2016.03.29 | コラム

【救急医が解説】吐血を起こす病気って?血を吐いたときに考えること

吐血の原因や対処法、受診すべき診療科を紹介

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吐血は、とてもインパクトの強い症状です。テレビドラマや映画でも重要な役柄の人が血を吐くシーンをしばしば目にします。吐血とは、そんなに重度の症状なのでしょうか?危険な吐血と、そうでない吐血とは、どのようなものなのでしょうか?

◆「血を吐く」:吐血と喀血(かっけつ)の違い

口から入った食べ物や空気が向かう先には胃と肺があります。それと同じように口から出てくる血液には、肺からのものと胃からのものがあります。この二者は似て非なるもので、呼吸器(肺や気管支)からの出血を「喀血」、消化器(食道や胃、十二指腸)からの出血を「吐血」と言います

昔の映画などに見られる、血を吐くことで暗に死期が迫っていることを示す演出は、おそらく肺結核が原因の喀血に由来しているのでしょう。結核は戦前から昭和にかけて今よりも多くの患者さんがいましたし、当時は効果的な薬も限られていました。結核の診断精度が上がり抗生物質も進化した現代では、新たに結核にかかって亡くなる方はかなり減ってきています。

喀血には肺結核以外にも、肺炎や気管支炎、肺の腫瘍など様々な原因があります。せきのし過ぎで痰に血がにじむこともあるでしょう。痰に血がにじんだこと自体に過敏に反応する必要はありませんが、もしその時点で受診がまだであれば一度診察を受けることをお勧めします。

 

◆吐血を引き起こす代表的な病気

吐血の原因となる代表的な病気は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍です。若い人にも少なくない病気で、不眠やストレス、痛み止めを長期間飲み続けることなどが原因として挙げられます。

胃から出血して溜まった血液は、胃酸と混ざって褐色や黒色に変化します。したがって、胃潰瘍や十二指腸潰瘍が原因の吐血は、真っ赤な血液ではなく真っ黒〜こげ茶色をしていることが多いです。褐色と言っても、コーヒーの粉末のようにかなり濃くて黒に近い褐色です。

軽症の潰瘍であれば病院で処方されるような胃薬を飲み続けることで改善も期待できますが、吐血がある場合には胃カメラでの検査と治療を行います。

同じく吐血を起こす病気としては、マロリーワイス症候群というものがあります。急性アルコール中毒や胃腸炎が原因で何度も嘔吐を繰り返しているうちに、食道の粘膜が傷ついて出血するというものです。真っ赤で大量の血液を吐いてしまうことがあり不安になる病気ですが、ほとんどは治療を必要とせず、自然と止血されるのを待つことになります。元々体に異常があるというわけではなく、嘔吐のし過ぎで粘膜が切れてしまうというものですので、仕組みとしては便で直腸の粘膜が傷ついてしまう切れ痔(裂肛)と似たような病気と言えるかもしれません。

 

◆血を吐いた場合の対処法

ご自身、または周囲の方が血を吐いた場合には、慌てることなく落ち着いて病院を受診して下さい。血を吐いたからといって、それだけですぐに命に関わることはほとんどありません。ティッシュで受け止められる程度の血液量で、その他に体調不良がなければ、ご自身で病院を探して受診されるのも良いでしょう。それを越えて周囲に血液が広がるくらいの吐血がある場合には、救急車での受診を検討して下さい。

若い方の飲酒後の吐血は、大部分がマロリーワイス症候群で結果的に治療は不要な場合が多いのですが、重症の病気と見分けて正しい対処法を判断するのも医療機関の役目の一つですので、受診をためらう必要はありません。嘔吐と一緒に血液を吐くような吐血は消化器内科、痰に血が混ざったり、せきと一緒に血を吐くような喀血は呼吸器内科を受診されると、その後の治療がスムーズに受けられるので、もし余裕があればご参考になさってください。

執筆者

沖山 翔

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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