金沢大学、前立腺がんの手術でペニスが短くなることを世界で初めて報告

前立腺がんの主な治療の一つが手術です。前立腺を取り除くことで高い治療効果が得られます。ただし手術による尿漏れなどの問題もあります。手術後の陰茎の長さにも変化が見られたことが報告されました。
根治的前立腺全摘除術の後の陰茎の長さの研究
金沢大学泌尿器科と放射線科の研究班が、前立腺の手術の後に陰茎の長さを追跡調査した結果を泌尿器科専門誌『BJU International』に報告しました。『BJU International』は泌尿器科領域では有数の高い支持を集めている媒体です。
この研究は、根治的前立腺全摘除術を受けた患者を対象に、手術から24か月後まで陰茎の長さを追跡調査したものです。
根治的前立腺全摘除術とその合併症とは?
根治的前立腺全摘除術は、転移がない前立腺がんの代表的な治療法です。前立腺がんは、がんの中でも比較的寿命を縮めないがんですが、手術することで余命を伸ばす効果が見込めます。
手術によって引き起こされる問題(合併症)もあります。術後の一時的な合併症のほか、尿漏れや勃起不全は起こる確率が高く、半年以上何らかの症状が残る場合もあります。
手術の方法や合併症などについての一般的な知識は「前立腺がんの手術とは?」のページでも解説しています。
102人の患者を追跡
この研究では、根治的前立腺全摘除術を受けた患者102人が対象となりました。対象者は手術前と手術後に定期的に陰茎の長さ(引き伸ばしたときの長さ)を計測されました。手術後24か月まで測定が行われました。
加えて、解剖学的にどの部分が変化しているかを調べるために、手術前と手術後のMRI画像で計測できる長さも追跡調査されました。
10日後が最も短く、1年で元に戻る
調査から次の結果が得られました。
牽引陰茎長は根治的前立腺全摘除術後10日で最も短く(術前水準からの平均短縮量:19.9mm)、以後しだいに回復した。根治的前立腺全摘除術御12か月での牽引陰茎長は術前と有意差がなかった。
陰茎の長さは手術後10日に最も短くなり、手術前と比べて平均2cmほど短くなっていました。その後はしだいに元に戻り、12か月後には手術前と比べて統計的に違いが見られなくなりました。
MRIでは、陰茎が短くなっているときには膜様部尿道遠位端(前立腺と陰茎の間の部分)が膀胱側に4mmほど移動していることが観察されました。
研究班は「これは根治的前立腺全摘除術後の膜様部尿道のわずかな垂直移動が時間を追って牽引陰茎長の変化を引き起こすことを示した初めての報告である」と記しています。
意外に気になる?手術の影響
陰茎の長さという切り口で手術の影響を調べた研究を紹介しました。
手術後の尿漏れなどに比べると、陰茎の長さは実質的に生活の負担にもならず、大した問題ではないと思えるかもしれません。しかし、陰茎の見た目は多くの男性にとってとても気になることです。手術を受けたあと変化に気付いても、「困ってるわけじゃないし…」と遠慮して主治医に相談しづらく感じている男性は意外にいるかもしれません。
手術の成績と言うと、ともすれば余命や機能障害といった「本来の」目的に注意が集まり、こうした細かい心配事は見逃されがちです。
しかし、少しでも患者の不安を取り除こうとする取り組みも年々蓄えられています。陰茎の長さを相談してきた患者に「1年経てば元に戻るから心配要りませんよ」と答えてくれる泌尿器科医がいたら頼もしいと感じられるのではないでしょうか。この報告が世界的に有名な医学誌に載ったことには重みがあります。
執筆者
Changes in penile length after radical prostatectomy: investigation of the underlying anatomical mechanism.
BJU Int. 2017 Feb 8. [Epub ahead of print]
[PMID: 28181381]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。