骨粗しょう症治療は過剰医療なのか?

高齢者が転倒した場合などによく起こる股関節骨折は、歩けなくなるなど重大な問題につながることも多く、予防が目指されています。予防のため骨密度を測って、骨粗しょう症が見つかれば薬で治療する、という治療方針は現在普通に行われていますが、これまでの研究を概観し、骨粗しょう症治療の意義に根本から疑問を投げかける論文が、有名電子ジャーナル『BMJ』から公表されました。
◆骨粗しょう症より転倒が重要?
著者らは骨粗しょう症治療の意義を考えるうえで、1993年のCooperらの論文が
股関節骨折の主な原因として、2003年のStoneらの論文では股関節骨折のうち骨粗しょう症が原因と考えられるものは1/3に満たないとされていることを挙げたうえ、2000年のKanisらの論文、1996年のMarshallらの論文を参照して、骨折を増やす要因として「加齢の効果は骨密度の減少よりも11倍強い」と指摘しています。さらに、2007年のSievanenらの論文を参照して「転倒なしには骨がもろくなっていたとしても股関節骨折は起こらない」と述べています。
◆治療に効果はあったのか
次いで、著者らは骨粗しょう症の治療が実際に股関節骨折を防いでいたかどうかを議論しています。
著者らが2011年に発表したメタアナリシス(過去の研究データを検証し比較する研究)の結果をもとに計算すると、175人の女性をビスホスホネート(骨粗しょう症の主な治療薬)で3年間治療することによって1人の股関節骨折を防ぐことができたことになります。また、ヨーロッパで起こる股関節骨折のうち75%を超える例が75歳よりも高齢の人に起こっていると見られていますが、このメタアナリシスで扱った論文のうち、75歳よりも高齢の人に対してビスホスホネートが股関節骨折を防いだことを統計的に
2014年のCrillyらの報告では、カナダでの調査の結果、55歳を超える人に対して骨粗しょう症治療薬を処方する率は地域によって5倍の開きがあったにもかかわらず、股関節骨折の発生率には差が見られなかったとされています。
骨粗しょう症治療薬以外の股関節骨折予防について、著者らは2013年のEl-Khouryらのメタアナリシスで、転倒を防ぐ運動トレーニングが骨折のリスクを60%減らしたとされていることなどを挙げています。
著者らはこれらの議論を、「股関節骨折予防に対する現在主流のアプローチは、社会健康戦略として現実的でもなければ、費用対効果がよいともいえない」とまとめています。
この論文は過剰医療をテーマにしたシリーズの一部として掲載されています。股関節骨折だけで治療の意義を判断をしてよいのかなどここで示された議論の是非は置いても、一般に、効果があると信じて行われていた治療や予防が、後から調べてみると、期待したほどの効果をもたらしていなかったとわかることもあります。新しい情報を偏りなく取り入れ、信頼に足る情報を見分けて適切に行動に結び付けるリテラシーがますます重要になってきているのではないでしょうか。
執筆者
Overdiagnosis of bone fragility in the quest to prevent hip fracture.
BMJ. 2015 May 26
[PMID: 26013536] http://www.bmj.com/content/350/bmj.h2088※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。