahead of print]

[PMID: 29028962]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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