2017.07.19 | ニュース

乳がんそっくり、手術するまで区別できなかった「結節性筋膜炎」とは

旭川医大から症例報告
from Journal of medical case reports
乳がんそっくり、手術するまで区別できなかった「結節性筋膜炎」とはの写真
(C) naka - Fotolia.com

乳房に硬く触れるものがあれば乳がんも考えられますが、違うもののこともあります。まれな例として結節性筋膜炎が見つかった人の例が報告されました。

旭川医科大学病院の研究班が、乳房にできた結節性筋膜炎が乳がんに似て見えた88歳女性の例を、専門誌『Journal of Medical Case Reports』に報告しました。

この女性は、右乳房のしこり(塊)に1か月前に気付き、ほかの病気で通院中だった旭川医科大学病院に相談しました。

以前に左乳房の乳がんを診断されたことがあり、手術後12年経っていました。

 

診察では右乳房の下外側に、大きさ20mmでやや動かしにくく、弾性があって硬い塊がありました。乳がんは腋窩(脇の下)のリンパ節転移しやすい特徴がありますが、腋窩リンパ節転移は見つかりませんでした。

乳房にけがをした様子はありませんでした。

マンモグラフィーを撮影したところ、高濃度で(白く写る)、丸く、細かい溝で分かれた塊が見つかりました。さらに超音波検査では、大きさ18.1mm×16.2mm×14.4mmで丸く、低エコーの(黒く写る)塊がありました。

画像検査では、乳がんか、別のものかを判断することができませんでした

 

診断のため、さらに針生検が行われました。生検とは針などを使って体の組織を一部取り出し、顕微鏡で観察するなどの方法で組織を直接調べる検査のことです。

針生検では、細胞が増殖していると疑われる様子などが観察されましたが、まだ乳がんかどうかを確定できませんでした。

がんの可能性を否定できないため、手術で塊の全体を取り出して生検が行われました。

取り出した塊は周りの脂肪組織と境界がはっきりしていました。がんの特徴らしいものは見つかりませんでした。細胞が持っているタンパク質の検査や、顕微鏡などで観察された特徴から、結節性筋膜炎と診断されました

手術後12か月経った時点で再発はありませんでした

 

結節性筋膜炎は、皮膚の下の組織から発生するもので、塊を作りますが良性です。結節性筋膜炎は体のどこにでもできます。乳房にできることはまれですが、その場合はしだいに大きくなることや診察・画像検査での特徴が乳がんに似ています。

手術で取り除けば同じ場所に再発した例は報告されていません。

 

乳房の結節性筋膜炎が乳がんと似て見えた人の例を紹介しました。

この人はまれな例ですが、一般に乳房のしこりとして感じられるものは乳がん以外にもあります。

上の例のほとんどは良性です。つまり、周りに広がったり転移したりすることがなく、死因になることもありません。ただし葉状腫瘍はまれに転移します。

乳がんとそれ以外を見分けるのは簡単ではありません。見た目や触った感じで乳がんに現れやすい特徴などはありますが、どれも単独で診断の根拠とすることはできません。

乳がんかどうかを知るには医療機関で診察や検査をする必要があります。乳がんは適切に治療すれば比較的長期生存を期待しやすいがんです。日本の統計で、ステージIIで発見されても5年生存率は90%を超えるとされています。

乳房のしこりに気付くと怖くなって人にも相談しにくく感じるかもしれません。しかし診断にも治療にもまずは医療機関で相談すれば、次にできることがわかってきます。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Nodular fasciitis of the breast clinically resembling breast cancer in an elderly woman: a case report.

J Med Case Rep. 2017 Mar 3.

[PMID: 28253912]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。