ピロリ菌とNSAIDs(ロキソニンやアスピリンなど)でリスクが61倍! 胃・十二指腸潰瘍の原因と予防法について

ストレスが続いて胃のあたりがキリキリと痛くなってきたら、胃潰瘍(いかいよう)という病名が頭に浮かぶかもしれません。ストレスはリスク因子の一つではありますが、胃・十二指腸潰瘍の主な原因は「ピロリ菌感染」と「NSAIDs」の2つと考えられています。
潰瘍が進行すると胃や十二指腸の壁から出血して吐血をすることもあり、重症化する前に症状に気づいて治療することが大切です。(症状と治療についてはこちらのコラムを参考にしてください。)また、これらの二大原因に対処することで予防につなげることができます。
1. 胃・十二指腸潰瘍の原因は何か
潰瘍とは「粘膜が深く傷ついてえぐれた状態」のことです。本来ならば胃・十二指腸の粘膜は胃酸から保護されていますが、何らかの理由で防御の仕組みが崩れると粘膜に傷がつきやすくなります。
胃・十二指腸潰瘍の二大原因は「ピロリ菌感染」と「消炎鎮痛薬(NSAIDs)」と考えられています。
ピロリ菌は胃に感染して炎症を起こす
ピロリ菌(Helicobacter pylori)は胃に感染する細菌で、慢性胃炎や胃がんの原因になると考えられています。ピロリ菌が長期にわたって胃に感染すると萎縮性胃炎と呼ばれる慢性胃炎の状態となり、萎縮した胃粘膜では胃酸に対する防御作用が低下して潰瘍が発生しやすくなります。
また、胃にピロリ菌が感染すると、その影響で十二指腸では胃酸過多の状態になり、十二指腸潰瘍が発生する原因となります。
NSAIDsは粘膜の保護作用を低下させる
胃・十二指腸潰瘍の原因となる薬剤はNSAIDs(エヌセイズ)と呼ばれる消炎鎮痛薬です。代表的な薬剤はアスピリン(バファリンなど)、ロキソプロフェン(ロキソニン®️など)、ジクロフェナク(ボルタレン®️など)で、痛み止めや解熱薬として使われます。
少し専門的な話になりますが、NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)と呼ばれる酵素を阻害することで痛みの原因となるプロスタグランジン(PG)という物質の産生を低下させます。しかし、このPGという物質には胃・十二指腸の粘膜を保護するという役割もあるため、NSAIDsを使用することで結果として粘膜の保護作用が低下して傷つきやすくなり、潰瘍の原因となります。
これまでの研究で報告されている、それぞれの潰瘍の起こりやすさは次の通りです。
- ピロリ菌感染・・・18倍
- NSAIDsの使用・・・19倍
また、ピロリ菌感染とNSAIDs使用の両方があると61倍にもなると言われています。
2. 胃・十二指腸潰瘍の予防法とは
胃・十二指腸潰瘍をできにくくするには、上記の二大原因に対して手を打つ必要があります。それぞれについて簡単に説明します。
ピロリ菌を除菌する
胃・十二指腸潰瘍になった患者さんのピロリ菌を駆除することで、潰瘍の再発を予防できることがわかっています。また、今まで胃・十二指腸潰瘍になったことがない人でも、ピロリ菌に感染していると判明した場合には除菌治療を行うことで将来の潰瘍発生を予防できる可能性があります。(ピロリ菌の除菌治療についてはこちらを参考にしてください。)
NSAIDsを使うときには予防的薬物治療を併せて行う
NSAIDsを一定期間(3か月以上など)内服する人では、潰瘍の発生・再発を予防するために潰瘍の治療薬(プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカー、防御因子増強薬)を合わせて内服することが勧められます。
ただし、これらの薬剤は胃・十二指腸潰瘍になったことがある人の再発予防のみに保険適用となっており、潰瘍になったことがない人の予防には保険適用されないので注意が必要です。詳しくは主治医の先生と相談することが大切です。
胃の痛みを引き起こす潰瘍の予防にはピロリ菌とNSAIDsへの対策が重要です。本コラムを参考に予防治療を検討してみてください。
執筆者
・「消化性潰瘍診療ガイドライン2015」(日本消化器病学会/編)、南江堂、2015年
・非静脈瘤性上部消化管出血における内視鏡診療ガイドライン Gastroenterological Endoscopy Vol.57(8) Aug 2015
・「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン」(日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会)、先端医学社、2016年
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。