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発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)
赤血球が異常に破壊されてしまうことが原因で起こる血液の病気。尿の色調が赤褐色に変化することで病気に気づく人が多い
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最終更新: 2024.07.12
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の基礎知識
POINT 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)とは
発作性夜間ヘモグロビン尿症は、身体の免疫システムを担う補体という物質が自分の赤血球を攻撃して破壊してしまう病気です。重症化すると赤血球のみならず、白血球や血小板も減少していきます。さまざまな症状が見られますが、一番目立つ症状は尿の色調の変化(コーラのような色)ですので、コーラのような色の尿が続く人は医療機関を受診するようにしてください。 治療は状況に応じていろいろなものが選択肢にあがります。症状に思い当たる節がある人は、血液内科や総合内科に相談するようにしてください。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)について
赤血球 が通常の寿命よりも早く壊されてしまうために貧血が起こる- 壊れた赤血球(溶血)の影響で尿が赤褐色(コーラ色)に変化する
- 溶血は夜間睡眠中に特に活発に起こる
感染症 を患うと尿の変色が目立つようになる
- グリコシルホスファチジルイノシトール(Glycosyl Phosphatidylinositol: GPI)という物質を作るのに必要な遺伝子(PIGA遺伝子)が変異していることが原因
- 結果として赤血球の表面に本来あるはずのタンパク質が存在しないことによって、赤血球が
免疫 システムの一翼を担う物質の1つである補体 の攻撃を受けるようになる - 補体にはいくつか種類があり、C3とC5が関係していると考えられている
- 遺伝子変異が原因の病気だが、親から子に遺伝するわけではない
- 感染症で尿の変色が強くなるのは補体が活性化することによる
- 結果として赤血球の表面に本来あるはずのタンパク質が存在しないことによって、赤血球が
- 徐々に進行していくことが多いが、自然
治癒 することもある - 100万人あたり1.2人の
罹患率 と考えられている- 推定患者数は430人ほど
- 男女差はない
- 子供にも
発症 するが20-60歳代に患者が多い
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の症状
見られやすい症状は次のように大別できる
赤血球 が壊れ、ヘモグロビン が放出されることによる症状- 尿のコーラ色への変化(ヘモグロビン尿):血液中に放出されたヘモグロビンが尿中に排泄されるため
- 飲み込みづらさ:溶血によって血液中に放出されたヘモグロビンが一酸化窒素を吸収してしまうため筋肉が異常に収縮すると考えられている
- 胸部や腹部の痛み:溶血によって血液中に放出されたヘモグロビンが一酸化窒素を吸収してしまうため、筋肉が異常に収縮すると考えられている
- 勃起不全:溶血によって血液中に放出されたヘモグロビンが一酸化窒素を吸収してしまうことの影響と考えられている
- 赤血球の減少(貧血)による症状
- 息切れ
動悸 - めまい
- 疲れやすさ など
白血球 の減少による症状- 発熱
倦怠感 など
血小板 の減少による症状- あざ
- 歯ぐきからの出血 など
- 血管に
血栓 が詰まること(血栓症 )によって起こる症状- 足の痛み:足の静脈が詰まることによる
- 足の
むくみ :足の静脈が詰まることによる - 息切れ:肺の動脈が詰まることによる
- 胸痛:肺の動脈が詰まることによる
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の検査・診断
PNHが疑われた場合にはまずは次の検査が行われる
- 血算
白血球 数や赤血球 数、血小板 数の減少を確認する
- 血液生化学
- 間接
ビリルビン やLDH の上昇を確認する - ハプトグロビンの減少を確認する
- 間接
- 尿検査
- 尿中
ヘモグロビン や尿中ヘモジデリンの陽性を確認する
- 尿中
骨髄穿刺 、骨髄 生検 - 骨髄赤芽球の増加を確認する
- 骨髄自体は過形成(過剰に増殖している)のことが多いが、
低形成 (萎縮 して減っている)もあり得る
- Ham(ハム)試験
- 赤血球が
補体 によって影響を受けやすくなっている場合に陽性となる
- 赤血球が
- 砂糖水試験
- Ham試験と同様に、赤血球が補体によって影響を受けやすくなっている場合に陽性となる
- 直接クームス試験
- 自己免疫性溶血性貧血などの他の溶血性貧血の可能性を除外する
- 血算
Ham試験、砂糖水試験ともにPNHの診断のため以前から行われてきた検査であるが、最近はフローサイトメトリーにより診断が行われることが多い
- フローサイトメトリー
- PNHに特徴的な血球(GPIアンカー型膜タンパクの欠損血球)を検出する
- 確定診断以外にも、治療中の人が1年に一度検査を受けることが推奨されている
- フローサイトメトリー
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療法
免疫 抑制剤で補体 の赤血球 への攻撃を抑える治療- エクリズマブ
- クロバリマブ
- ラズリズマブ
- C5という補体の活性を抑えることで溶血を防ぐ
- 頭痛や鼻咽頭炎、吐き気などの副作用が見られることが多い
- ペグセタコプラン
- C3を抑える2023年に発売された薬で、エクリズマブやラズリズマブの効果が乏しい人などに使われる
- ダニコパン
- D因子という補体因子の活性を抑える2024年に発売された薬で、エクリズマブやラズリズマブの効果が乏しいときにそれらの薬と併用して使われる
- イプタコパン
-補体B因子に作用してC3転換
酵素 を抑制する2024年に発売された薬で、他の薬剤で効果が乏しい時使われる 副腎皮質ステロイド - 溶血を抑える効果が期待できる一方で、
感染症 のリスクが高まるので予防に努める必要がある
- 溶血を抑える効果が期待できる一方で、
- 症状を緩和する治療
- 赤血球、
血小板 の補充- 輸血
- 腎障害の予防
- ハプトグロビン
血栓症 に対する治療- ヘパリン
- ワーファリン
- 赤血球、
- 根治を目指す治療
骨髄移植 - 異常な
骨髄 を正常な骨髄に置き換えることで根治が図れる - 家族や骨髄バンクに登録されているドナーから骨髄を提供してもらう
- 誰にでも行えるような治療ではないので、重症患者(重い症状を繰り返す、重い汎血球減少がある、エクリズマブで効果不十分な場合など)に対して行われる
- 異常な