分子標的薬(イピリムマブ〔ヒト型ヒトCTLA-4モノクローナル抗体〕)
リンパ球T細胞上に発現するCTLA-4に結合し、リンパ球T細胞への抑制的調節を遮断することやTreg(制御性T細胞:免疫機能による攻撃が過剰にならないように調節する働きをもつ)の機能低下などを引き起こすことで、腫瘍免疫反応を亢進させ抗腫瘍効果をあらわす薬
同義語:
免疫チェックポイント阻害薬

分子標的薬(イピリムマブ〔ヒト型ヒトCTLA-4モノクローナル抗体〕)の解説

分子標的薬(イピリムマブ〔ヒト型ヒトCTLA-4モノクローナル抗体〕)の効果と作用機序

  • がん細胞を攻撃するリンパ球T細胞の活性に対する抑制的調節を遮断することなどにより、がん細胞の増殖を抑える薬
    • がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
    • リンパ球T細胞上に発現するCTLA-4が抗原提示細胞上のCD80/CD86分子と結合すると、T細胞の活性化が抑えられ、がん細胞などへの攻撃が抑えられる
    • 本剤はCTLA-4とCD80/CD86の結合を阻害することで、T細胞の活性化を維持させることで抗腫瘍効果をあらわす
  • 本剤は免疫による攻撃が過剰にならないように調節するTreg(制御性T細胞)の機能を低下させる作用などもあらわす
  • 本剤はがん細胞の増殖などに関わる特定分子の情報伝達を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす分子標的薬となる

分子標的薬(イピリムマブ〔ヒト型ヒトCTLA-4モノクローナル抗体〕)の薬理作用

がん細胞は無秩序な増殖を繰り返し、正常な細胞を障害し転移を行うことで本来がんのかたまりがない組織でも増殖する。

通常、体内ではリンパ球のT細胞などにより、がん細胞などを異物として攻撃する免疫反応がおこる。しかし、がん細胞はリンパ球の活性化を抑える物質を作り出すこと、などによって免疫反応から回避する作用をあらわす。

体内で、がん細胞などが異物という情報をT細胞に伝えるのが抗原提示細胞となる。T細胞上に発現するCTLA-4(細胞障害性Tリンパ球抗原-4)という物質が抗原提示細胞上のCD80/CD86分子(B7.1及びB7.2分子)と結合すると、T細胞の活性が抑えられ、がん細胞などへの攻撃が抑えられる。またT細胞の一つにTreg(制御性T細胞)というものがあり、免疫機能による攻撃が過剰にならないように調節する働きがあるが、この細胞にもCTLA-4は発現している。

本剤はCTLA-4に結合する抗体であり、これによりCTLA-4とCD80/CD86の結合を阻害することで、活性化T細胞における抑制的調節を遮断し、腫瘍抗原特異的なT細胞の増殖及び活性化させることでがん細胞の増殖を抑制する。またTregのCTLA-4と結合することで、Tregの機能低下や腫瘍組織におけるTreg数の減少を引き起こすことで抗腫瘍効果をあらわすとされる。

イピリムマブは特定物質に結合する抗体として造られたモノクローナル抗体であり、がん細胞の増殖に関わる特定分子の情報伝達を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす分子標的薬となる。また、がん細胞に対する免疫細胞の攻撃を阻止しているブレーキ役の部分を免疫チェックポイントと表現することから、本剤は免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれることがある。

なお、イピリムマブ(商品名:ヤーボイ®)は、本剤とは異なる作用の仕組みによりPD-1という免疫チェックポイントを阻害するニボルマブ(商品名:オプジーボ®)との併用療法による臨床での効果も期待されていて、「根治切除不能な悪性黒色腫」に対するイピリムマブとニボルマブの併用療法、「根治切除不能又は転移性の腎細胞がん」に対するイピリムマブとニボルマブの併用療法、などが追加承認されている。

分子標的薬(イピリムマブ〔ヒト型ヒトCTLA-4モノクローナル抗体〕)の主な副作用や注意点

  • インフュージョンリアクション(薬剤投与による免疫反応などによりおこる有害事象)
    • 発熱、悪寒、掻痒症、発疹、高血圧、低血圧、呼吸困難などがあらわれる場合がある
  • 消化器症状
    • 下痢、吐き気、腹痛などがあらわれることがあり、場合によっては大腸炎や消化管穿孔などの重度な症状があらわれる可能性もある
  • 皮膚症状
    • 痒み、発疹、皮膚がむける、紅斑などがあらわれることがあり、頻度は稀だが過敏症などの重度な皮膚障害があらわれる可能性もある
  • 眼症状
    • 視野がぼやける、物が二重に見える、眼痛、異物感などがあらわれる場合がある
  • 精神神経系症状
    • 頭痛、味覚異常、しびれ、めまいなどがあらわれる場合がある
  • 肝機能障害
    • ALTやAST上昇などを伴う肝機能障害があらわれる場合がある
    • 倦怠感(いつもより疲れやすいなど)、食欲不振、発熱、黄疸発疹、吐き気・嘔吐、痒みなどがみられ症状が続く場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡する
  • 腎障害
    • むくみ、尿量の減少、一時的な尿量の増加、発疹、体のだるさなどがみられた場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡する
  • 間質性肺炎
    • 少し無理をしたりすると息切れがする・息苦しくなる、空咳が出る、発熱などがみられ、これらの症状が急にあらわれたり続いたりする
    • 上記のような症状がみられた場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡する

分子標的薬(イピリムマブ〔ヒト型ヒトCTLA-4モノクローナル抗体〕)の一般的な商品とその特徴

ヤーボイ