2021.08.19 | コラム

アストラゼネカワクチンの接種を積極的に検討したほうが良い人は誰か?

アストラゼネカ社製コロナワクチンのデータを整理して解説します

アストラゼネカワクチンの接種を積極的に検討したほうが良い人は誰か?の写真

高齢者を中心にコロナワクチンの接種が進み、これまで日本では主にファイザー社製とモデルナ社製のワクチンが使われてきました。これらに加えて、アストラゼネカ社製のワクチン(バキスゼブリア®筋注)も原則40歳以上(特に必要がある場合は18歳以上の方)を対象に公費接種する方針が7月30日に厚生労働省から示されました。緊急事態宣言対象地域では、8月下旬からさっそく接種が始まります。

モデルナ社製ワクチン出荷遅延の影響などもあってワクチン不足が叫ばれる中で、選択肢が増えることは嬉しいことです。

一方で、

「アストラゼネカ社製は有効性が低い」
「アストラゼネカ社製は血栓症などの副反応が特に怖い」

という話を聞いて、アストラゼネカ社製は避けたいと考えている人も多いと思います。

ファイザー社製やモデルナ社製はmRNAワクチンと呼ばれるタイプですが、アストラゼネカ社製はウイルスベクターワクチンと呼ばれるタイプで、ワクチンの構造からして異なるものです。そのため、効果や副反応もmRNAワクチンとは違う特徴が目立ちます。

 

このコラムではアストラゼネカ社製ワクチンの有効性と安全性に関する情報を整理して、接種を受けようか迷う人の参考になるような情報を示したいと思います。

*本コラムは2021年8月19日現在の情報に基づいています。(査読前論文に基づくデータも示しており、今後変わる可能性があります。)

 

1. 有効性

まずは新型コロナウイルス感染症に対する、アストラゼネカ社製ワクチンの有効性について確認していきます。

 

発症予防効果

さまざまなデータがありますが、アストラゼネカ社製ワクチンによる発症予防効果は70%前後であると報告されています。効果の良し悪しを直接比較するための臨床試験ではないので、厳密には比べることができないのですが、95%前後の発症予防効果が示されているファイザー社製やモデルナ社製と比べると見劣りするのは否めません。

一方で、毎年使用されるインフルエンザワクチンの発症予防効果は50%前後のことが多いので、70%という数字は決して劣悪なものではありません。また、今や全世界をデルタ株が席巻しているわけですが、今後はさらなる変異が起こっていく可能性が高いので、変異するたびにこの有効性の数字は変化していくことが予測されます。つまり、変異次第では各社のワクチンの数字上の優劣が逆転する可能性はあるということです。(現在のところわかっている変異株に対する有効性の報告については下で詳しく説明します。)

 

重症化の抑制効果

重症化を防ぐ効果についても多くのデータがありますが、「入院するような症状の人を88%減少させた」というスコットランドからの報告が有名です[1]。

これはファイザー社製やモデルナ社製のmRNAワクチンとほぼ同等の数字です。命を守る、医療逼迫を防ぐ、という観点から見れば、この数字は素晴らしいものと思います。

 

変異株に対する効果(デルタ株、ベータ株、ガンマ株)

変異株への効果についてもさまざまな報告があります。ここでは、日本で猛威を振るうデルタ株(インド株)について、カナダ政府が支援する機関からの報告を紹介します[2]。

カナダのデータベースによれば、ワクチン1回の接種でデルタ株による有症状の新型コロナ感染症をアストラゼネカ社製、ファイザー社製、モデルナ社製でそれぞれ67%、56%、72%抑制することができました。デルタ株による入院や死亡の抑制効果についても、アストラゼネカ社製は1回の接種で88%抑制という良好なデータを示しています。

一方で、アストラゼネカ社製ワクチンのデルタ株に対する発症予防効果は2回接種しても60%しかない[3]、「ベータ株」や「ガンマ株」に対する有効性ではファイザー社製、モデルナ社製に劣る[2]、などの報告もあります。

こうしたデータをまとめてみると、変異株に対する効果としてはほぼ同等、あるいはmRNAワクチンに軍配が上がると言えそうです。

 

ブースター接種(3回目の追加接種)の有効性

ワクチンを接種してから半年ほどすると、次第にワクチンによって作られた抗体が減少してくるという問題が世界的に話題になっています。

そこで、抗体価を再び高めるために追加でワクチンを打つ「ブースター接種」の動きが広まりつつあります。アストラゼネカ社製ワクチンは、3回目のブースター接種の有効性が早くから示されており、3回目の接種で抗体価が大きく上昇するとされています[4]。

また、違う種類のワクチンを組み合わせて接種する有効性も報告されています[5]。むしろ違うワクチンを組み合わせたほうが良いという意見もあり、最初はアストラゼネカ社製のウイルスベクターワクチンを接種しておき、ブースター接種でmRNAワクチンを使うという戦略も考えられそうです。

なおアストラゼネカ社製は、ワクチンの有効成分ではなく「入れ物(添加物)」に対する抗体ができることで、繰り返し接種をした際の有効性が低下することが懸念されています。ただし、今のところの臨床データを見るとブースター接種の効果はしっかり得られています。

 

2. 安全性

多くの人が気になるのは、効果よりも安全性についてかもしれません。アストラゼネカ社製ワクチンを接種後に血栓症、毛細血管漏出症候群、ギラン・バレー症候群などを発症した例が海外で報告されているからです。

ここでは、最も有名な血栓症を中心に確認してみます。

 

血栓症

海外でアストラゼネカ社製ワクチンを接種した人のデータでは、約15万回の接種に1回の頻度で脳や腹部などの静脈に血栓ができたと報告されています[6]。そして、血栓症による死亡例も散見されます。非常にまれではありますが、ワクチンを打っていない人に血栓ができる頻度と比べると明らかに高いため、アストラゼネカ社製ワクチンとの関与が疑われています。

こうした血栓症は50歳以下の女性で起こりやすく、初回接種から2週間以内での発症が多いと分かっています。

一方で、新型コロナウイルス感染症そのもので重大な血栓症を発症する頻度は、ワクチン接種によるそれよりも高いと考えられます[7]。ワクチンを打つという能動的な選択をしたことで血栓症になってしまうのは、もちろん心情的に受け入れ難いものです。しかし頻度の面だけで言えば、ワクチンを打たないで新型コロナウイルスにかかって重大な合併症を患ってしまう頻度のほうが、40歳以上の世代では多そうです。

また、mRNAワクチンならば血栓症のような特有で重大なトラブルと無縁かというと、そうでもありません。例えば12〜29歳の男性では、2回目のmRNAワクチン接種者で約2.5万人に1人が心筋炎を発症しています[8]。ワクチン接種で心筋炎になっても亡くなる方はとても少ないので心配しすぎることはありませんが、心臓に炎症が起きて入院が必要になるなど、決して侮れない症状です。

 

アレルギー

mRNAワクチンと違って、2回目よりも1回目の接種後に症状が出やすいという特徴はあるものの、アストラゼネカ社製でも発熱や怠さなどワクチンの一般的な副反応はよく出ます。一方で、重大なアレルギー反応である「アナフィラキシー」の頻度は、mRNAワクチンと比較して少ない可能性があります[9]。

これは、mRNAワクチンに添加されておりアナフィラキシーの原因となる「ポリエチレングリコール」がアストラゼネカ社製ワクチンには含まれていないためかもしれません。しかし、アストラゼネカ社製にも「ポリソルベート80」という類似物質は含まれているため、詳細は不明です。

 

3. 接種間隔

アストラゼネカ社製も、ファイザー社製やモデルナ社製と同様に2回の接種を行いますが、間隔については少し異なります。アストラゼネカ社製の接種間隔は4-12週間とされており、8週間以上間隔を空けるとより効果的というデータがあります。それぞれ3週間隔と4週間隔での接種を基本とするファイザー社製とモデルナ社製よりも、間隔が長く設定されているので注意してください。

 

4. まとめ

アストラゼネカ社製を中心に、ワクチンの有効性と安全性について解説しました。

ここまでのデータを見ると「有効性が低く、血栓症のリスクが高いワクチンだ」と安易に敬遠するのはもったいないようにも思えます。ただ、今のところは有効性の面でmRNAワクチンに分がありそうなこと、血栓症の死亡例は極めてまれとはいえ確かにワクチン接種と関係がありそうなこと、を踏まえると「どちらか選べるならばmRNAワクチン」という人が多いのは自然かもしれません。

一方で、いま打てるワクチンがアストラゼネカ社製しかないのであれば、mRNAワクチンを待つよりはアストラゼネカ社製を打っておく方が確率的にはベターな選択と言えそうです。副反応よりは、新型コロナウイルス感染症の危険のほうが大きいと考えられるからです。

特に以下に当てはまる人は、アストラゼネカ社製を積極的に考慮してよいかもしれません。

 

【アストラゼネカ社製ワクチンを積極的に考慮してよさそうな人】

  • 海外などで1回だけアストラゼネカ社製ワクチンを打った人
  • ポリエチレングリコールアレルギーの懸念があってワクチンを打ってない人
  • 40歳以上の男性や、50歳以上の女性で、mRNAワクチンを打つ予定がない人

 

アストラゼネカ社製ワクチンを打とうか悩んでいる人にとって、少しでも参考になる情報があれば幸いです。

 

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る