2017.05.15 | ニュース

肺がんの手術、限局型小細胞がんには有効か?

文献の調査から
from The Cochrane database of systematic reviews
肺がんの手術、限局型小細胞がんには有効か?の写真
(C) Tobilander - Fotolia.com

肺がんの中でも小細胞がんは手術しにくい場合が多く、抗がん剤治療や放射線治療が重視されています。手術が勧められる場面は限られています。限局型小細胞がんに対する手術の効果を報告した研究の調査が行われました。

オーストラリアの研究班が、文献の調査により限局型(げんきょくがた)小細胞がんの手術の効果を調べ、『Cochrane Database of Systematic Reviews』に報告しました。

この研究は、文献データベースを検索して関係する研究報告を集め、過去に報告されている内容をまとめたものです。最も新しいもので2017年1月11日までが調査範囲とされました。

調査対象は、成人の限局型小細胞がん患者で手術と根治的放射線療法がどちらも可能と見られた人に対して、手術をするかどうかをランダムに分ける方法で効果を調べた研究としました。

限局型とは、がんの進行度を指す言葉です。比較的進行していないものを限局型、より進行しているものを進展型と呼んで区別します。肺小細胞がんの限局型の定義は若干意見の相違があります。実際に手術できるかどうかはさらに詳しい基準で判断されます。

効果の基準として、全生存期間が伸びたかどうか、また治療が原因となった可能性のある死亡例を評価しました。

 

調査により3件の研究が見つかりました。

研究の内容として、がんの分類のしかたや手術方法が現在行われているものとは違い、結果が現在には当てはまらない可能性もあると見られました。20年以上前の研究が含まれていました。

また手術するかどうかを比べたという共通点はあるものの、互いに違う要素が多く、結果を統合することはできないと判断されました。

次の結果が報告されていました。

1件の研究の報告では、全生存期間の平均が手術群で199日であり、対して放射線療法群では300日だった(P=0.04)。

1件の研究の報告では、2年時点で手術群の全生存率が4%、対して放射線療法群では10%だった。逆に、1件の研究の報告では、2年時点の全生存率が手術群で52%、放射線療法群で18%だった。しかし、この差は統計的に有意ではなかった(P=0.12)。

1件の研究の報告では、術後早期の死亡率は手術群で7%、対して放射線療法群では0%だった。

手術をしないほうが全生存期間の平均が長かったとする報告がある一方で、偶然の可能性も否定できないものの手術のほうが生存率が高かったとする報告もありました。

1件の研究によれば、手術をしたグループでは術後早期に7%が死亡したのに対して、手術せず放射線療法を行ったグループでは治療後早期の死亡は0%でした。

研究班は「[...]現在参照できる証拠からは、限局型肺小細胞がんの管理において外科的切除の役割は支持されない。ただし、この結論は手に入る証拠の質[が低いこと]によって、また現代のデータが欠けていることによって限定されている」と結論しています。

 

限局型小細胞がんに対して手術を支持しないという研究結果を紹介しました。

ただし、見つかったデータにも報告によってかなりの幅がありました。

また結論にあるとおり、現代は手術を行うべき基準や手術にともなう治療が経験をもとに改善されている可能性があり、現代の条件では結果が変わることも考えられます。手術には患者の個別の要素に左右される部分も大きく、画一的な基準を決めて評価するのが簡単ではありません。

過去の研究からは弱い証拠しか得られないことがわかったという点も大切です。

実際には小細胞がんに対して手術を勧められる場面もあります。それは過去の知識を無視しているのではなく、ここで紹介した以外の多くの知見から判断されたことと考えられます。主治医の説明についてわからない点があれば十分質問して理解することがまずは大切です。

手術をするかどうかの判断は複雑です。ほかに多くの要素が影響することを考えに入れたうえ、適切に位置付けることで「手術を支持しない」という研究結果を判断の役に立てることができます。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Surgery for limited-stage small-cell lung cancer.

Cochrane Database Syst Rev. 2017 Apr 21.

[PMID: 28429473]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。