ちゅういけっかんたどうせいしょうがい
注意欠陥・多動性障害(ADHD)
集中力が続かない、うろうろ動きまわる、いきなりカッとなるなどの症状が特徴の病気。男の子に多い
17人の医師がチェック 198回の改訂 最終更新: 2023.01.17

注意欠陥・多動性障害(ADHD)の原因について:妊娠中の生活、遺伝、環境因子など

ADHDは脳の前頭葉や線条体の異常と関連していると考えられています。前頭葉は注意力や自己抑制、線条体は活動量をコントロールしています。ADHDになるかどうかは妊娠中の飲酒、喫煙、感染症、親から子への遺伝など、様々な要因が絡んでいると考えられています。

1. 注意欠陥・多動性障害(ADHD)が起こるメカニズム

脳は運動、記憶、感情などをコントロールしている場所です。また社会性や集中力にも関わっています。脳はこのようなたくさんの役割を一つの場所で行っているわけではなく、いくつかの部位で役割分担をしています。

逆に言えば、脳になんらかの異常がある場合にも、その部位によって、あらわれる症状は異なります。例えば、記憶をつかさどる場所に障害があると記憶力が落ちますし、運動と関連した場所が障害を受けると運動機能の低下を招きます。

ADHDについてはまだ十分に原因はわかっていませんが、前頭葉(ぜんとうよう)線条体(せんじょうたい)いう部位の異常との関連が報告されています。

ADHDに関わる脳の部位:前頭葉や線条体

前頭葉は脳の前の方の領域で、注意力や自己抑制と関わっています。人間がいろいろな衝動を我慢できたり、理性的に考えることができるのは前頭葉が発達しているためです。ADHDの人は前頭葉がうまく機能しないことで、不注意や我慢が難しくなっているのではないかとされます。

線条体は脳の中心部にある領域です。ドパミンという神経物質が作用することによって、活動量がコントロールされています。ADHDの人では線条体のドパミンに対する反応が異なり、活動量が過剰になるのではないかと考えられています。

また他にも集中力の維持に必要なアドレナリンやノルアドレナリンといった神経物質の不足がADHDの一因になっている可能性も指摘されています。

2. 妊娠中の生活が赤ちゃんのADHDの原因になる?

ADHDは前頭葉や線条体の異常が一因として考えられています。このような脳の異常は、お母さんの妊娠中の生活との関連が知られています。赤ちゃんの脳の発育に影響を与える妊娠中の行動やイベントは以下の通りです。

  • 飲酒
  • 喫煙・受動喫煙
  • 感染症
  • 早産

以下で詳しく説明していきます。

飲酒

妊娠中は赤ちゃんは血液を介して、栄養をもらいながら成長していきます。逆に言うと妊娠中にお母さんの血液に有害な物質が含まれていると、それが赤ちゃんにも取り込まれ、発育に影響を与えます。発育に悪影響を与える身近な物質としては、アルコールやアルコールが分解されることでできるアセトアルデヒドがあります。またアルコールは赤ちゃんの発育に重要な葉酸という物質の取り込みも阻害します。妊娠中の飲酒は、ADHDだけでなく、さまざまな発育異常の原因になるので、控えるようにしてください。

喫煙・受動喫煙

たばこの煙の中にはニコチンや一酸化炭素などのさまざまな毒素が含まれています。妊娠中にたばこを吸うとこれらの毒素が赤ちゃんの発育に悪影響を与えます。たばこの煙はご自身が喫煙した場合だけでなく、周りの人のたばこの煙を吸った場合(受動喫煙)も同様に良くありません。妊娠中は自身の禁煙だけでなく、家族にも禁煙を協力してもらう必要があります。

感染症

妊娠中の感染症も赤ちゃんの脳の発育に影響を与えます。日頃からマスク着用、手洗いの徹底、人ごみを避けるなどの感染症予防をしておくことが重要です。また、風疹ワクチンのように、妊娠前にお父さんお母さんに勧められるものもあるので、気になる人はお医者さんと相談してみてください。(詳しくは先天性風疹症候群の基礎知識を参考にしてください。)

早産

通常、赤ちゃんは37-41週程度で生まれてくることが多いです。過去の研究では22-33週で出産した赤ちゃんは、40週で産まれた赤ちゃんよりもADHDの症状を持ちやすかったことが報告されています。出産のタイミングはなかなかコントロールできるものではありませんが、予期せぬ早産にならないよう妊娠時には体調に気をつけておく必要があります。

参考文献
Ask H, Gustavson K, et al. Association of Gestational Age at Birth With Symptoms of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in Children. JAMA Pediatr. 2018 Aug 1;172(8):749-756.

一部の薬は、妊娠中に服用することで、赤ちゃんの脳の発育に影響することが知られています。ただし、お母さんの病気の治療に薬が必要な場合もあるので、薬を中止すべきかはお医者さんとよく相談して決めるようにしてください。

3. ADHDと遺伝の影響について

私たちはお父さんとお母さんの遺伝子を引き継ぐことで、両親に似た部分を持つことになります。例えば、顔立ちや性格の遺伝などが挙げられますし、それだけではなく、病気のなりやすさなども引き継がれることがわかっています。

一方で、私たちは周りの環境の影響も受けながら育っていきます。病気のなりやすさに関しても、例えばたばこを吸っていると肺がんになりやすくなるように、環境の影響を受けることがわかります。

その病気がどれだけ遺伝子の影響を受けているかを知るために、一卵性双生児(ふたご)でどれだけ病気を発症するかを調べることがあります。一卵性双生児は遺伝子がほとんど一緒であるため、遺伝子により病気になるかが決まる場合、一卵性双生児の両方に病気が起こるためです。

ADHDは片方の子どもにADHDの人がいる場合、もう片方の子どもにADHDになる確率は50-80%と言われています。これは他の病気と比べても高い確率であり、遺伝の影響を強く受けていることが示唆されています。

4. ADHDと生後の環境の影響について

妊娠中の生活に問題がない場合や、家族にADHDがいない場合にも、ADHDを発症することがあり、ADHDの発症には環境の影響もあると考えられています。しかしながら、具体的に何が重要であるのか十分にはわかっていません。