2017.04.25 | ニュース

マンモグラフィーの「間違い」が乳がんの発見を遅らせる?

26万人の検査結果から
from Cancer epidemiology, biomarkers & prevention : a publication of the American Association for Cancer Research, cosponsored by the American Society of Preventive Oncology
マンモグラフィーの「間違い」が乳がんの発見を遅らせる?の写真
(C) Voyagerix - Fotolia.com

マンモグラフィーは乳がんを発見する性能の高い検査ですが、使い方に注意が要ります。マンモグラフィーで偽陽性の結果が出た女性で、将来乳がんを診断された時にステージが進んでいる場合が多かったとする報告を紹介します。

アメリカの研究班が、マンモグラフィーの結果がその後の行動に与える影響を調査し、専門誌『Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention』に報告しました。

この研究は、マンモグラフィーの検査を受けた女性を対象として、検査結果によって次の検査を受ける時期が遅れることがあるかを調べています。対象者が繰り返し受けたマンモグラフィーの間隔などの情報を集めました。

261,767人の女性についてのデータを解析しました。

 

マンモグラフィーは高い性能で乳がんを指摘できる検査です。症状がなくても、50代から60代の女性を中心に、定期的に繰り返しマンモグラフィーの検査を受けることが一般に勧められています。このように症状などがない多くの人の中から病気を見つけ出す検査をスクリーニングと言います。

スクリーニングだけで診断は決まりません。マンモグラフィーで陽性、つまり「乳がんの疑いあり」という結果が出た場合、超音波検査エコー検査)や生検などが行われ、視触診などの情報とも総合して診断が出ます。マンモグラフィーで陰性だった場合、乳がんの可能性はかなり小さいと言えますが、見逃しも完全にゼロにはできません。

最終的な診断とマンモグラフィーの結果の組み合わせは次の4種類に分類できます。

  • マンモグラフィーで陰性で、最終的な診断も乳がんではない(真陰性)
  • マンモグラフィーで陰性だったが、最終的に乳がんと診断された(偽陰性
  • マンモグラフィーで陽性だったが、最終的に乳がんではないと診断された(偽陽性
  • マンモグラフィーで陽性で、最終的に乳がんと診断された(真陽性)

マンモグラフィーは偽陽性や偽陰性が少ない優れた検査です。しかし、どんな検査も絶対ではなく、「間違い」をゼロにはできません。マンモグラフィーも多くの人が受ければ中には必ず偽陽性や偽陰性が出る人がいます。

この研究のデータでは、検査時点で乳がんではないと診断された場合のうち、マンモグラフィーで真陰性の結果は650,232件、偽陽性の結果が90,918件出ていました。

 

検査時点で乳がんではないと診断された女性について、解析から次の結果が得られました。

真陰性の結果があった女性は、偽陽性の結果があった女性に比べて、次の36か月以内にスクリーニングを再び使用することが36%多かった(ハザード比1.36、95%信頼区間1.35-1.37)。

マンモグラフィーで偽陽性になることを経験すると、マンモグラフィーで真陰性だった場合に比べて診断時のステージが進行しているリスクが増加する(P<0.001)。

マンモグラフィーが偽陽性だった女性と真陰性だった女性を比べると、偽陽性だった女性では検査後36か月以内に次のスクリーニング検査を受けることが少なくなっていました

偽陽性だった女性と真陰性だった女性のうち、あとで乳がんと診断された人を比較すると、偽陽性だった女性のほうが診断時点でステージが進行していることが多くなっていました。

 

マンモグラフィーの結果によってその後の検査を受ける行動に違いがあったとする報告を紹介しました。

検査結果が出たときの気持ちは人それぞれですが、偽陽性だった場合、つまり「マンモグラフィーでは乳がんかもしれない結果でしたが、よく調べたら乳がんではありませんでした」と言われた場合、よくない印象を受ける人はいるかもしれません。

マンモグラフィーは検査時点で乳がんがあるかないかを区別できますが、検査のあとで乳がんが発生することもあります。このためマンモグラフィーは定期的に繰り返し受けることが勧められます。心配になったときにだけ検査してそのあと何年も検査しなければ、スクリーニングとしての効果は限られたものになってしまいます。

検査をするべき合理的な基準としては年齢が最も重視されています。日本乳癌学会による「乳癌診療ガイドライン」(2015年版)では、「40歳代女性に対して行われるマンモグラフィ検診も勧められる」としています。一方、アメリカの政府機関である米予防医学作業部会(USPSTF)は、「50歳から74歳の女性に対して2年に1回のスクリーニングマンモグラフィーを勧める」としています。どちらの基準でも30代までの女性には定期的なマンモグラフィーを勧めていません。

検査の特性をよく理解して、どんな結果が出たときにどうするかをあらかじめ考えておくことで、検査の効果をうまく引き出すことができます。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Impact of a False-Positive Screening Mammogram on Subsequent Screening Behavior and Stage at Breast Cancer Diagnosis.

Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2017 Feb 9. [Epub ahead of print]

[PMID: 28183826]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。