ドストエフスキーは発作のふりをしていた?

ロシアの文豪ドストエフスキーにはてんかん発作のような症状があったとされ、作中の人物にも『白痴』のムイシュキン公爵など、てんかんの描写があります。ドストエフスキーの病気について、これまでに出された説の概観が示されました。
◆てんかん発作には珍しい特徴
ドストエフスキーの家族や友人などの記録によれば、ドストエフスキーには突然興奮したり、うめき声を出したり、気を失って倒れたり、けいれんを起こすなどの
これらの症状はてんかんで起こりうるものですが、自身の発言によれば、発作の前に恍惚感があったということが、てんかんとしては極めてまれであると言われています。
◆発作のふりをしたことも?
フロイトの説では、ドストエフスキーの症状は正確にはてんかんではなく、父親の死に関係した精神的な原因による転換性障害の一種だったとされています。
しかしこれに対して否定的な説もあり、発作が始まったのは父親の死から何年もあとだという指摘がなされています。また、父親の死よりも前から症状があったとする説もあります。
てんかんと見る説には、家族に似た症状が報告されていることから、側頭葉てんかんのごく一部で見られる、遺伝が関係するタイプのものだったとするものがあります。
ほかにも、極めてまれな恍惚感の特徴から、この発作は「無意識の神話化」による錯覚のようなものだったのではないかとする説や、『カラマーゾフの兄弟』に登場するスメルジャコフがてんかん発作のふりをする描写があることから、ドストエフスキー自身も発作のふりをしたことがある可能性を指摘する説があります。
このまとめを報告した著者は、「ともかく、彼が何かの種類のてんかんのような問題に苦しんでいたことには、ほとんど疑いの余地がない」と述べる一方で、「意見はあまりに多く、あまりに多様で、あまりに混乱を招くものでありすぎる」としています。
ドストエフスキーの謎めいた症状は、いまだに議論の対象とされ、確実な説明はついていません。こうした謎を解明することも、今後の研究がてんかんをより深く理解する上での課題のひとつになるかもしれません。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。