中東呼吸器症候群(MERS)の基礎知識
POINT 中東呼吸器症候群(MERS)とは
マーズコロナウイルスが気管支や肺に感染する病気です。日本国内では発症しておらず、中東を中心に発症例が目立ちます。ラクダの唾液などの分泌液を介して人に感染すると考えられています。非常に重症になり、命を落とすこともある病気なので注意が必要です。もともと持病があったり免疫不全のある人は、感染しやすく重症にもなりやすいので流行地域を旅行する場合には特に注意が必要です。主な症状は、発熱・悪寒・咳・息切れ・嘔吐・下痢などです。 特殊な血液検査で診断し、画像検査を用いて感染の程度を推測します。治療に特効薬はなく、症状を和らげる治療(対症療法)を行います。MERSが心配な人や治療したい人は、感染症内科や呼吸器内科を受診して下さい。
中東呼吸器症候群(MERS)について
- マーズ
コロナウイルス による気管支 、肺の感染症 - 2012年9月に中東(サウジアラビア)で始めて報告され、その後世界各地へ感染が拡大した
発症 患者は、中東へ旅行した人や、その人の周囲で感染した人である- 中東のラクダで、人に感染しているのと同種類のマーズコロナウイルスが検出されており、また感染者の中にはラクダの生乳を摂取した人がいるなどの間接的証拠から、ラクダが感染源の一つである可能性が考えられている
- 感染の広がり方
- 現時点では詳細な感染経路は明らかになっていない
ウイルス に感染をしても、症状 を発症しない場合がある(潜伏感染 )
- 糖尿病、各種
がん 、COPD、腎疾患のある人はMERSにかかりやすく、また症状が悪化しやすいと言われている 潜伏期間 は2-14日間で、多くが5-6日間である- 旅行前の対策
- 旅行中の対策
- 石鹸と水でしっかり手洗いする
- 手指消毒薬を使用する
- 食べ物はしっかり加熱する
- 不衛生な場所で飲食しない
- 食物は食べる前にしっかりと洗う
- 農場や野生の動物の接触を避ける(特に、感染源の可能性の高いラクダとの接触は避ける)
- 流行地域への旅行後に咳や発熱など症状が現れた場合
- 流行地域から帰国時に発熱や咳などの症状がある場合には、念のために医療機関に相談する
- 受診時に渡航先を必ず伝えるようにする
- 周囲の人との接触は控える
- 咳やくしゃみをする際は手で覆わないようにする
- 使い捨てのティッシュを使用し、使用後は捨てる
- ティッシュがない場合は衣類の端を使用して、必ず洗濯する
- 病院での院内感染が原因となる場合が多いため、日常生活に支障がない場合は自宅療養する
- 日常生活に支障が出た場合は医療機関を受診する
- 流行地域から帰国時に発熱や咳などの症状がある場合には、念のために医療機関に相談する
中東呼吸器症候群(MERS)の症状
中東呼吸器症候群(MERS)の検査・診断
中東呼吸器症候群(MERS)の治療法
- 主な治療法
- 予防法
- 有効なワクチンは現時点で存在しない
- 石けんでの手洗い、アルコール消毒
- 患者と食器やタオルなどを共有しない
- 感染を周囲に拡大させないためには咳エチケットを行う
- 過去の例では致死率が25-40%とする報告がある
中東呼吸器症候群(MERS)の経過と病院探しのポイント
中東呼吸器症候群(MERS)が心配な方
中東呼吸器症候群(MERS)は、日本国内での感染は2016年現在では一人も報告されていません。名前の通り中東に由来する感染症ですが、2015年には韓国で流行したことが話題となりました。
このような特殊な感染症は感染症科(感染症内科)、もしくは呼吸器内科で診療します。しかし感染症専門医や呼吸器専門医であっても、MERSの診療経験のある医師はほとんどいません。海外の流行地域から帰ってきたばかりであるといったような病歴や病状からMERSが疑われた時点で、大学病院など地域の中核病院に移動して入院治療を受けることになるでしょう。
ご自身がMERSにかかっているかもしれないという心当たりがあれば、まずは受診前に病院に電話で相談されることをお勧めします。経過や症状からある程度疑うことはできても、特殊な検査を行わないとMERSであるという診断はつけられません。病院によっては、そのような感染の疑いがあるという時点で、その施設では対応できないために、他の大きな病院を紹介されるということがあります。
中東呼吸器症候群(MERS)でお困りの方
MERSには未だ特効薬がありません。血圧が下がれば血圧を上げる治療、酸素が足りなくなれば酸素を吸入、といったように全身的な対症療法を行います。致死率の高い疾患ですので、集中治療室(ICU)やそれに準じた部屋で治療を受けることになるでしょう。
MERSは診断がつき次第その場で(あるいはすぐに地域の中核病院へ転院となった上で)治療が開始されますので、どこでどのような治療を受けるかを迷う余地はほとんどない疾患です。逆に言えば、小さな病院では診断の確定や治療が困難な病気であるとも言えます。