2016.02.05 | コラム

認知症の症状に効果が期待できる漢方薬(抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、釣藤散 など)に関して

認知症
認知症の症状に効果が期待できる漢方薬(抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、釣藤散 など)に関しての写真
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この記事のポイント

1.認知症の症状と治療薬に関して
2.漢方薬による治療の考え方 
3.抑肝散(ヨクカンサン)
4.抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)
5.釣藤散(チョウトウサン)
6.当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
7.黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)

超高齢化社会へと進む日本において、認知症は国を象徴する病気の一つと言えます。近年、ドネペジル塩酸塩(主な商品名:アリセプト)に続く認知症治療薬も開発され、治療の選択肢は広がってきています。しかし認知症を根本的に治療する薬はまだありません。そんな中、注目を集めているのが抑肝散や釣藤散などの漢方薬を用いた認知症の症状改善です。ここでは認知症に効果が期待できる漢方薬に関して解説します。

◆ 認知症の症状と治療薬に関して

認知症における症状は大きく以下の2つに分けられます。

  • 中核症状:認知機能障害(記憶障害、見当識障害、計算力障害、記銘力障害など)
  • 周辺症状:過活動性症状(夜間せん妄、幻覚、妄想、不安、焦燥、攻撃的行動、徘徊など)や低活動性症状(意欲低下、自発性低下、抑うつなど)

中核症状は、もの忘れ、判断力の低下、時間や場所の見当がつかないなどの認知症患者にほぼ共通しておこる症状です。治療薬(特にアルツハイマー型認知症の中核症状の治療薬)としては、コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬などの薬が中心となります。

認知症の治療で使用されるコリンエステラーゼ阻害薬には、ドネペジル塩酸塩(主な商品名:アリセプト®)、ガランタミン臭化水素酸塩(商品名:レミニール®)、リバスチグミン(商品名:イクセロン®、リバスタッチ®)があり、NMDA受容体拮抗薬にはメマンチン塩酸塩(商品名:メマリー®)があります。これらの薬剤により主に中核症状の改善が期待できるのですが、症状の悪化を遅らせるに留まり根本的治療には至らないのが現状です。(アリセプト®アルツハイマー型認知症の他、レビー小体型認知症への効果が確認されています)

一方で周辺症状(行動・心理症状)は、中核症状に伴っておこる反応性の症状であり、幻覚、妄想、睡眠障害、介護への抵抗、抑うつ状態などがありどの起こるかには個人差があります。周辺症状への薬物治療としては通常、過活動性症状に対しての抗精神病薬、低活動性症状に対しての抗うつ薬などといった精神神経系へ作用する薬が使用されています。認知症患者の多くは高齢者ということもあり、これら精神神経系の薬の服用量は比較的少ない量で使用される(又は少ない量から開始される)ことが一般的です。しかし、これらの薬の多くは眠気、ふらつきなどの副作用を併せ持つ薬剤であり、日常生活における転倒、骨折などの危険が伴い、これが高齢者にとっていかに危険であるかは改めて強調するまでもないでしょう。

このように認知症の薬物治療では、効果が不十分であったり、薬を服用することで転倒などの別の危険性が高くなったりするなど、いくつかの問題を抱えていることがあります。そこで最近注目を集めているのが漢方薬による治療です。

 

◆漢方薬による治療の考え方 

考えこむ看護師と医者のイメージ

少し極端な説明になりますが、西洋薬は熱が出たら解熱薬、咳が出たら咳止め薬というように身体に起こっている症状をある程度「点」で捉え治療するのに対して、漢方薬は起こっている症状を身体全体で捉え、体質などに合わせて薬を決定するという治療です(漢方医学では患者個々の体質・症状などを「(しょう)」という言葉であらわします)。認知症患者の「証」に対して適する漢方薬を用いることで西洋薬で効果が不十分であった症状の改善する可能性もあるのです。次の項目では実際に使われている漢方薬と効果が期待できる認知症の症状などに関して解説します。

 

◆ 抑肝散(ヨクカンサン)とは?

抑肝散の元々の効能・効果は神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症です。

この漢方薬が推奨とされる証(体質・症状など)は、体力中等度の人で神経過敏で興奮しやすく、怒りやすい、イライラする、眠れないなどの精神神経症状を訴える場合に適するとされます。

抑肝散の名称にある「肝」は「怒り」などをあらわす言葉で「怒りを抑える薬=抑肝散」という名前の由来があります。神経症や不眠症でおこる症状の不眠、イライラ、落ち着きがないなどは認知症にも通ずる症状であり、認知症の症状の中でも特に周辺症状(BPSD)に効果が期待できるとされています。抑肝散を研究している方などの言葉を借りるなら「人格が丸くなる薬」とのことです。

漢方薬の作用には未知の部分が多いのですが、近年ではエビデンス(科学的根拠)に関する研究も行われ徐々に解明されてきています。特に抑肝散においては周辺症状に関連するとされる脳内における神経伝達物質であるセロトニンの機能低下に対する改善作用などが明らかになってきています。また神経活動の興奮抑制に関わるセロトニンへの作用や興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸への作用が明らかにされてきています。

抑肝散の服用にあたり注意する副作用としては効果として興奮などを抑える反面、過度に鎮静(過鎮静)することによって日中の眠気、ふらつきなどがおこる可能性があることです。ただその場合でも(処方医との相談の上)服用量の調節などを行うことで多くは解消できるとされています。また構成生薬として甘草(カンゾウ)を含むため偽アルドステロン症という症状があらわれる場合があります。手足のだるさ、しびれ、つっぱり感などが代表的な症状ですが、おこることは非常に稀とされています。ただし、甘草の主成分であるグリチルリチンという成分を含む製剤(商品例:グリチロン® など)を併用している場合はより注意が必要です。

ちなみに抑肝散は市販薬としても販売されています。そのままの名前で販売されている製剤もありますが、「アロパノール」などの製剤名で販売されている場合もあります。

 

◆抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)

陳皮

その名の通り、抑肝散に生薬の陳皮(チンピ)と半夏(ハンゲ)を加えた漢方薬です。陳皮の効果としては健胃、駆風(胃や腸に溜まったガスを除き、腹痛などを和らげる作用)、去痰、鎮咳などが期待でき、半夏の効果としては鎮嘔、鎮吐、鎮咳、去痰などが期待できます。これらの生薬を加えることで抑肝散が適するような症状で、より体力が低下していて胃腸が弱いなどの証に適するとされています。

 

◆ 釣藤散(チョウトウサン)

元々は慢性的な頭痛や高血圧の傾向があるような人で、頭痛の他、肩こり、めまいなどを症状として訴える場合に使う漢方薬です。

「高血圧」という言葉からも血管系に対しての有効性が期待できるそうなイメージが湧きますが、これは本剤の薬効として血圧上昇抑制作用、脳血流量の保持作用(脳血流減少が抑制される)などがあることからもわかります。

構成生薬の中でも特に釣藤鈎(チョウトウコウ)は抑肝散にも含まれる生薬で、脳の細胞を保護する作用、睡眠を延長する作用、精神安定作用、学習記憶改善作用などがあるとされ、これらの作用により本剤はアルツハイマー型の認知症や脳血管性の認知症への効果が期待できるとされています。また量は少なめですが、構成生薬に甘草(カンゾウ)を含むため抑肝散同様、偽アルドステロン症などには注意が必要です。

 

◆ 当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)

元々は全身倦怠感、頭痛、めまい、肩こりなどを伴う更年期障害、月経不順、貧血など疲労しやすく冷えやすい症状で使用する漢方薬です。

認知症に対しては構成生薬の中の当帰(トウキ)や芍薬(シャクヤク)などが中心となり効果をあらわすとされています。当帰は抑肝散にも含まれている生薬で、血の巡りをよくする生薬であり、中枢を抑制する作用、降圧作用、末梢血管を拡張する作用などがあるとされています。芍薬には末梢血管の拡張作用や記憶学習障害の改善作用があるとされています。これらの作用によりは本剤は脳血管性の認知症の症状改善に効果が期待できるとされています。

 

◆ 黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)

元々は比較的体力があり(体力中等度もしくはそれ以上)で、のぼせ気味で顔色が赤く、精神不安、不眠、イライラなどの精神神経症状を訴えるような人に適するとされる漢方薬です。昔から「良薬口に苦し」とは言いますが、それを象徴するような漢方薬で苦味があります。しかし有効性は非常に高く、用途も胃炎、二日酔い、高血圧、不眠症、ノイローゼ、めまい、湿疹皮膚炎など様々です。

構成生薬の黄芩(オウゴン)、黄連(オウレン)、黄柏(オウバク)には血圧を下げる作用や中枢を抑制する作用などがあるとされ、これらの作用により本剤は脳血管性認知症の症状改善に効果が期待できるとされています。

 

その他、認知症の症状改善に使用される漢方薬は脳血管性認知症などへの桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、アルツハイマー型や脳血管性認知症への加味帰脾湯(カミキヒトウ)や加味温胆湯(カミウンタントウ)などがあります。認知症の症状は性格、環境など多くの要因によって影響を受け、人それぞれ様々です。現在、薬物治療の中心はアリセプト®などの薬剤ではありますが、症状を身体全体で捉え人それぞれの証に適した漢方薬を選択肢に加えることで、更なる改善効果が期待できると考えられています。

執筆者

MEDLEY編集部

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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