きゅうせいすいえん
急性膵炎
膵臓が作り出している消化液(膵液)によって、膵臓の周りにある臓器がダメージを受けてしまう病気
14人の医師がチェック 126回の改訂 最終更新: 2021.11.30

急性膵炎で知っておきたいこと:治療後の食事やアルコール摂取の考え方などについて

急性膵炎と聞いてもどのような病気なのかイメージできる人は少ないのではないでしょうか。この章では、急性膵炎になる前に知っておきたいことや治療後に知っておきたいことを中心に解説します。

1. 急性膵炎は命に関わる病気なのか

急性膵炎は重症化すると命に危険を及ぼしうる危険な病気です。でも実際にどのくらいの人がなるか、疑わしいときにはどんな対応をすればいいのかといった情報は少ないのではないでしょうか。ここでは急性膵炎がどのくらいの人に発症するのかやどの診療科を受診したらいいのか、その後の経過などについて解説します。

急性膵炎はどのくらいの人に発症するのか

ときには命に危険を及ぼしうる急性膵炎ですが、どのくらいの人が発症しているのでしょうか。急性膵炎を発症した人を集計した2011年の全国調査によると、1年間に63,080人が急性膵炎を発症したとされます。これは1年間に10万人あたり49.4人で急性膵炎が発生するという頻度です。

急性膵炎は自然治癒するのか

急性膵炎は自然治癒するのでしょうか。結論から先に言うと自然治癒は難しいと考えられます。急性膵炎は軽症の場合は食事を一時中止して膵臓を休めてあげることで回復することもあります。しかし食事を中止するだけで治るわけではなく不足する水分を点滴などを用いて補う必要があります。つまりただ食事を中止するだけで簡単に治る病気ではありません。また軽症でも入院するのには理由があります。急性膵炎は軽症だと考えられていても重症化することがあるので病気の経過を注意深く見る必要があるからです。

急性膵炎が心配な時には何科を受診すればいいのか

膵臓を扱う診療科は消化器内科なので、受診をすると専門的な検査や治療を受けることができます。病院によっては消化器内科はさらに細かく胃や大腸を扱う消化管内科と肝胆膵内科に分かれていることもあるので、その場合には肝胆膵内科を受診するとよいでしょう。

とはいえ症状から急性膵炎かどうかを判断するのは難しいです。強い上腹部痛などを感じて医療機関を受診したいと考えるときには診療科にこだわらずに受診を急ぐことの方が重要な場合もあります。症状に対応ができる医療機関を受診して診察を受けてみて下さい。医療機関によっては腹痛などの対応ができないこともあるのでインターネットや電話などを利用して腹痛などの対応ができるかを調べておくのもよいでしょう。また夜間など一般の病院が診療時間を終了している場合には夜間の救急外来などでも対応が可能です。

急性膵炎ではどれくらいの人がなくなるのか

日本で行われた調査によると、急性膵炎の死亡率は、全体で2.1%、重症例に限ると10.1%になるという報告があります。決して無視できない数値だと考えられます。

この調査では高齢者ほど死亡率が高くなることも指摘されているので特に注意が必要です。

急性膵炎の重症例の全体に占める割合は2011年の調査では19.7%でした。最初に軽症例と診断されてもその後重症化することも珍しくはありません。急性膵炎と診断されたら必要以上に不安になる必要はありませんが、医師の説明を十分聞いてどのような事態に陥る可能性があるのかなどを頭に入れておいてください。そうした心の準備は万が一重症化した際に落ち着きを与えてくれるからです。

急性膵炎は再発するのか

急性膵炎になった後には再発することがあるのでしょうか。

急性膵炎の再発率は原因によって異なります。アルコールが原因の急性膵炎の再発率は、46%であり、そのうち80%は4年以内に再発したという報告があります。胆石を原因とする場合は、胆石の治療が行われなかった場合の再発率は32-61%と高い再発率を示しています。

急性膵炎の主な原因は飲酒や胆石なので、生活習慣の改善や適切な治療により再発率を下げることも期待できます。急性膵炎になると痛みや数日間の絶食などは肉体的にも精神的にも辛いものがあります。2度と辛い思いをしないためにも予防は最大限に行うことが大切です。このあとに治療後の食生活などで注意するべき点についても解説します。

2. 急性膵炎を治療した後の食生活には何に気をつければいいのか

急性膵炎になった後には二度とあんな苦しい思いをしたくはないと考えると思います。しかしながら急性膵炎は再発する病気なので注意をしなければなりません。また急性膵炎によって内臓がダメージを受けていることもあるので、低下した機能を補うためにも食生活には注意が必要です。

飲酒は適量を守る

アルコールの大量摂取は急性膵炎の原因として知られています。このため急性膵炎になった後にはアルコールの大量摂取は避けるべきです。ではどの程度のアルコールが適量なのでしょうか。急性膵炎は1日4ドリンク(エタノール48g)以上の飲酒量で発症する危険性が高まるとされています。この報告には、急性膵炎を初めて発症した人と再発した人の両方が含まれています。再発だけに絞った検討はほとんどないのでアルコールをどの程度に制限した方がよいかははっきりとはしていません。とはいえ再発を防ぐことを考えるとエタノールは少なくとも1日4ドリンク以内に制限するのは妥当な考えだといえますし、身体の状況次第ではさらに制限した方がいい場合もあるでしょう。急性膵炎が一度治った後には医師にどの程度のアルコールならば許容されるかを聞いてそれを守ることが大切です。

1ドリンクが実際の飲み物でどのくらいに相当するかは「このページ」を参考にしてください。

参考文献
・Irving HM, et al. Alcohol as a risk factor for pancreatitis. A systematic review and meta-analysis. JOP. 2009 Jul 6;10(4):387-92.

過剰な脂肪の摂取を控える

油ものを消化吸収するための酵素は膵臓から分泌されます。急性膵炎の後には膵臓がダメージを受けているので消化酵素の分泌が少なくなっており、その分脂肪を吸収しにくくなっています。脂肪を吸収できなければ下痢になってしまい症状に悩まされることもあります。そのため脂肪が過剰に多い食事は控えることが大切です。ただし、脂肪を極端に制限することにも問題があります。脂肪を極端に制限すると身体を動かすのに必要なエネルギーが不足してしまい身体はやせ細り栄養状態の悪化につながるからです。

急性膵炎が慢性化した慢性膵炎の場合でも適正な脂肪の摂取量は1日あたり40-60gとされています。慢性膵炎に至るほど膵臓の機能が落ちていない場合にはもう少し脂肪をとっても問題はない可能性もあります。実際に食事をしてみた後に問題が起こるかを観察して適切な脂肪の量について医師や管理栄養士と相談して見極めることも大切です。

糖分の過剰な摂取を控える

膵臓は血糖値を下げるインスリンというホルモンを分泌します。急性膵炎で膵臓が大きくダメージを受けるとインスリンの量が不足して糖尿病が引き起こされることがあります。急性膵炎の治療後に血糖値が高いと言われた場合には糖分の過剰な摂取には特に注意が必要です。

急性膵炎後の糖尿病には、状況に合わせて血糖降下薬やインスリンが用いられます。糖尿病になってからは血糖値を安定させることが、それに続いて引き起こされる合併症の予防につながります。(糖尿病の合併症については「このページ」を参考にして下さい)血糖値を安定させるには適切に治療薬を用いることに加えてバランスのとれた食事をすることも大切です。

3. 急性膵炎になった後に気を付けなければいけない病気など

急性膵炎が治った後には原因となる病気が隠れていないかを調べます。背景に病気がなくても急性膵炎は起きるのですが、もし病気が隠れているならば治療が必要になりますし、治療によって急性膵炎が再発する危険性を下げることができます。特に気を付けなければならないのは膵臓がんなどの腫瘍と胆石です。

また急性膵炎になると膵臓が受けたダメージによって糖尿病慢性膵炎になることがあります。糖尿病慢性膵炎は長い期間の治療が必要で治療は生涯に及ぶことも珍しくはありません。

急性膵炎後に調べておくべき病気

■腫瘍

急性膵炎の原因になる腫瘍は膵臓がんとIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm))が知られています。膵臓がんもIPMNも膵臓の中にある膵管という場所に発生します。膵臓がん悪性腫瘍ですが、IPMNは悪性のことも良性のこともあります。

膵管内に腫瘍ができるとなぜ急性膵炎が起るのでしょうか。膵管は膵液を通す管で、膵液は膵管から腸に出るとタンパク質や脂質を消化する働きをします。腫瘍が大きくなり膵管が閉塞すると膵管内の圧が上昇しその影響で膵液が活性化してしまい膵臓やその周囲を溶かしてしまうと推測されています。

膵臓がんについてさらに詳しい情報は「膵臓がんの知識」を、IPMNについてさらに詳しい情報は「膵臓がん以外の膵臓の病気」を参考にして下さい。

■胆石

胆石は胆道を流れる胆汁の成分が固まったものです。胆汁は肝臓で作られ脂肪の吸収に関わっています。肝臓で作られた胆汁は胆道を通り膵臓の中を通過して十二指腸に流れ込みます。十二指腸と胆道のつなぎ目はファーター乳頭といい、胆道はここで膵液が流れる膵管と合流します。胆石は症状を起こさないこともあるのですが、胆道に詰まると腹痛や発熱などの症状が現れます。特に胆石が膵管と合流する場所の近くで詰まると膵液の流れを妨げるので急性膵炎が起きます。胆石は複数個あることも稀ではありません。胆石性膵炎の後には胆石がもうないかを調べて胆石が残っている場合には再発予防を目的に胆石を取り除く手術を検討します。

急性膵炎の後遺症で起こる病気

糖尿病

急性膵炎になるとその程度によっては膵臓へのダメージが強くそのために後遺症がでることがあります。その1つが糖尿病です。なぜ急性膵炎後に糖尿病になるのでしょうか。

膵臓は様々な働きをしています。食べ物を溶かす酵素を出す働きもある一方、血糖値に影響を与えるホルモンを出したりしています。膵臓が出しているホルモンの中に、インスリンという血糖値を下げるホルモンがあります。膵臓がダメージを受けると、インスリンを分泌する力が下がってしまうことがあり、その結果インスリンの量が足りなくなると糖尿病になります。

急性膵炎後の糖尿病はその状態に応じて生活指導の改善や内服薬、インスリン自己注射(インスリンを自分で注射する)などの治療をします。

急性膵炎後の糖尿病は、いわゆる生活習慣病と深く関連がある糖尿病に比べると稀ですが、治療については一般的な糖尿病の治療が参考になります。糖尿病についての詳しい情報は「このページ」を参考にして下さい。

慢性膵炎

急性膵炎になるとある一定の割合で慢性膵炎になることが分かっています。慢性膵炎はどのような病気なのでしょうか。

慢性膵炎は、膵臓に慢性的炎症が起きる病気で腹痛や下痢、体重減少などの症状が現れます。慢性膵炎の症状は持続的です。

慢性膵炎の治療は、まず生活習慣の改善や薬物治療などを用いて行う保存的治療(内科的治療)が検討されます。保存的治療は以下のものを組み合わせます。

  • 禁酒
  • 禁煙
  • 消化酵素の内服
  • 食事の脂肪を制限する

慢性膵炎はアルコールを原因とすることが多いので、病気の進行を遅らせるにはアルコールを絶つことが有効です。

また膵臓は脂肪やタンパク質を分解する消化酵素を分泌する働きをしていますが、慢性膵炎では膵臓の機能が低下するために脂肪やタンパク質の消化吸収が不十分になります。脂肪やタンパク質の消化不良が続くと栄養不足に陥るので消化の力を補うべく消化酵素(蛋白分解酵素)を内服します。それでも下痢などが落ち着かないときには脂肪の摂取を制限してみて症状への反応を観察します。

禁煙は慢性膵炎の症状を緩和するという報告があるので、慢性膵炎の人は積極的に禁煙をすることが勧められています。

保存的な治療にも関わらず、慢性膵炎を原因とした腹痛などがよくならないことがあります。腹痛の原因としては膵管が細くなって膵液の流れが悪くなることなどが理由として推測されています。保存的治療で症状の改善が乏しいときには手術を行うことを検討します。

手術では膵液の流れを改善することを目的にします。手術では膵臓の一部または全てを切除します。膵臓を切除する手術は合併症なども多いので簡単に選べるものではありません。つまり手術によって得られる効果を期待したものの合併症が起きて期待したよりも悪い結果となってしまう可能性もあります。このために手術を行うかどうかについては慎重な検討が必要です。手術によって得られる利益とそれにともなって起こりうる不利益を十分に理解することが大切です。

また慢性膵炎になった人はその後に膵臓がんを発症する危険性が高くなることが知られています。このために慢性膵炎の人は定期的に超音波検査などを使って膵臓にがんが発生していないかを調べることを検討しても良いかもしれません。膵臓がんを定期的に調べる方法やその間隔などについては定まった見解はありません。このために医師と相談の上、どのような検査を用いるのか、どのくらいの間隔で行うかなどを相談する必要があります。

少し長くなったのでまとめます。慢性膵炎になった場合、その後の経過を見ていく上では以下が重要なポイントです。

  • 慢性膵炎にともなう症状のコントロールを行う
  • 膵臓がんの発生する危険性が高くなっているので定期的な検査について相談しておく

慢性膵炎は長い時間、症状と付き合って行く必要があるので、どのような病気なのかということを十分に理解して日々の生活を送って下さい。

参考文献
・急性膵炎診療ガイドライン2015改訂出版委員会, 急性膵炎診療ガイドライン2015, 金原出版, 2015
日本消化器病学会, 慢性膵炎診療ガイドライン, 2015
・Pelli H, et al. Long-term follow-up after the first episode of acute alcoholic pancreatitis: time course and risk factors for recurrence. Scand J Gastroenterol. 2000 May;35(5):552-5.