血糖値が高い人の方が脳腫瘍の経過が悪かった

膠芽腫は、現代の医療をもってしても5年生存率8%程度、半分以上の人が発見から1年以内に亡くなってしまうという、大変治療が難しい脳腫瘍です。一方で高血糖と言えば、動脈硬化を引き起こし、心臓、脳、腎臓、目、手足の神経など様々な部位に影響する全身の病気ですが、今まで脳腫瘍との関連は多くは議論されていませんでした。今回の研究では、血糖値が高い人は、膠芽腫の治療後の寿命が短かった、という結果が出ています。
◆膠芽腫の治療はどうして難しいのか
膠芽腫(こうがしゅ、グリオブラストーマ)は、脳にできる
また、脳腫瘍の影響により、周囲の脳はむくんでしまうことが知られていて、その
◆膠芽腫に対する化学放射線治療後の393人を解析
今回の研究では、テモゾロミドという
この後方視解析では、2004年から2011年まで化学放射線療法を行った膠芽腫の患者を集め、ランダムに誘導データセットと確認データセットに振り分けた。時間重量付き血糖値、時間重量付きデキサメサゾンの量を
放射線治療 の開始から4週間後まで集計した。時間重量付き血糖値やその他の予後因子と全生存期間の関係を単変量解析と多変量解析した。
以上のように、患者さんの血糖値、デキサメサゾン(ステロイド薬)の投与量、年齢、手術治療の程度、術前の活動度などの様々な要素を集めて、全生存期間との関係を比較しています。
◆より血糖値の高いグループでは寿命が短かった
結果は以下の通りでした。
誘導データセット(196人)の患者においては、全生存期間の中央値は15か月であり、時間重量付き血糖値の中央値は6.3mmol/L(114mg/dL)であった。時間重量付き血糖値が6.3mmol/L(114mg/dL)以下の患者の全生存期間は16か月、時間重量付き血糖値が6.3mmol/L(114mg/dL)より大きい患者の全生存期間は13か月であった。(P =0.03)[...]確認データセット(197人)の患者において、時間重量付き血糖値が6.3mmol/L(114mg/dL)以下であることは、全生存期間と
有意 に関連があった。(P =0.005)
以上のように、時間重量付き血糖値が114mg/dLより大きい患者さんでは、寿命が短いという結果が得られました。
実は、膠芽腫の腫瘍細胞は糖分を分解して栄養を得ており、膠芽腫の腫瘍細胞の周囲を低血糖にすると腫瘍細胞が死んでいく、というのは実験室での研究では既に知られていました。しかし、実際の患者さんでその傾向を示したことにこの論文の価値があります。
血糖値をうまくコントロールすることは、他にも様々なメリットがあり、代表的なものとしては、
しかし、腫瘍自体の遺伝子の特徴(タイプによって治りやすい腫瘍がある)についての解析がされていないこと、脳腫瘍の治療に必須であるステロイドが血糖値に与える影響を完全に除くのは難しいこと、などはこの論文に対する批判として挙がるでしょう。今後のさらなる研究に期待がかかります。
執筆者
Impact of glycemia on survival of glioblastoma patients treated with radiation and temozolomide.
J Neurooncol. 2015 May 27. [Epub ahead of print]
[PMID: 26015297] http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26015297※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。