2015.08.04 | コラム

ステロイド潰瘍はステロイドでは起こらない(!?)

消化性潰瘍を引き起こす原因とステロイドの関係とは?
ステロイド潰瘍はステロイドでは起こらない(!?)の写真
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医療用で用いられるステロイドは、免疫疾患、アレルギー疾患、血液疾患など様々な領域で使用されている薬です。多くの有益な作用の一方で副作用も多様であり、特に“ステロイド潰瘍”の名前と共に消化管への副作用はよく知られていますが、実際には…。

◆ ステロイドの消化管への副作用とは?

医療用ステロイドは体内の副腎という臓器から分泌される、コルチゾールというホルモンと同じような作用をもつように造られた薬です。多くの有益な作用により免疫疾患、アレルギー疾患、神経疾患、血液疾患など、その用途は多様であり、臨床現場においては無くてはならない薬剤の一つと言っても過言ではありません。しかし、多様な作用を持つということはその一方で様々な副作用を引き起こす可能性があるとも言えます。特によく知られているのが消化管への副作用で、ステロイド潰瘍という言葉があるほどです。

ステロイドは胃液を酸性(すっぱい性質)に傾けて消化酵素のペプシンを増加させ、胃粘膜保護作用のあるムチンという物質を減少させます。これらの作用により消化性潰瘍が発生すると考えられ、その中でステロイド潰瘍という言葉も生まれました。

しかし近年、ステロイドを投与しているからステロイド潰瘍ができるわけではないということがわかってきました。

以前は胃酸やペプシンといった胃に対しての攻撃因子になるとされるものが消化性潰瘍の発生原因と考えられていましたが、最近の研究では消化性潰瘍の原因の多くはヘリコバクター・ピロリ菌によるものであることがわかっています。ピロリ菌の次に多い原因としてはアスピリンなどのNSAIDsステロイド性消炎鎮痛薬)で、その他は感染症などの稀なものになります。

 

◆ NSAIDsによる消化性潰瘍の発生とステロイドの関係

NSAIDsにはシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害する作用があり、このCOXの種類の中でCOX1というものが胃粘膜防御因子であるプロスタグランジン(PG)の生成に関わっています。その為、NSAIDsの投与→COX1阻害→PG生成抑制 という順を経て潰瘍が発生するのです。通常NSAIDsの投与(特に中~長期的な投与など)にはPPI(プロトンポンプ阻害薬)などの潰瘍を防ぐ薬を合わせて服用する治療方法が一般的となっています。

ではステロイド自身はどうかというと、最近の消化性潰瘍ガイドライン(日本消化器病学会「消化性潰瘍診療ガイドライン2015」より)ではステロイドは消化性潰瘍の発症(再発)のリスクファクター(危険因子)にはならないとされています。但し一方で、前述の消化性潰瘍ガイドラインにはステロイドとNSAIDsの併用は潰瘍(潰瘍合併症)のリスクが高くなるともあります。つまりステロイドは消化性潰瘍の直接の発症原因となるわけではないが、NSAIDsなどにより発生した潰瘍に何らかのマイナスな影響を与えるとされているのです。その影響の中でも特にステロイドには潰瘍の治りを遅らせる作用があることがわかっています。

 

今回ご紹介したように、ステロイド投与中に潰瘍が発生するのはピロリ菌の感染やNSAIDsの併用などが原因と考えられているため、ステロイド潰瘍という名称はステロイド自身にとっては少し不名誉な名前なのかもしれません。しかしステロイドの投与によって消化性潰瘍ができやすい(治りにくい)環境になるのもまた確かです。なんらかの治療でステロイドを投与する場合にはピロリ菌感染の有無を考慮したり、ステロイドとNSAIDs併用の状況下では胃薬の併用も考慮しなくてはなりません。

仮の話になりますが、ステロイドの投与中(NSAIDsとの併用を含む)にピロリ菌除菌の薬剤やPPIなどの胃薬が処方されたとします。一見してこれらの薬剤はステロイドの治療には直接関係ないように見えるかもしれませんが、実は重要な薬剤となるのです。

執筆者

中澤 巧

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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