骨粗鬆症に女性ホルモンは使わないほうがいい?米国内科学会の推奨

骨がもろくなる骨粗鬆症の治療薬として、ビスホスホネート製剤やデノスマブなどがあります。ただし、誰にでも使うべきとは言えません。米国内科学会が、最近の研究結果も反映して、骨粗鬆症の治療に関わる推奨を更新しました。
米国内科学会による骨密度低下・骨粗鬆症のガイドライン更新
米国内科学会(ACP)が、骨密度低下または骨粗鬆症(こつそしょうしょう)がある男女で骨折予防のために行う治療のガイドラインをまとめ、医学誌『Annals of Internal Medicine』に掲載しました。
2008年にも同様のガイドラインが作られていましたが、最近の研究結果も含めて改めて文献の調査が行われ、ガイドラインの内容は更新されました。
骨粗鬆症の治療薬には何がある?
このガイドラインでは、状況に応じて以下の薬を使うことが勧められています。商品名の例として日本で使用可能なものをあわせて記します。
- ビスホスホネート製剤
- アレンドロン酸(商品名ボナロン®、フォサマック®、テイロック®など)
- リセドロン酸(商品名アクトネル®、ベネット®など)
- ゾレドロン酸(商品名リクラスト®など)
- デノスマブ(商品名プラリア®など)
ビスホスホネート製剤の多くは飲み薬ですが、注射する薬もあります。用法は「毎日飲む」「1年1回点滴する」などさまざまです。
デノスマブ製剤のプラリア®は6か月ごとに注射します。
治療中に骨密度は計らない、女性ホルモンは使わない
ガイドライン委員会が編成され、文献の調査を行いました。それぞれの治療の効果や副作用などについて見つかった研究報告をまとめ、以下の推奨が決められました。
- ACPは臨床医に、骨粗鬆症が見つかっている女性で股関節骨折および椎体骨折を減らすために、アレンドロン酸、リセドロン酸、ゾレドロン酸、デノスマブによる薬物治療を提案することを勧める。
- ACPは臨床医に、骨粗鬆症のある女性を薬物療法で5年間治療することを勧める。
- ACPは臨床医に、臨床的に認識された骨粗鬆症がある男性にビスホスホネートによる薬物治療を提案することを勧める。
- ACPは、女性の骨粗鬆症に対する5年の薬物治療期間に、骨密度のモニタリングを行わないことを勧める。
- ACPは、女性の骨粗鬆症に対する治療として、閉経時のエストロゲン療法または閉経時のエストロゲン+プロゲストーゲン療法またはラロキシフェンを使わないことを勧める。
- ACPは臨床医に、65歳以上で骨量減少があり骨折のリスクが高い女性を治療するかどうかを、患者の好み、骨折のリスクのプロファイル、また薬剤の利益、害、コストについての議論に基づいて決定することを勧める。
大まかに言い換えると次のような内容です。
- 骨粗鬆症が見つかっている女性にはビスホスホネート製剤またはデノスマブによる治療が勧められる。
- 骨粗鬆症のある女性の薬物療法は5年間とする。
- 骨粗鬆症がある男性にはビスホスホネート製剤による治療が勧められる。
- 骨粗鬆症がある女性の5年の治療中には継続的に骨密度を計測しないほうがよい。
- 閉経後で骨粗鬆症がある女性には、女性ホルモンに関係する作用のあるエストロゲン療法、エストロゲン+プロゲストーゲン療法、ラロキシフェンは勧められない。
- 65歳以上で骨量減少があり骨折のリスクが高い女性には、個人ごとの要素を考えて慎重に判断する。
それぞれの推奨は文献から見つかったデータを根拠としています。
ビスホスホネート製剤とデノスマブには骨粗鬆症のある女性で骨折を防ぐ効果が示されていました。
効果を試す研究の期間は5年としたものが多かったことから、このガイドラインでは治療が勧められる期間も5年とし、5年時点で効果と副作用のリスクを再び見積もって継続してもよいとしています。
男性に対してもビスホスホネート製剤の効果は示されていました。
治療中には骨密度を計っても効果が増したという証拠がないこと、骨密度が変わっていなくても骨折が減ったという証拠があることから、骨密度は継続的に計らないことを勧めています。
閉経後のホルモンバランスの変化を補うために女性ホルモンを補充する治療がありますが、骨粗鬆症がある女性での骨折予防としては効果が示されていないこと、また血栓症などの深刻な副作用の可能性があることから、勧められないとしています。女性ホルモンのエストロゲンと似た働きを持つラロキシフェンも、血栓症などの可能性がある一方、椎体骨折以外の骨折を防ぐ効果が示されていないことから、勧められないとしています。
骨粗鬆症の診断に至らない程度の骨量減少がある65歳以上の女性に対しては、骨折を防ぐ効果の証拠が弱いことから、個別判断を重視しています。
必要な人に必要な治療
骨粗鬆症や骨量減少の治療についてのガイドラインを紹介しました。
ガイドラインにもあるとおり、骨粗鬆症の治療は骨折を防ぐことが目的です。繰り返し骨密度を計って骨密度を目標にするようなやり方は、骨折を防ぐためには必要ないことがわかっています。
効果があるかないかとは別に、薬を使えば必ず副作用が出るリスクも伴います。エストロゲンやラロキシフェンが勧められないとされたように、効果と副作用のバランスを見て使うことも大切です。
ガイドラインは治療のための判断を助けます。いつもガイドラインを厳守しなければならないわけではありませんが、実際に試した結果がこのように要約されていることで、多くの医師と患者が事実をより的確に把握したうえで治療を考えるために役立ちます。
執筆者
Treatment of Low Bone Density or Osteoporosis to Prevent Fractures in Men and Women: A Clinical Practice Guideline Update from the American College of Physicians.
Ann Intern Med. 2017 May 9. [Epub ahead of print]
[PMID: 28492856]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。