パーキンソン病とパーキンソニズム
パーキンソン病は脳の中のドパミン神経細胞が減少することで起こります。ドパミン神経細胞が減少すると脳の中のドパミンも少なくなります。ドパミンは身体をスムーズに動かすために重要な役割を果たしているので減少すると身体の動きが硬くなるなどの症状が現れます。
- 振戦(手足の震え)
- 無動(身体の動かしにくさ)
- 固縮(歯車のようなカクカクした抵抗感)
- 姿勢反射障害(バランスのとりにくさ)
これらの症状はパーキンソン病に特徴的なものでパーキンソニズムと言います。
パーキンソン病は時間をかけて進行することが知られていて、症状が重症化すると生活に影響が出ます。病気の進行を遅らせるための薬物治療やリハビリテーションが行われます。
パーキンソン病の症状や治療についての詳細は、「パーキンソン病の症状」、「パーキンソン病の治療」リハビリテーションの詳細は、「パーキンソン病はリハビリするとどんな良いことがあるの?運動や体操の方法を解説」を参照して下さい。
パーキンソン病とパーキンソン症候群の違い
パーキンソン症候群とは、パーキンソン病と同じような症状を示す病気のことです。パーキンソン病はドパミン神経細胞が減少することが原因ですが、パーキンソン症候群は、薬の副作用や脳血管の病気、脳炎などが主な原因です。パーキンソン病とパーキンソン症候群はどのように見分けるのでしょうか。まずパーキンソン病の診断基準をお見せします。
厚生省特定疾患・神経変性疾患調査研究班が示したパーキンソン病の診断基準は、以下の通りです。
次の1~5のすべてを満たすものをパーキンソン病と診断する.
1. 経過は進行性である.
2. 自覚症状で以下のうちいずれか一つ以上がみられる.
A:安静時のふるえ(四肢または顎に目立つ)
B:動作がのろく拙劣
C:歩行がのろく拙劣
3. 神経所見で以下のうち,いずれか一つ以上がみられる.
A:毎秒4~6回の安静時振戦
B:無動・寡動(仮面様顔貌,低く単調な話し方,動作の緩徐・拙劣,姿勢変換 の拙劣)
C:歯車現象を伴う筋固縮
D:姿勢・歩行障害:前傾姿勢(歩行時に手の振りが欠如,突進現象,小刻み歩 行,立ち直り反射障害)
4. 抗パーキンソン病薬による治療で,自覚症状・神経所見に明らかな改善がみられる.
5. 鑑別診断で以下のものが除外できる.
A:脳血管障害のもの
B:薬物性のもの
C:その他の脳変性疾患
これは、1)進行性であること、2)自覚症状があること、3)パーキンソン病の四大症状がみられること、4)パーキンソン病の薬で症状の改善がみられること、5)パーキンソン症候群の可能性が除外できることを満たした場合にパーキンソン病と診断されることを示しています。
反対の見方をするとこの条件に1つでも当てはまらない場合、パーキンソニズムの原因はパーキンソン病ではなくパーキンソン症候群の可能性があるということもできます。
パーキンソン症候群の原因と特徴
パーキンソン症候群は原因によっていくつかに分類されます。今回は、その中で広く知られている薬剤性パーキンソン症候群と脳血管性パーキンソン症候群、脳炎後パーキンソン症候群について解説します。
薬剤性パーキンソン症候群
薬の副作用で、体内のドパミンが不足し、パーキンソニズムが現れるものを薬剤性パーキンソン症候群といいます。一般的なパーキンソン病と比較した薬剤性パーキンソン症候群の特徴を以下に示します。
- 進行がはやい
- 突進現象が少ない
- 左右差は少なく、対称性のことが多い
- 姿勢時・動作時振戦が出現しやすい
- ジスキネジアやアカシジアを伴うことが多い
- パーキンソン病の薬の効果が少ない
薬剤性パーキンソン症候群の原因になる薬は以下のものが知られています。
- 抗精神病薬
- 抗うつ薬
- 消化性潰瘍用薬
「高齢」、「飲んでいる薬の量が多い」、「女性」に薬剤性パーキンソン症候群は多いとされています。
脳血管性パーキンソン症候群
神経伝達物質であるドパミンを受けとる脳が障害されることで、伝達がうまくできなくなり、パーキンソニズムが現れる病気を脳血管性パーキンソン症候群と言います。脳の大脳基底核(被殻、淡蒼球外節、尾状核)や視床と呼ばれる部分の障害が原因として多いと言われています。
パーキンソン病と比較した脳血管性パーキンソン症候群の特徴を以下に示します。
- 高齢者(70歳以上)に多い
- ある一定の姿勢をとったときに振戦がみられる(姿勢時振戦)
- 歩幅が広く緩慢で、足を横に広げたような歩き方をする
- 下肢の症状が強くみられる
- パーキンソン病の薬の効果が少ない
とはいえパーキンソン病と脳血管性パーキンソン症候群を見分けるには、この特徴だけでは判断できません。診察や検査結果などを総合的に判断して診断を行います。
脳炎後パーキンソン症候群
脳炎とは、ウイルスが脳内に感染する病気です。脳炎は、発熱や頭痛など様々な症状現れますが、脳炎にかかった後に、パーキンソニズムがみられることがあります。今回は、日本脳炎でみられるパーキンソニズムについて紹介します。
日本脳炎にかかった後、数ヶ月から数十年で見られることが知られています。
パーキンソン病と比べて、以下の特徴があります。
- 不眠や便秘など、自律神経症状が強くみられる
- 筋肉が硬くなりやすく、振戦は少ない
- ジストニー性運動障害(手足の意図しない運動や姿勢の崩れがおこる障害)
以上、比較的広く知られているパーキンソン症候群についてご紹介しました。
◆まとめ
パーキンソニズムは、神経の情報を伝達するドパミンがうまく働かないことで現れます。
パーキンソン病はドパミン神経細胞が減少することが原因ですが、脳血管の病気や薬剤の影響でこの経路になんらかの障害がみられた場合にも、パーキンソニズムが現れることがあります。このケースはパーキンソン症候群といいます。パーキンソニズムの原因がパーキンソン病なのかパーキンソン症候群なのかで治療法が変わります。このため原因をしっかりと調べて診断を行うことが大切です。同じような症状が現れるパーキンソン病とパーキンソン症候群ですが、2つには大きな違いがあります。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。