1. 胃・十二指腸潰瘍とはどんな病気か
胃では強力な酸である消化液(胃酸)が分泌されているため、胃や十二指腸は胃酸にさらされて傷ついてしまわないように防御する仕組みをもっています。しかし、何らかの原因でこの仕組みが崩れると、胃や十二指腸の壁に傷が付きやすくなります。小さな傷ができても問題ないことが多いのですが、傷がどんどん深くなると胃・十二指腸潰瘍(かいよう)と呼ばれる病気になります。
具体的には、「ピロリ菌感染」や「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)という種類の痛み止め」が胃・十二指腸潰瘍の原因になると言われています。(原因についてはこちらのコラムで詳しく説明しています。)
2. 胃・十二指腸潰瘍ではどのような症状が見られるか
胃・十二指腸潰瘍で見られる症状には次のようなものがあります。
みぞおち付近の痛み(心窩部痛:しんかぶつう)
胃と十二指腸はおなかの中央から右寄りに位置しています。胃・十二指腸潰瘍ができると、これらが位置するみぞおち付近から右側にかけて痛みが出ることがあります。心窩部痛と呼ばれるこの痛みは、潰瘍のできはじめから自覚症状として現れると言われています。
ただし、みぞおちのあたりには他にも色々な臓器があるため、心窩部痛があるからと言って必ずしも胃・十二指腸潰瘍が原因とは言い切れません。気になる痛みが続く人は、原因をはっきりさせるために受診を検討してください。
潰瘍が進行して胃や十二指腸の壁の血管が傷つくと出血が起こり、以下のような症状が見られます。これらは命に関わることもある症状ですので、すみやかに受診をしてください。
黒色便
普段の便には血液はほとんど含まれていませんが、胃・十二指腸から出血すると、食べ物と一緒に血液は小腸、大腸を通って便として排泄されます。この場合、便の色は黒っぽい色になります。これが「黒色便」です。見た目がコールタールに似ているので「タール便」と呼ばれることもあります。
血液は赤いのに、なぜ黒い便になるのかと不思議に思うかもしれません。
血液が赤いのは赤血球という成分によるもので、赤血球の中のヘモグロビンというタンパク質が赤い色をしています。血液が小腸、大腸を通り抜ける間にヘモグロビンの中の鉄が酸化され、黒色の酸化鉄になり、これが便に混じることで便の色が黒くなるのです。
便の色は食べた物の色にも影響されますが、黒っぽいものを食べた覚えがないのに黒色便が出ておなかが痛い人は、胃・十二指腸潰瘍の可能性を考える必要があります。
吐血
潰瘍がひどくなってたくさん出血すると、血液が短時間で胃の中にたまっていきます。たまった血液の量が増えていくと気持ち悪くなってきて、胃の内容物と一緒に血液を嘔吐します。これが「吐血」です。血液が酸化する間もなく吐いてしまうことが多いので、一般的に吐血は赤色〜赤黒色をしています。
3. 胃・十二指腸潰瘍はどのように治療するのか
胃・十二指腸潰瘍になったら医療機関での治療が必要です。
治療の柱は酸分泌抑制薬による薬物治療ですが、潰瘍から出血している人では内視鏡(胃カメラ)による止血処置が必要になる場合があります。また、胃・十二指腸潰瘍の原因の一つに解熱鎮痛剤として使われるNSAIDsがあり、NSAIDsが原因と考えられる人では可能な限りNSAIDsの内服を中止します。
薬物治療
胃酸の分泌を抑制する薬剤を使って治療を行います。まず最初に使われるのは、プロトンポンプ阻害薬(PPI)です。胃潰瘍では約8週間、十二指腸潰瘍では約6週間にわたって薬を内服します。
PPIが使用できない人には、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)や防御因子増強薬などが用いられます。個人の病状や他に飲んでいる薬剤との組み合わせで使用できる治療薬が異なりますので、お医者さんと相談することが大切です。
内視鏡治療
胃・十二指腸潰瘍からの出血が疑われる人では、できるだけ早期に内視鏡検査を行うことが大切です。
内視鏡で潰瘍をよく観察し、太い血管が切れて血が出ている人や、その時点では出血していないが再出血する可能性が高い人には内視鏡を用いて止血処置を行います。止血処置にはクリップという金属を使う方法、熱で血管を固めてしまう方法、胃粘膜に薬剤を注射する方法などがあり、病状によって使い分けられます。
4. まとめ
おなかが痛くて黒い便が出たときには、胃・十二指腸潰瘍から出血している可能性があります。これらの病気以外にも黒い便が出ることがありますが、少なくとも黒い便が続く場合は要注意のサインと言えます。いずれも進行すると命に関わることもある病気ですので、先延ばしをせずに早期に医療機関を受診して詳しく調べてもらってください。
執筆者
・「消化性潰瘍診療ガイドライン2015」(日本消化器病学会/編)、南江堂、2015年
・非静脈瘤性上部消化管出血における内視鏡診療ガイドライン Gastroenterological Endoscopy Vol.57(8) Aug 2015
・「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン」(日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会)、先端医学社、2016年
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。