1型糖尿病に対するインスリンポンプと強化注射治療の比較
ドイツ・オーストリア・ルクセンブルクから集まった研究班が、1型糖尿病に対するインスリンポンプの長期的な効果について調べ、医学誌『JAMA』に報告しました。
1型糖尿病は糖尿病の一種ですが、肥満や生活習慣が原因ではありません。1型糖尿病はやせた子供にも現れます。治療は主にインスリンです。
インスリンは飲み薬にすることができません。自己注射する方法がありますが、繰り返し注射することが生活上の負担にもなります。インスリンポンプは持続的にインスリンを注入することで、自己注射の必要を減らすことができます。ただし自分で操作する必要があります。
この研究は、1型糖尿病に対して1日4回以上のインスリン注射を使用している患者と、インスリンポンプを使用している患者を追跡調査し、経過を比較したものです。
調査はドイツ・オーストリア・ルクセンブルクで2011年から2015年にかけて行われました。この解析では、参加時に20歳未満で、すでに1型糖尿病を診断されてから1年を超えていた人を対象としました。
ポンプ治療を使っていた人と、1日4回以上の注射を使っていた人から、年齢・性別などの治療以外の条件が似通っている人どうしを選び出し、それぞれ9,814人ずつ、計19,628人のデータを解析しました。
評価する点として、重症の低血糖と糖尿病ケトアシドーシスの件数を比較しました。
低血糖はインスリン治療の代表的な副作用です。血糖値が一時的に下がりすぎると、重症では意識を失うなど危険な状態に陥ります。反対に、血糖値が一時的に極端に上がったなどの場合に、糖尿病ケトアシドーシスという危険な状態が現れます。治療上は低血糖と糖尿病ケトアシドーシスのどちらも少ないほどよいと言えます。
ポンプ治療のほうが重症低血糖・糖尿病ケトアシドーシスが少ない
追跡期間のデータを解析し、次の結果が得られました。
ポンプ治療は、注射治療と比べて、重症の低血糖の発生率がより少なく(100人年あたり9.55 vs 13.97、差-4.42、95%信頼区間-6.15から-2.69、P<0.001)、糖尿病ケトアシドーシスの発生率がより少ない(100人年あたり3.64 vs 4.26、差−0.63、95%信頼区間−1.24から−0.02、P = 0.04)ことと関連した。糖化ヘモグロビンの値は注射治療よりもポンプ治療で低かった(8.04% vs 8.22%、差−0.18、95%信頼区間−0.22から−0.13、P < 0.001)。
重症の低血糖は、ポンプ治療では1年間に100人あたり9.55人、注射治療では13.97人に発生していました。
糖尿病ケトアシドーシスは、ポンプ治療では1年間に100人あたり3.64人、注射治療では4.26人に発生していました。
ポンプ治療のほうが重症の低血糖・糖尿病ケトアシドーシスともに少ない結果となりました。
血糖値を反映するHbA1cの値は、ポンプ治療で平均8.04%、注射治療で平均8.22%となりました。
インスリンポンプは有効?
1型糖尿病に対するインスリンポンプ治療による経過の報告を紹介しました。1日4回以上の自己注射を続けるよりもインスリンポンプがいくつかの面で優れた結果となりました。
ただしこの研究は、治療法を研究者がランダムに割り当てる方法を取っていないため、何らかの想定外の要因により結果が影響されている可能性も否定できません。とはいえインスリンポンプを使ってもよいと考える方向のデータが得られたと言えるでしょう。
インスリンポンプは日本でも使用可能になっています。実際に使った結果が検証されていくことで、よりひとりひとりに合った治療法を選ぶための情報とすることができます。
執筆者
Association of Insulin Pump Therapy vs Insulin Injection Therapy With Severe Hypoglycemia, Ketoacidosis, and Glycemic Control Among Children, Adolescents, and Young Adults With Type 1 Diabetes.
JAMA. 2017 Oct 10.
[PMID: 29049584]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。