2020.07.21 | コラム

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するヒドロキシクロロキンの有効性・安全性についてわかっていること(2020年7月21日更新)

ヒドロキシクロロキンがどのような薬であるかについても紹介しています

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世界各国で新型コロナウイルスの感染が拡大しています。新型コロナウイルス感染症の大きな問題として、「未だ有効性が確認された治療薬がない」ということが挙げられます。そんな中、米国のトランプ大統領が新型コロナウイルス感染症の治療のgame changerになりうるとコメントし、注目を浴びた薬に「ヒドロキシクロロキン(プラケニル®️)」があります。
このコラムではヒドロキシクロロキンがどのような薬であるか、新型コロナウイルス感染症に対する有効性・安全性がどの程度わかっているのかについて紹介します。

*2020年7月21日 情報更新

 

ヒドロキシクロロキンとはどのような薬か

ヒドロキシクロロキンは、もともとマラリアという感染症に対する治療薬(抗マラリア薬)として開発されました。ヒドロキシクロロキンが開発される前には、クロロキンという抗マラリア薬がありましたが、重い副作用として目の障害(網膜症)が問題となりました。そのため、網膜症の副作用を軽減するため開発されたのが、クロロキンの代謝産物であるヒドロキシクロロキンです。

また、はっきりした機序はわかっていませんが、免疫を適切な状態に調節する作用もあります。そのため、海外では皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデス、関節リウマチなどの免疫の異常で起こる病気にも使用されており、日本でも皮膚エリテマトーデス、全身性エリテマトーデスの治療薬として2015年に承認されています。なお、クロロキンについては日本で承認されていません。

ヒドロキシクロロキンは適切に使用すれば、比較的安全性の高い薬です。ただ、副作用が全くないわけでなく、吐き気や食欲不振などの消化器症状、皮疹、骨髄抑制、心筋症、肝機能障害などがあります。網膜症についても、クロロキンほど多くはないですが起こることがあり、ヒドロキシクロロキンの使用前や使用後に定期的に眼科受診をすることが求められています。また、内服用量を性別、身長から計算した理想体重に応じて決めるなど、注意点がいくつかある薬です。

 

新型コロナウイルス感染症に対する有効性・安全性についてわかっていること

新型コロナウイルス感染症のヒドロキシクロロキンの有効性が注目されるきっかけの一つに、3月20日にフランスからの研究報告があります(1)。この研究では36人の感染者を対象としてヒドロキシクロロキンの有効性を検証していきました。36人のうち20人はヒドロキシクロロキンを使用(一部はアジスロマイシンという薬を併用)し、残りの16人はヒドロキシクロロキンを使用しませんでした。この2つのグループについて6日後にPCR検査での陰性率を比較したところ、ヒドロキシクロロキンを使用していた人たちのほうがPCR検査の陰性率が高いという結果でした。

 

【対象者の内訳】

  ヒドロキシクロロキン
を使用した20人
ヒドロキシクロロキン
を使用しなかった16人
6日後の
PCR検査陰性率
70% 12.5%

 

この研究結果からヒドロキシクロロキンが新型コロナウイルス感染症に有効な薬剤でないかと期待が高まっていきました。ちなみに36人の内訳は6人が無症状、22人が上気道症状のみということで比較的軽症の患者が中心でした。

 

しかし、5月にLancet誌で発表された大規模な研究(2)では、ヒドロキシクロロキンを投与することで、新型コロナウイルス感染症の死亡率が上昇すると報告されました。この研究では671病院、9万人以上の新型コロナウイルス感染症入院患者のデータベースを解析し、ヒドロキシクロロキンを使用しなかった場合と使用した場合と死亡率を比較しました。以下がその結果です。

 

  • ヒドロキシクロロキンを使用しなかった場合の死亡率:9.3%
  • ヒドロキシクロロキンを使用した場合の死亡率:18%

 

この研究結果では統計的に有意な差が見られたため、新型コロナウイルス感染症に対するヒドロキシクロロキンは投与すべき薬剤ではないという結論が出たかに思われました。しかし、同論文のオーストラリア人の死亡者数のデータが、他の公開データと一致せず、データの信憑性に疑いが持たれました(3)。同論文のデータはアメリカの医療情報を分析している企業から提供されていましたが、同企業が第三者機関へのデータベースの情報公開を拒否したため、最終的に論文著者らにより論文の取下げが行われました(4)。

 

そのため、ヒドロキシクロロキンが新型コロナウイルス感染症に対して有効で安全に投与できる薬剤であるか、はたまたその逆であるか、はっきりした結論が出ていない状態となっています。

 

新型コロナウイルス感染症に対するさらなる研究の動き

新型コロナウイルスは感染拡大が続いていることもあり、新型コロナウイルス感染症の研究はこれまで以上にスピードを重視して進められています。一方で、上述のLancet誌での報告のように、十分な検証がなされないまま発表に至ってしまったケースもあります。そのため、新型コロナウイルス感染症に対するヒドロキシクロロキン投与の有効性、安全性についてはまだまだしっかりとした検証が必要な段階と言えます。

そういった背景もあり、現在も多くのヒドロキシクロロキンの臨床研究・治験が進められています。臨床研究・治験のデータベースサイトである「ClinicalTrials.gov」を見てみると、200以上(7月21日時点)の研究の準備が進められています。情報が集積をしていくことで、ヒドロキシクロロキンが本当に有効な薬なのか、またそうなのであれば、どのように使うべきなのかがはっきりしてくると思います。一方で、これらの結果が出るのには時間がかかるため、治療薬のない現状において、専門家の判断のもと新型コロナウイルス感染症の人にヒドロキシクロロキンの投与が行われることもあるかもしれません。こうした動きによって素早く治療が受けられるだけでなく、新たな示唆が生まれることもあります。

 

新型コロナウイルス感染症の治療薬の候補薬の一つであるヒドロキシクロロキンについて紹介しました。新型コロナウイルス感染症は急速に世界に広がっており、不安な人も多いかもしれません。今後治療薬に関する情報の集積が進み、1日も早く治療法が確立することに期待しています。

 

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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